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第六話 その日の夜

 

 『だーかーらー、

 そのお兄さんがすっごいかっこ良かったの!』

 「なつきちゃーん・・・、

 それ、もう4回目ぇ・・・。」


なつきちゃんは帰宅して、麻衣と電話をしているところだ。

麻衣としては、

彼女が変質者から無事に逃げられた事を喜んであげたいのだが、

当のなつきちゃんは、

そんなことはどうでもいいらしい。

 ・・・のんきすぎるっ。


それにしても、

あの場にいったい誰が現れたと言うのか?

遠隔透視ではそんな人物などなつきちゃんの近くにはいなかった筈なのに。

麻衣には全く見当もつかない。

 「それで、そのかっこいいお兄さんて、

 急にいなくなっちゃったの?」

 『そぉなのよぉー!!

 この辺の人じゃないって言ってたけど、

 また会いたいぃー!』


だめだ・・・

当分なつきちゃんからは、これ以上、会話が進展しない・・・。

とりあえず何事もなかったことだけで満足しよう。

電話を切ると、

食事の仕度をひと段落つけた麻里が話しかけてきた。

ちなみに麻里は料理が得意だ。

現代調理器具に馴れた今では殆どの食事は彼女が作る。

 

 「やっぱりダメ?」

 「・・・うん・・・もう、

 わかんないことだらけ!

 あの変質者もどこに行ったんだか・・・?」

 「麻衣ちゃん、

 ママには連絡しないの・・・?」


ママとは言わずと知れた百合子のことである・・・、

大昔に作られた人形に転生した・・・。

麻衣はその言葉を聞いて、

・・・目の前の母親のカラダにゆっくり抱きついた・・・。

今や母親のカラダではないとは言え、

せめて昔を思い出して甘えたいのだ・・。

麻里も、そこのところは十分すぎるほど理解できる・・・、

黙って麻衣の頭を撫でてあげた・・・。

リーリトの一族は自立心が強いが、

まだ麻衣は子供なのだ・・・。

麻衣はゆっくりと、

優しい目をした麻里を見上げる。

・・・ママとは違うが、柔らかい眼差しだ・・・。


麻里にも生前、エルマーという弟がいたし、

永い間いろいろな人間の負の感情に晒されてきた・・・。

そしてその分、彼女は誰よりも優しく、

他人の心を受け止めることが出来るのだ。

 

 

 「・・・実はね・・・。」

麻衣は見上げながら麻里に話しかけた・・・。

 「うん?」

 「この事件がニュースになってから、

 ママには連絡してあるの・・・、

 こないだ、麻里ちゃんが変な電話を取ったときも・・・。」

 「それで・・・ママはなんて・・・?」


麻衣はカラダを放して、

ゆっくりとダイニングのイスに座る。

 「・・・麻里ちゃんや絵美里ちゃんはわかると思うけど・・・、

 ママはもう、あのお人形のルールどおりにしか動けないんだって・・・。

 殺された人たちの感情は、

 恐怖と驚愕が大きいけど、

 時間的にはほんの一瞬で・・・、

 お人形のカラダが動くほどのエネルギーが溜まらないんだって・・・。」

 「・・・じゃあもし、

 その変質者がママと直接会うことになっても・・・。」

 「うん・・・今の状態じゃ、

 ほとんど力が出せない・・・、

 もっと、憎悪とか・・・無念さとか・・・怒り・・・悲しみがないと・・・。」


改めて、人形の業の深さが感じられる言葉だ。

麻里は、

湖から引き上げられた時からと計算しても、

百数十年もその感情を身に受けてきたのだ・・・。

 

 「・・・あ。」

麻衣は思い出したかのように、

電話機の近くの住所録を広げた・・・。

ハ行に名刺が貼ってある。

・・・日浦総合リサーチ・・・。


 正式な依頼ならお金が必要かもしれないし、

 パパにもわかっちゃうだろうけど、

 相談だけなら・・・。


麻衣は勇気を奮い起こして電話をかけてみた。

「赤い魔法使い」の事件の後始末以来、

日浦のおじさんとは会う機会はない。

パパは時々連絡してるのだろうか?


 ・・・トルルルルル、トルルルルル、トルルルルル・・・、

誰も出ない・・・、

留守番電話にすらならない。

もうこの時間では誰も営業所にはいないのだろうか・・・。

麻衣は諦めて電話を切った。


・・・実は日浦はこの時、

騎士団から緊急招集を受けて、

既に日本にはいなかったのである・・・。

彼もまた、騎士団内部で、

かつてないほどの苦境に陥っていたのだ・・・。

 


そして・・・、

麻衣やなつきちゃんの家からそう遠くない東京西部の郊外で、

また今夜も事件は起きてしまった・・・。


その女性が、アルバイトから誰もいないはずの自宅に帰ったとき、

部屋の扉を閉め、鍵をかけた瞬間、

異様な雰囲気に襲われた・・・。

 ・・・なに、この匂い!?

慌てて、電気をつけると、

ワンルームの自分の部屋が荒らされているのを目撃してしまう。

 「・・・やだ! 泥棒!?」

洋服ダンスの中身がぶちまけられてるし、

食器や調理器具がキッチンに散乱してる。

金銭目的か、それとも下着ドロか?

急に女性はパニックに襲われたが、

とりあえず判断したのは、

この部屋に泥棒がまだ残っているのか? 

・・・ということ。


 ざっと見渡す所、隠れている気配はなさそうだけど・・・。

 どっから出てったんだろう、窓かな・・・!?

それだけ確認すると、

次に警察を呼ぶことを考え付いた。

おぼつかない手で携帯のボタンを押す・・・。


 えーと・・・市外局番から押すんだっけ・・・?

 ぜろ・・・よん・・・


その時!

携帯の着メロが鳴った。

 ・・・こんな時に誰!?

誰かはわからなかったが、

彼女は反射的に電話に出てしまう・・・。

 「もしもし!?」

多少、焦りとイラツキを隠さず電話に出た彼女に、

あの・・・甲高いヤギのような声が語りかけてきた・・・。


 『・・・もしもし・・・君メリーさん!?』

 「ハァ? 間違い電話ですよ!」

 『間違いじゃあない!

 君こそメリーさん!!』


  ドバァーン!!

部屋のクローゼットが突然開いた!!

 「あああ!! 毛皮だ!!

 メリーさんの毛皮を刈るんだぁぁぁぁ!!」


 きゃああああああああああッ!!   


 ザクッ ザクッ・・・!!

 


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