第二話 接近
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トルルルルルルル・・・トルルルルルルル・・・ガチャ
「はい、伊藤です。」
『・・・・・・。』
受話器からは何も聞こえてこない・・・。
「・・・もしもし?」
電話に出た女性は訝しがりながら、
無言の電話の相手に聞きなおした・・・。
「・・・あのぉ・・・、」
『もしもし・・・君メリーさん?』
ようやく相手の男の声が聞こえてきた。
だが、その発言は突飛であり、
声質も普通には考えられないぐらい高い・・・。
電話に出た女性・・・
麻里は眉間にしわを寄せながら応対しようとする。
・・・とっとと切ればいいのに。
「あのー、私メリーじゃくてマリーなんですけど・・・。」
『・・・メリーさん、マリーさんじゃあダメだ!
メリーさんだよねぇ?』
「あたしはエミリーです!」
こっちはこっちで突然女性の方の口調が変わった。
人格チェンジである。
普通なら相手側も戸惑うだろう。
『・・・・・・。』
実際、その相手も次の反応に移れなかったようだ。
ガチャ・・・!
プーッ、プーッ、プーッ・・・
「・・・変なの?」
絵美里は首を捻りながら受話器を置いた。
そばで、
制服に身を包んだ女の子が声をかける・・・。
「なに? 間違い電話?」
「えっとね、
ヤギみたいな声の気持ち悪い電話、
『君メリーさん?』だってさ!」
中学生になった麻衣は、
気味悪そうに肩をすぼめた・・・。
「なにそれぇ?
変な人が多いから気をつけてね、
絵美里ちゃん、麻里ちゃん。」
二つの名前を呼ばれた女性は、
甘栗色に染めた髪をいじりながらテーブルに戻る・・・。
「うーらーらー。」
・・・口癖も相変わらずらしい・・・。
トルルルルルル、トルルルルルルル・・・ガチャ
「お電話ありがとうございます、
ヌルヌルねばーランドです!」
新宿二丁目でも十分通用する、店長のハスキーボイスが電話に出た。
『・・・もしもし?
君・・・メリーさん・・・?』
こちらもハスキー・・・とはまた違うがヤギのような甲高い声だ・・・。
・・・彼も電話口の相手に面食らっている。
「・・・?
え・・・と、ご指名でございますか?
お客様は当店のご利用は初めてで?」
『ンェェェェェッ!
メリーさんがいるんだぁぁッ!?』
・・・相手はいきなり狂乱状態だ・・・。
さすがに店長も、
このヤバさは危険と判断した。
・・・それに・・・。
「・・・あのー、メリーちゃんは退職しました、
他の子はいかがですか?」
『嘘だぁッ! メリーさんを出せぇッ!!』
「なんなら私ではいかがでしょう?
アブノーマルなプレイもオッケーですが?」
『違うぅぅ!
お前はメリーさんじゃないぃぃ!!』
ガチャッ!
・・・電話は切れてしまった・・・。
ギィ・・・、
店長は椅子ごと後ろを振り返る・・・。
「・・・メリーちゃん、
今、あなたのご指名があったけど、
もしかしたらこないだ言ってた・・・ 」
青ざめる今日子の顔・・・。
「ま・・・マジっすか!?
・・・ホントにいるのかよ・・・!
どんな感じっすか!?」
「ん~、声も喋り方もイッちゃってる感じよ、
クスリかしら?
関わらない方がいいわ、
適当にあしらったから、もうかかってこないと思うけど・・・。」
「あ~ん、ジョセフィーヌ店長さっすがぁ!
頼りになるぅ! 大好きぃ!!」
「ンもう、あたしを褒めたってなんにも出ないわよ!
それより気をつけてね、
あなたが一人のときはあたし、何もできないわよ?
そうだ、前、あなたが言ってた昔の男友達は・・・?」
今日子はうつむいて口調を変える・・・。
「・・・いえ、自分のことは自分で・・・、
それにあたしもメリーですし・・・。」
ヒタ ヒタ ヒタ・・・
何かの気配を感じる・・・背後のほうに・・・。
時々後ろを振り返ってみるが、
別に怪しい人影はない・・・。
空は薄暗くなってきていたが、
まだ電柱の明かりがつき始めるには早い・・・。
気のせいかな・・・?
さっきまで帰り道が一緒だったなつきちゃんはだいじょうぶだろうか・・・?
制服に身を包んだ麻衣は、
何度か後ろを気にしているが、
一見、辺りはいたって平和である。
麻衣の尋常ならざる勘の良さだけが、
違和感を告げているのだ。
この子の・・・、
隠された真の力を使えば、
あるいはその奇妙な違和感の正体を掴めたかも知れない。
だが、それには多大な精神集中を要求する。
道端で「それ」をやるには、
無防備すぎて、いろんな意味で危険の方が大きいのである。
結局、麻衣は現実的な対応策として、
足早に帰ることを選択した・・・。
実際、確実に安全な方法だろう。
家までは数分で着く。
パパは帰りが遅いが、
家には麻里ちゃん・絵美里ちゃんがいる。
頭数としては一人の計算だけど・・・。
むしろ、
家に着けば精神集中を人目に気にせず行えるので、
人形になってしまったママやおばあちゃんに連絡をつけることも可能だ。
・・・そうこう考えてるうちに、
いつのまにか家に着いた・・・あっけなく。
テレビを笑いながら見ていた麻里&絵美里に、
自分の感じたことを報告すると、
百合子のカラダに宿っている麻里のほうがでてきてこう言った。
「・・・最近、なんかおかしくない?
こないだも変な電話あったでしょ?
パパさんにも言ったら?」
麻衣はちょっと考えたがその案には消極的だ・・・。
「・・・パパに話すと大騒ぎになるだろうからなあ。
ママには伝えてみるけど・・・、
後はぁ、日浦のおじさんかぁ・・・。」
辺りは薄暗くなっていた・・・。
その街角の暗がりで、
長いコートに身を包んだ一人の男が不気味な笑い声を漏らしていた・・・。
「・・・んぇぇぇぇ・・・。」
過去の登場人物がいっぱい出ますよ。