表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/676

第十四話 犠牲者


 「マリーさん、

 ・・・今の電話は娘さん、デスか?」


彼女は首だけクルッ・・・と上げて、

 「ごめんね、あたしエミリー!

 またチェンジしたの!」

と、得意げに宣った。

 「エ、エエエエエッ?」


そろそろスティーブの性格にも慣れてきたので、からかってあげたい所だが、さすがにそんな余裕はない。

絵美里は何か武器になるものはないかと、職員室全体を見回し、

恐らく数学の教師のものと思われる机から、

鉄でできた授業用の直角定規を掴んだ・・・。


長さは1メートル・・・、

何故、そんなものを選ぶのか・・・?

絵美里はほとんど意識してはいなかったのだが・・・

やはり、メリーだったころの記憶だろう、

まるで鎌でも持つかのように、

定規の長いほうの端を両手で掴んでいた・・・。

 「スティーブ!

 さっきの懐中電灯の人はこの階の奥よね?

 行って、今の電話の事、話そ!!」


有無を言わせずスティーブの手を腕を引っ張る。

・・・強引に人妻に引きずられて、

スティーブに逆らえるわけがない。

彼はそのまま、後ろについていく形で職員室を出ていった。

 

 「・・・こっちよね!?」

絵美里は一度立ち止まりスティーブの手を放す。

その視線は廊下の奥に向けられたが、

あの懐中電灯の光は見えない・・・。

電話している間に、

階段でも登っていってしまったのだろうか?

大声をあげてもいいが、

万一ヤギ声の男にも聞こえたら・・・。


 「・・・スティーブ、前、歩いてよぉ!」

 「わっ、私がデスかぁ!?」

 「あったりまえでしょ! ホラ早く!!」


・・・廊下には、

非常灯の明かりと、校庭の外からの街灯の光が薄く差し込んでいる・・・。

教室の扉の窓によって遮られる部分もあるので、

歩いていると、

カラダが明るく照らされることもあれば、

陰に溶け込んでしまう場合と交互にやってくる・・・。

それにしても、

さっきの懐中電灯の人はどこにいったのだろう?

もし、この階にいなかったら、

二階に昇るべきだろうか・・・?

そう思っている間に、

二人は廊下の角にまで到達していた。

このまま左に曲がれば、

先程の光が動いていた特別教室のはず・・・。

 

彼女たちの視界には、

特別教室の入り口が映っている。

・・・扉は開けっ放しだ・・・。

そういうものなのだろうか?

多少の違和感を覚えつつ、

もはや誰もいないのではと、一応確認のために中に入ると、

すぐに彼女たちは床に転がる一筋の光に気づいた・・・。


 懐中電灯・・・?

 それが床に・・・!?


絵美里にもスティーブにも、

それが何を意味するかすぐにわかったようである。

二人は薄暗い教室で顔を見合わせる。

暗さのためと、危険を感じるせいか、

二人の距離は自然に近くなった・・・。

スティーブには、互いの心臓の音さえも聞こえるように感じるほどだ。


絵美里が足を踏み出す・・・。

スティーブも男なのだろう、

彼女の危険を案じて、左腕で絵美里の動きを制する。

そして自ら、ゆっくりと、

光の正体を確かめようと歩き始めた・・・。

背中に絵美里の体温を感じる・・・ちょっと嬉しい。

だが、そんな余裕は数秒後には粉々になる・・・。

 

いくつかの机が邪魔だ・・・。

絵美里はスティーブの後ろにピッタリとくっついている。

だんだんと光源に近づき、

・・・この机の向こう・・・  


 !!

スティーブの足が止まった。

彼の顔には恐怖と驚愕が浮かび上がる。

絵美里にも見えた、

机の陰から二本の足が力なく横たわっているのを。

ほんの数秒だったのかもしれないが、

二人の動きは止まっていた・・・。


先に行動に出たのは絵美里だ。

・・・そうとも、

絵美里に麻里・・・、

二人ともこんなもので臆するような過去は持っていない。

定規を握りしめ、

いかなる角度からの襲撃にも備えられるように、

カラダの力を抜き、

ゆっくりと、

その「物体」の正体を確かめんと机の下を見下ろした。


・・・そこには全身、血まみれの中年男性が・・・やはり滅多刺しか・・・

静かに横たわっていた・・・。

 


絵美里はスカートを汚さないように、

膝の後ろに手を入れてしゃがみこむ・・・。

暗くて判らないが、

どうせ、床は真っ赤な血でいっぱいなのだろう・・・。


 「エ、エミリーさん・・・?」

スティーブの声を無視して、

彼女は死体に手を当てる。

やはりまだ暖かい・・・

たった今、殺されたのだ。

絵美里は自分に言い聞かせるかのように、

・・・麻里にも語りかけるかのように、

声に出して一人つぶやいた・・・。


 「・・・殺された時の声は聞こえなかった・・・、

 背中に大きな傷がある・・・

 これが最初の一撃? そして致命傷?

 あとは・・・動かない死体に向かって、

 ただ背中や顔を何度も何度も・・・

 服には鉤裂きみたいな跡がある・・・。」


絵美里はそのまま、

硬直している死体の手から懐中電灯をむしりとる。

直角定規を膝に抱えたまま、

上体をひねりスティーブにそれを差し出した。

 「持って、スティーブ。」

 

 「あ、ああ・・・ハイ・・・!」

彼の手は震えていた・・・。

曲げた腰を戻した時など、

足元すらふらついている。

しょうがないから絵美里は、

立ち上がって彼の腕を押さえてやる。

情けない話だが、

先ほど職員室で絵美里に手を引っ張られた時と言い、

スティーブには、

絵美里の指の感触が生々しく残っている。

・・・若干の快感と共に・・・。

それが、多少なりともスティーブの恐怖心を薄める効果を発揮してくれたようだ。

 「あ、あの、エミリーさん、警察に・・・。」


絵美里や麻里もそれは悩む所だが、

既に死人が出ている以上、それを止める事も憚られる。

無言で対応する絵美里に、

スティーブは持っている携帯で警察に電話をかけた。

・・・だが。


 「・・・もしもし? もしもし!?

 ヘァロー!? ・・・シィット!!」


絵美里は振り向いて眉をしかめる。

 「・・・スティーブ?」

 「・・・だめデス!!

 何か雑音が酷すぎテ・・・

 電波の状態表示は良好なノニ!?」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRoid版メリーさん幻夢バージョン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