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第四話 事件は起きず

今回は久しぶりに話の途中に画像入りです。

 


 「・・・メリーさん、

 メリーさんの毛皮・・・、

 毛皮・・・毛皮・・・。」


コートの男は、

嬉しそうにぶつぶつつぶやきながら、

なつきちゃんの方へかがんだ・・・!

コートのポケットから細い・・・骨ばった左腕がゆっくりと伸びてくる。

もはやなつきちゃんは一歩も動けない。

 「・・・やぁ・・・イヤアアア!」


・・・男は右半身を引いている・・・、

右腕もポケットの中だ・・・

まるで大事なものでも隠しているかのように・・・。

一方、その左腕は、

なつきちゃんのツインテールにされた頭をガシッと掴もうとする!

 「ヤダァァ!!」

外れた!

必死に頭を振り回し、その掌をほどいたまではいいが、

この状況では時間稼ぎにしかならない。

ところが、今一度前方を、

わらにもすがる勢いで首を戻した時、

一人の小柄な少年が目の前に立っていた・・・。

いつの間に!?

 「・・・た、たす けて!

 助けてください!!」

 

ほんの2~3メートル先にいるこの少年は、

この状況にも驚いている気配がない。

 でも・・・華奢な体格のこの人に、

 自分を助けてくれる事が出来るだろうか?

 ・・・ヘタをすると二人とも・・・。

 でもいま、自分を助けれる位置にいるのはこの人しかいない!


彼女は必死になって、

この高校生くらいの少年の下へ近づこうとした。

 お願い! 行かないで!!


だが少年はこの異様な状況を理解していないのだろうか?

涼しく笑いながら、

なつきちゃんのほうに近づくと、

その倒れこんでいる彼女の頭を優しく撫でた。


・・・その時、背後で突然、

狂おしいほど気味の悪い叫び声があがる。

 「メリーさぁん!?

 どこだぁぁぁ!? どこへ行ったァ!?」


今度は何事かと、

なつきちゃんがまた後ろを向くと、

コートの男は既に自分を見ておらず、

何かを見失ったかのように、せわしなく頭を振り回していた・・・。

 自分はここにいるのに?


この事態を呑み込めないでいるなつきちゃんの後ろで、

きれいな顔した少年が、

ゆっくりと彼女に話しかけてきた。

 「・・・もう大丈夫、

 彼には僕らが見えていない・・・。」


そして、

彼女の姿を見失ったのはコートの男だけではない。

状況を遠隔透視していた麻衣にしても、

なつきちゃんの姿が、

その透視能力から捕捉できなくなってしまっていたのだ・・・。

 「・・・もしもし!?

 なつきちゃん!? どこにいるの!?」


・・・すでに携帯はなつきちゃんの手の中にない・・・。

こんなことは初めてだ。

かつて結界に閉じ込められたレディ メリーすら発見できた麻衣の能力が、

まるで一切の効力を失ってしまったかのようだ・・・。

いや、相変わらず不審者と、

さっきまでなつきちゃんがいた辺りの様子はぼんやり視えたままだ。

能力そのものは問題ない。

なつきちゃんだけがどこにいるのか分からない。

透視の照準を不審者に合わせてもいいのだが、

会った事もない人間に合わせても精度が落ちるし、何より怖すぎる。

・・・万が一だが、

相手にテレパス系の能力があれば、

こちらの正体までばれてしまう。

それはなんとしても避けたい。

 


そのうち現場では、

すでにヤギ声の男が泣き叫ぶような声をあげ、

人間とは思えぬスピードでその場を走り去ってしまっていた・・・。

 「メリーさぁん!

 どこにいるんだよぉおおぉぉォ ォ ! ?」


通りでは一時騒然としたが、

結果的に何の事件も起きた訳ではなく、

次第に辺りは沈静化していった・・・。


 「ほら?」

なつきちゃんの目の前に、さっきの少年が手を差し出す。


挿絵(By みてみん)



なつきちゃんは、

少年の細くて綺麗な手を握り締め、

ようやく自分が助かった事が理解できた。

少年は静かに微笑む。

 「立てる?」

 「あ・・・ありがとうございます!!

 助かりました・・・あ。」


改めて少年の顔を見たなつきちゃんは、

その少年の端正な顔に、

あっというまに引き込まれてしまった。


 ・・・きれい・・・!

 身長は160~165?

 確かに背は高くない・・・、

 でも目がキラキラして(なつきちゃんビジョン)、

 顔つきもハーフっぽい・・・、

 服装は今風ではないけれど、

 かといって清潔感よく着こなしていて・・・

 こう・・・シックなカンジ?


何より美形だ! 

肩まであるグレーがかった髪、小さい顔・・・涼しげな口元・・・。

なつきちゃんは引っ張りあげられた力を利用して、

 「きゃ(ハート)!」

と黄色い声で少年の腕にしがみつく。

麻衣ちゃんだったらこんなリアクションはとれないよね?

 

なつきちゃんは、

少年の胸に必要以上に近づいて、

うるうるした瞳で少年の顔を見上げた。

 「あ、あの・・・!

 なんとお礼を言っていいか・・・!?」

 「気にしなくていいよ、

 ・・・たまたまだし・・・、

 それより帰り道は気をつけるんだね。」


少年の反応は思ったよりそっけなかった・・・。

表情は柔らかいままだが、

少年の澄んだ瞳は何の感慨もなさそうである。

 肩ぐらい抱いてくれてもいいのに・・・。

やむなくちゃんと立って、なつきちゃんはカラダを離さざるを得ない。

制服の汚れをはたきながら、

なつきちゃんはもう一度アタックしてみる。

 「・・・あ、あの改めてお礼したいんですけど、お、お名前は・・・?

 学校はどこの人なんですかぁ?」

・・・でもやっぱり少年はこっちに興味がなさそうだ・・・。

くすん。

少年は彼女の質問をスルーして自分の左手を見せた。

そこには見慣れた携帯電話がある。


 「これ、君の携帯でしょ?」

 「あ! そ、そうです、すいません!」

 


 ・・・いつのまに?

少年の手の中にあった携帯は、

まさしくなつきちゃんのだ。

 ・・・自分がコートの男に振り向いてた時に拾われたのかな?

そんなことを考えているうちに、

少年は先ほどの問いに答えてくれた。

 「僕はこの辺の者じゃないからね、

 お礼も必要ない、

 ・・・それより、君の友達が心配してるんじゃないのかい?

 早く連絡してあげたら?」


あ、そうだ!

麻衣ちゃんが電話してきてくれたんだ!


・・・と言っても通話はすでに切れていた。

 どうしよう、今はこの人と・・・アレ?


・・・なつきちゃんが顔を携帯から起こしたとき、

彼女の前から少年は姿を消していた・・・。

なつきちゃんは顔をきょろきょろ動かすが、

彼の姿はどこにもない。

 アレェ・・・!?


・・・一方、麻衣の透視映像には、

再びなつきちゃんの姿が映し出されていた・・・。

まるで夜空のお月様が、

今まで雲にでも覆い隠されていたかのように・・・。

そして夜は更けていく。

 

皆さま、覚えてらっしゃいますか?

そうです、外伝「白いリリス」(大学時代にサークルの機関誌用に書いたもの)に登場した「少年」です。

パラレルワールド扱いなので、

リリス(リーリト)さん達ともども設定がやや異なっています。



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VRoid版メリーさん幻夢バージョン
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