合格発表 2
・・・ローズは下を向いて顔を上げられない・・・。
泣くのはこらえている様だ・・・。
恐らく彼女も自分の感情と戦っているんだろう。
しばらくしてローズは顔を上げたが、
目が赤くなっているものの、涙は流していないようだった・・・。
黒衣のカーリーは、
彼女達の心の落ち着き具合を見計らって、
ゆっくりと話し始めた。
「・・・それでは、改めて・・・
おめでとうを言わせて貰います。
ラブゥ・・・メィリィ・・・ローズ、
あなた方三人が合格です!」
一番驚いたのはローズだ。
「ええっ?
先生、あたし、誰も殺してないよぉ?」
「・・・フフ正直ね、
あなたの武器を見せて御覧なさい?」
言われてローズはカンニバル戦で使った銀の杭を取り出す。
・・・先っぽにはまだ血のりがべっとりと付いていた・・・。
「・・・彼女、食人鬼に深手を負わせたんでしょう?」
「あ・・・うん、一応は・・・。」
ローズは上目遣いでカーリーの顔を見る・・・。
そして、
武器の観察をしているカーリーに、
ローズは質問をする。
「・・・あの人・・・あざみもメリー試験を受けたの?」
「うふふ、名前も聞かせてもらったのね?
そうよ、もう5年も前かしら?
場所はここじゃないけど、
元々、彼女は普通の人間じゃないですしね、
トップの成績・・・というか、
合格したのはその年は彼女だけなのですよ。
今回は無能な受講生、食べ放題という条件で契約させてもらったの。」
ウゲェ・・・
あまりのえげつなさにメィリィがしかめっ面をする。
良かったァ・・・狙われなくて・・・。
・・・そういえばあの魔除けの護符は結局、
効果があったのかな?
あざみの話は一度置いておいて、
カーリーは本題に話を戻す。
「・・・というわけで、ローズ、
あなたは合格とあざみから連絡をもらっているわ、
心置きなく喜んでいいのよ?」
「ほんと!? やったぁ!!」
メィリィとローズはようやく明るい笑顔を見せ、
肩を組んで喜び合った。
ラブゥが不思議そうに言う。
「・・・じゃあ、こないだ私を襲ったのは・・・。」
「ええラブゥ、
あなたが無様な対応をしたら、食べられてましたわ。
あなたの術に感心してたわよ、ラブゥ。」
「そいつはこのヘリに乗せなくていいのか?」
「彼女ならなんとかするでしょう、
・・・その気になれば捕まった振りをして・・・ね?」
それも想像するだに恐ろしい。
彼女を捕まえたはずの騎士団の兵士が、
船内で夜な夜な食われていく姿もかなりのホラーだ・・・。
ローズは今更ながらに自分が助かった事に驚いている。
・・・確かに負けるつもりもなかったし、
自分のコンディションも最高の状態だったが、
また再び出会ったら勝てるだろうか・・・。
それに最後まで不思議な印象だった。
・・・何と言っていのか・・・。
そんなローズの心を読んだのか、
カーリーが涼しく笑う。
「ウフフ、あざみは優しかったでしょう・・・?」
そう・・・!
ローズはまさしくそれを感じていた・・・。
だが、あれだけ自分を憎んでいたローズに、
何故あんな態度がとれる?
単純に子ども扱いされただけだったのだろうか?
「いいえ、ローズ、
確かに彼女は食人鬼ですが、
無闇やたらに人を食べてるわけでもありません、
あなたのご両親を食べたのも、
あなたのお母様が元々敵対的な職業に就いていた事がきっかけ・・・。
実社会では一月に人一人、
食べるか食べないかの質素な生活ですよ?」
・・・いや、人間食べるのを質素って言われても・・・。
「それに・・・、
あなた達もいずれわかると思いますが、
メリーと言えども人間です。
孤独では生きられません・・・。
誰か・・・心の拠り所になる者か、
信ずるものが必要なのです・・・。
あの子ももう、
長い年月、世界中を彷徨ってるとは聞きましたが・・・
きっと淋しいのですよ・・・。」
「ちょ・・・ちょっと待って欲しいヨ、
アタシはどんな化け物か見てないけど、
そのカンニバルって人間?」
メィリィでなくともそれは聞きたがるであろう、
ラブゥだってこの話題から耳をそらすことができない。
「そうですね、ちょうどいいですわ、
あなたがたに先輩のメリーのお話をしておくべきですわね、
いいですか、3人とも・・・。
この世に化け物なんて滅多にいませんわ・・・。
もちろん、迷信深い大昔ならともかく・・・
現代科学ではある程度説明できるのですよ。
後ろの野蛮人を見て御覧なさい?
アレは体内ホルモンと、
甲状腺の異常分泌からああなってしまってるの。
マルコのすごい所は、
それを自分の意志でコントロールできること。
もちろん一種の病気ですから、
それなりの投薬や研究で症状を抑えることも可能です。
・・・あえてしてませんけどね。
あれでも、この後、副作用とか大変なのですよ?
・・・それから、
血を吸うだけのバンパイアと、
『あざみ』のような食人鬼も似たり寄ったりですが、
やはり遺伝的な病気の一種です。
他人の血や人肉を求める事は、
麻薬中毒患者の渇望に近いものがあります。
彼女達の種は、
その『食事を』行う最中、
性的な快感に近いものを感じるそうです。
・・・これは遺伝ですと、
治療法はないと言う事になるのですが、
衝動を抑える薬はあるそうです。
私も彼女達の種に会ったのは『あざみ』だけですが、
あえて薬で抑えるようなことはしたくないと言ってました・・・。」
「それは・・・どうして・・・?」
メィリィが続けて聞く。
実を言うと、ここまではある程度、
ローズには知ってる知識でもあるのだが、
この後カーリーから聞く話は、
ローズにはそれまで考えたこともない意外な内容であった・・・。