第三話 なつきちゃんの危機
今回登場のスティーブくんは「デリヘルメリーさん」に出演したモル〇ン教の宣教師さんです。
「メリーさぁんッ!!」
「・・・ああッ! だめぇっ!
ハァンッ・・・!!」
・・・はぁー、はぁー、はぁー、はぁー・・・
ぜー、ぜー、ぜー、ぜー、
「オゥ、メリーサン・・・
今日も素晴らしかッタです、福音を感謝シマス・・・。」
「・・・ステイーブもすごいうまかったよ・・・、
今夜も呼んでくれてありがとね?」
デリヘルメリー・今日子の数少ない顧客、
モ○モン教徒のスティーブがベッドに横たわっている。
「実はさぁ、スティーブ、
ちょっと頼みごとがあンだよね?」
「オゥ・・・?」
彼は首だけ動かしてメリーさんを見る。
こんなことを宗門の他の人間に知られれば、
破門されてもおかしくない。
だが、
アメとムチを巧みに使い分ける今日子に、彼が逆らえる事はない・・・。
「最近、若い女の子が斬殺される事件が増えてんじゃん?
どうも、メリーさんを狙っているヤツの仕業みたいなのよ・・・、
被害者はとばっちりで殺されたのか、
あたしたちをおびき寄せるつもりなのかは判らないんだけど・・・。」
「おおぅ、なんと恐ろしい事が・・・、
神はお許しにならないでショウ・・・、
それで私に何を・・・?」
「なんだかんだで、
あなたたちの拠点て日本中にあるんでしょ?
適当な理由つけて情報を集めらんないかなぁ?
事件は西東京中心だから、
エリアはそう広くとる必要はないと思うけど・・・。」
「・・・不審者情報・・・デスカ?」
「例えば勧誘する時に、
それっぽい人間に声をかけるとか、
会話に『メリー』の単語を入れるとか・・・、
やれることは多いと思うの。」
「しかたがありまセーン、
あなたのためにやってみマス!」
今日子は布団の中に一度潜ってから、
再びスティーブの顔の近くに現われて、
チュッ、・・・と湿ったキスをした。
「ありがと、スティーブ・・・!」
「なつきちゃん!!」
麻衣が大声を上げた!
突然の叫び声に絵美里達もビックリしたが、
事の重大さは彼女達にもすぐにわかった。
「・・・麻衣ちゃん! まさか!?」
・・・麻衣は瞑想を解くと、
今にも泣きそうな顔で絵美里たちを見上げた。
「なつきちゃんが危ない・・・!
変な人があの子の後を追いかけてるっ!」
どうすればいい?
警察になんて話せば?
パパに連絡したって間に合わない!
麻衣は携帯を持ってないが、
なつきちゃんは持ってたはずだ、
急いで電話番号を書いた手帳を引っ張り出して電話をかける・・・。
トルルルルルル、トルルルルルルル・・・
まだか・・・。
呼び出し音がやけに長く感じられる・・・。
後ろで絵美里が騒ぎ出す。
「麻衣ちゃん、あたし達が助けに行こうか!?」
そんな無茶な!
受話器を持ったまま、麻衣は慌てて振り返る。
「・・・ダメ!
今の絵美里ちゃんたちは普通のひとよ!
危険が大きすぎる!」
その時、麻衣のクラスメイトであるなつきちゃんが電話に出た。
『もしもしー?
麻衣ちゃーん? どしたのー?』
なつきちゃんの声からは危機感など何も感じない。
「・・・あ、えっと・・・(どうしよう?)あ、あのね?
さっき事件があったんだって!
変質者がこの町に出てまだ捕まってないの!
すぐに家に帰って!
走るかタクシー捕まえるか、
なんならコンビニに走りこんで、
家の人に迎えにきてもらって!?」
『ええー? そうなのー? こわーい 』
のんきに聞き返すなつきちゃんに、
麻衣は大声で怒鳴って言う事を聞かせようとする。
もし、これが原因で仲が悪くなったって、そんなことは大した事じゃない。
『わ、わかったよー、
次の角にコンビニあるから、そこに寄って・・・よ』
電話口で、なつきちゃんの言葉が何かに遮られた・・・。
まさか!?
