第十三話 焦燥
ブックマークありがとんです!!
・・・二人の視界に小さな光が飛び込んできた。
窓の外だ。
校舎は”鉤括弧”型の建物で、
職員室の先をずっと行くと、途中で折れ曲がっている。
職員室の窓際に寄ると、
その先の教室(特別教室)が見えるのだ。
今の光は、
その教室から一瞬こちらを照らしたようだった。
「・・・懐中電灯・・・、
見回りに行ってたみたいデスね?」
「あたしたちのことも見られた?」
「どうでショウ?
光は一瞬でしたし・・・、
たまたまカラダの向きを変えたときに、
こっちを照らしたんではナイでしょうか?」
「・・・とにかく、今の人は守衛さんか先生よね?
行ってみましょう?」
「ハイ、そ、そうしますカ・・・。」
スティーブは自信がなさそうだった。
外人の自分が、
身内がいるわけでもない学校に訪ねて、
職員に怪しがられないわけがないと、内心ビクビクしていたのだ。
とはいえ、麻里の前で気弱な姿を晒すわけにもいかず、
やむなく先陣を切って部屋を出て行こうとした。
リン・・・!
麻里とスティーブは後ろを振り返る。
たった今、
誰もいないことを確認した職員室から金属音が・・・。
リリリリリリリリン!
電話・・・?
リリリリリリリリリン、リリリリリリリリリリン
二人は顔を見合わせる・・・。
こういう場合、
部外者は電話にはでないものだろう。
だが、
4~5回目のコールの後、
麻里は何も考えずに電話をとってしまっていた・・・。
「・・・もしもし?」
だが、その時聞こえたのは、
忘れようのないあの、羊かヤギを思わせる乾いた声・・・。
『・・・ンェェェッ・・・』
その瞬間、麻里の背中に冷たいものが走る。
『・・・メリィさぁぁんっ、見つけたぁっ!!』
「ひゃぁっ!?」
あまりのショックに麻里は受話器を落としてしまう。
「ど、どうしまシタ!?」
慌ててスティーブが、
床に転がった受話器を拾い上げて、それを耳に当てる・・・。
ヤギ声のセリフはスティーブの耳にも同様に聞こえた、
『・・・メリーさんのいくところ、
ぼくはどこでもついていく!
ついていく! ついていく!!
アハハハハハッ
・・・いま、そこに行くよぉっ!!』
男のスティーブでさえ、
あまりの気味の悪さに顔が青ざめている・・・。
電話はすぐに切れてしまったが、
二人は顔を見合わせる事しか反応できない。
「い、今のが・・・もしかシテ・・・。」
「こないだも家にかかってきたわ、
今の声・・・、その時はすぐに切れちゃったけど・・・。
ねぇ、スティーブ、何て言ってた・・・?」
スティーブは受話器を置いて、
自信なさそうに視線を落としてつぶやいた。
「・・・あれは・・・
『メリーさんの羊』のアレンジかも・・・
音程はつけてなかったケド・・・。」
「? ・・・前もそんなこと言ってたわね?
その時は別の歌だったんでしょ?」
「・・・デスが直接聞いたわけではないので・・・、
それより・・・こっちに来るって言ってマシタ・・・!」
冗談じゃない・・・!
にわかに危機的状況が現実なものになってきた。
相手は電話先が、この学校だと知っててかけてきたのか?
偶然いまこの時に!?
麻里はすばやく携帯を取り出して、
麻衣と連絡を取ろうとする・・・!
・・・その麻衣からメールがいつのまにか入っていた・・・。
時刻はちょうどスティーブと出会った頃だ。
・・・そういえばマナーモードにしてたっけ・・・。
メッセージの内容は、
麻里たちを心配している内容だったが、
現状は、それよりさらに切迫したものである。
麻里は電話をかけた・・・。
・・・もっとも、この段階では、
絵美里のほうが興奮していたようだ。
”マリー! あたしが出る出る!!”と譲らない・・・。
状況は絵美里も当然、理解しているので、
ここで主導権をめぐって争ってもしかたがない。
麻里は素直にカラダを明け渡した。
・・・目をつぶった後、
選手交代・・・チェーンジ!!
ちょうど、そのタイミングで麻衣が出る。
『・・・もしもし!?』
「もしもし! 麻衣ちゃん!?
連絡遅れてごめんなさい!
今、あなたの学校にいるの!
あのね?
スティーブに呼ばれたんだけど、学校の中にあの男がねっ!?」
絵美里はそこまで言いかけて、
電話先の麻衣の慌てぶりに気がついた。
『もしもし・・・絵美里ちゃん?
今どこ? 無事なの!?』
・・・まるでこちらの声が聞こえてないようなのだ。
「・・・? あたしの声聞こえる!?
こっちは麻衣ちゃんの声がわかるけど・・・!」
ダメだ・・・!
麻衣にはこっちの声が聞こえてないらしい。
その後も絵美里は、
自分たちが学校にいること、
そこにあのヤギ声の男が近づいている事を受話器に向かって叫んだが、
やはり麻衣に聞こえている気配はない。
やむなく絵美里は電話をあきらめた・・・。
・・・でも麻衣ちゃんなら、
あたしたちがここにいることを透視できるかも・・・。
それは普段なら十分考えられる事だったが、
今、なぜか学校そのものが麻衣には透視できない状況にある。
もちろん、絵美里も麻里もそんな事を知る術はない。
・・・ただ、麻衣はその時、
全く別のカタチで・・・絵美里達が学校にいることを確信していた。
奇妙な電話の混線・・・、
偶然じゃない・・・なにか想像すら出来ない誰かの意志を感じて・・・。
だが・・・、
いま、絵美里達はもはや、
麻衣に知らせるどうこうの段階ではない。
とりあえず、校舎内にいるさっきの見回りの人と合流しよう・・・、
人が多くなればそうそう、襲ってこないだろう。
受話器を置いた絵美里に、
スティーブが不安そうに話しかける・・・。
んえええ!
という叫び声の人はあくまで現実的に追っかけてきます。
困るのは、
それにさらに非現実的な現象が時々起きていることで。
まあメリーさん自体が非現実的なんですから今更なんですけども。
一応謎の存在の正体と能力はこの後明らかにしていきます。
もちろんこれまで述べてきた世界観に沿ったものですので、
物語当初から述べてきたラスボス的存在との関係性を想像するのも面白いかもです。