第七話 ナンp・・・じゃなくて調査
翌日・・・事件現場の近所は騒然となった。
警察のパトカーが何台も停まり、
立ち入り禁止のロープが張られる。
この手口は東京西部ですでに8件目となっていた。
・・・しかも最近はエリアが集中してきた様でもある、
まるでだんだん目的地に迫ってくるかのように・・・。
麻里と絵美里は、
野次馬のようにこの騒ぎを見物に来ていた。
といっても、もちろん興味本位などではない。
ことによるとこれらの事件は、
自分たちとも繋がりがあるかもしれないからだ・・・。
もっとも、見に来た所で何らかの手がかりも得られるわけもない。
今の麻里&絵美里は一応普通の人間であるわけだし。
とは言え、絵美里が、
何度か現場検証してる捜査員に話しかけようとするのを、
麻里は必死で抑えることもある。
・・・この一人プレイは端からどう見えるんだか・・・。
案の定、
周りの人間の注目を浴びてしまったので、
麻里が強引にカラダの主導権を握り、
恥ずかしそうにその場を離れようとした時だ、
彼女たちは、ずっとこっちを見続ける一つの視線を感じた・・・。
恐る恐るそちらを振り向くと、
一人の外人がこちらを覗いている・・・。
まだ若そうだ・・・。
Yシャツにスラックスのその外人は、
彼女達と視線が合ったのに気づくと、おどおどしながら近づいてきた・・・。
「あ、あ~・・・。」
「はぁい?」
今度は絵美里が応対する。
普段だと、初対面の相手には麻里が応対するのだが、
さっき麻里に、
自分の登場をさえぎられてしまったために、
今度は自分の番だとでも言いたいようだ。
二人は相手が外人だろうと、気にもしない。
それは当然だ、
麻里も絵美里もヨーロッパ育ちなのだから。
その気になれば、
英語だろうがドイツ語だろうが(かなり古めかしい言葉遣いだが)自由に操れる。
ここでは当の相手は、
日本語を使おうとしているみたいなので、
それにあわせてあげるけど・・・。
さて・・・男はそのまま言葉を続けた・・・。
「あー、私、スティーブと言いマス、
あなたはぁ神の存在をー信じマスかぁ?」
なんでこんなところで勧誘行為を行うんだ?
普通の人間ならそう突っ込むところだろうが、
いまだ絵美里&麻里にはそこまでの現代人感覚はない。
「神様? 信じてるよー?」
絵美里は真面目に受け答えしてしまう・・・。
「おお! それは素晴らしいことデス。
良ければ私とお話しませんカ?」
「いいーよー?」
と言いかけた所で、麻里が絵美里を遮る・・・。
・・・以降、心の中でのやりとり・・・。
”ちょっと、エミリー!
ダメよ、知らない人についてっちゃダメって、
パパさんや麻衣ちゃんに言われてるでしょ!?”
”ええーっ、でもこの人、
そんな悪そうじゃないよ、マリー・・・?”
”あのね、この人に悪気はなくても、
厄介ごとは極力避けるのっ。
とくにナンパや勧誘とかで騙されるってよくあるのよ?
あなただって昔、悪い人に騙されたんでしょう?”
”う~ん、そっかぁ~・・・”
さすがはしっかり者の麻里、
好奇心旺盛の絵美里をうまく説得する。
結局、絵美里は表の顔でスティーブの誘いを断ろうとした。
「・・・ごめんなさい、
家に帰らなきゃいけないの・・・。」
だが、スティーブはこんなことを言う。
「あ、ああー、待ってくだサイ、
あなたからは不思議なオーラを感じマス!
・・・もしかして、
この事件になにか心当たりがあるのではないデスカ!?」
「!?」
彼の意外な一言は、
麻里&絵美里の足を止めた・・・。
「あなた、誰・・・!?」
「わたしは神の教えを広めルただの宣教師デス、
これらの忌まわしい事件を止めたいと思ってるのデス、
協力してはいただけないでしょうカ・・・?」
果たしてこのスティーブという外人は何を知っているのか?