『キ ャ ア ア ア ッ!!』
・・・麻衣となつきちゃんは小学校が同じである。
とは言っても、
クラスは今まで一緒になったことはないので、
仲良くなったのは中学で同じクラスになってからだ。
もともと、
リーリトの血を引いている麻衣は、
あまり友人が多い方ではない。
リーリト達は、
概して13~5才でその一族たる事を自覚するので、
ちょうど一般の人間の思春期の時期に、その人格が確立する。
しかし、寿命が人間をはるかに上回る分、その肉体面ではまだ幼さを残す。
普通の人間の因子が極めて大きい麻衣も、
その点は大差ない。
麻衣と、他のリーリト達の異なる点はその精神性だ。
社交的ではないのは同様だが、
取り立てて自分のカラに閉じこもったり、
排他的な性質を持たないのだ。
・・・もちろんそれは、
既に自分がリーリトである母と、一般の人間の父の中間にいる存在だと、
麻衣なりに理解したうえでの生き方と言えよう。
なつきちゃんにしても、「親友」というほどでもないが、
普段一緒に遊んだり、行動する仲良い友達だ。
どちらかというと、麻衣とは逆で、
なつきちゃんは活発で背伸びしたがるお年頃の女の子だ。
携帯で出会い系サイトを覗いてみたり(まだ行動に移れるほど勇気はない)、
時々、渋谷にも遊びに行く。
来年だと二人の仲はどうなっているか・・・?
とにもかくにも、
学校内では二人は共に長い時間を過ごしているのは間違いない。
ましてや、尋常ではない過去を経験している麻衣に、
この友達の危機を見過ごせるはずもない。
・・・だがこの状況で・・・
いったい、麻衣に何ができると言うのか・・・!?
リーリト?
メリーとなった母の娘?
でも、自分はただのちゅーぼーだ・・・。
頭の中に声が響いてくる・・・。
・・・「麻衣、
リーリトは自分の命を守ることしかできないのですよ・・・
他人の命を救うなんて大それた考えはお止め・・・ 」
おばあちゃん・・・!
一方、当のなつきちゃんは、
まさにその危険な状況に陥ってしまっていた。
麻衣と電話をしている最中、
背後に何かを感じ、反射的に後ろを振り返ったときだ、
・・・!
そこにいた。
ヤツがいた・・・!
1メートル後ろから、
自分の姿を嬉しそうに見下ろす得体の知れない男が・・・!
まだ秋の始めだと言うのに、
全身を覆う長いコート・・・
裾から脛毛の生えている素足が覗いている・・・、
靴下も履いていない・・・。
いや、そんなことより、
無精ひげをはやしたこの男は、
今にも自分に向かって手を伸ばしてきそうだ!
これがたった今、麻衣ちゃんから聞いた変質者!?
「キャアアアッ!!」
驚愕と恐怖の感情が彼女に湧き上がる!
反転して角のコンビニに逃げようとするが、
慌てて携帯を落っことしてしまう。
あっ、ケータイ・・・
で、でもそれより逃げなきゃ・・・
うそ、あ、足が動かない!
誰か! 誰か助けて!?
急激な恐怖に晒されて力が入らない・・・
足がもつれてその場にペタンとしゃがみこんでしまう。
腕だけが自由に動くが、
バタバタ這うだけで大して進めるわけもない。
視界に数人の通行人が見える・・・
彼らは、なつきちゃんの悲鳴に気づいてはいるが、
あまりの突発的な出来事に指一つ動かせる気配はない。
なつきちゃんは、
背後・・・いや、まさしく彼女の頭上で、
乾いた・・・ヤギのような笑い声を聞く・・・。
「ンェェェエエェェェェッ!」
次回、新キャラ登場?
いえいえ、既に「彼」は過去作品に登場してます。
名前は不明のままでしょうけど。