麻里&絵美里は彼の話を聞いてみる事にした・・・。
事件現場近くのファミレス・・・
このあたりなら顔見知りに見られることもないだろう。
一応、このカラダは、
主婦である百合子のものなので、
近所の人間に見られたら、
それはそれでややこしい噂も立ちかねない。
麻里はそういうことや、
周りの目を気にしながら、カラダの主導権を絵美里に任せ、
自分は警戒や周りの観察に専念することにした。
そして絵美里はいきなり核心に迫ろうとする・・・。
「お兄さんは、この事件になんの関係があるの?」
話の順番を無視する唐突な質問に、
スティーブは戸惑いながら、
なんとか不自由な日本語を頭の中で組み立てて答えようと努力した。
「・・・えっとデスね、あー、どうしよう・・・、
神の教えに反する行為を止めたいって言うのが・・・
表向きの理由なんデスが・・・、
私の友達が狙われているかもしれないんデス。」
・・・彼もバカ正直だ・・・
何も考えていないのかも・・・。
だが、ヘタに口実を考えるより、
麻里&絵美里には受け入れやすい答えだった。
「女の子?」
「は・・・はい・・・。」
「可愛い子?」
「そ、そうデス・・・ベリープリティ・・・。」
「その子のこと、好きなんだぁ?」
「え・・・や、そ、その・・・ハイ・・・。」
”エミリー、からかっちゃかわいそうよ!”
・・・と麻里・・・。
「(ちぇ~・・・)なんでその子が狙われてると思うの?」
「狙われているのが・・・『メリー』だから・・・デス。」
絵美里の目が見開いた・・・、
もちろん麻里にしても驚きは同様だ。
何の関係もない人間なら、
このスティーブの言葉に反応するはずもない。
彼女達の反応は、
まさしく彼女達がメリーの関係者である事を示すものだ・・・。
そしてスティーブにもそれが判った・・・。
「やはりあなたも・・・!?」
絵美里は大げさに手を振って否定した。
「ちっがうよー、
ただ、知り合いにそーゆー名前の人が・・・」
と言いかけて麻里がストップをかけた。
・・・考えてみれば、
なんでこの男はそんなことまで知っているのだ?
ニュースなどで「メリーが狙われている」なんて報道されている筈もない。
・・・まさか!?
途中まで言いかけた絵美里の言葉に、
スティーブは身を乗り出す。
「そ、その方には会えるのデスか!?」
「え? ううん、行方不明・・・。
でもどうしてあなたがそこまで知ってるの!?
あなた、もしかして・・・!!」
絵美里にもすぐに麻里の懸念が伝わった、
この外人がもしかしたら、
一連の犯罪の関係者か・・・ヘタをすると実行犯か・・・!?
絵美里の反応で、
スティーブはすぐさま自分が疑われている事を察知し、
彼もまた手を振って思いっきり否定する。
「ととと、とんでもありまセン!
え、えと、その、じ、
実は私の知り合いが、ある職業柄、
偶然、この事件の情報を手に入れて・・・。」
「・・・どんな職業よ・・・?」
「あ、あ、えーそのー、
こーる・・・がー・・・る ゴニョゴニョ・・・。」
「こーるがーる?」
絵美里は、言葉の意味が判らず怪訝そうな顔をしつつ、
同時に心の中で麻里に問いかけた。
”ねぇねぇマリー、こーるがーるって何?”
”そ、それはー、アレよ、
男の人と一緒に寝てお金を貰う女の人の事よ・・・!”
”・・・それって、いやらしいことをする人のこと・・・?”
”・・・そうよ・・・!”
基本的に麻里と絵美里は、
同じカラダを共有しているので、
外界からの情報は同時に記憶しているはずだ。
だが、その情報の意味や解釈はそれぞれ、
独自に行っているので、しばしばこういうことがある。
絵美里はそして、
汚いものでも見るような目でスティーブをにらんだ・・・。
「うわ、・・・やっらっしぃ~・・・!」