暗殺少女メィリィ ~ 忠節の騎士李袞
・・・信じられない。
メィリィの嵐のような攻撃が全て捌かれていく・・・。
リーチは確かにデッキブラシの方が上だが、
武器の強度も破壊力も、
青竜刀の方が遥かに上回るはず。
だが、いかなる攻撃を繰り返しても、
李袞のブラシは直接青竜刀に打ち合わせず、
微妙に角度をずらしながら、
ほとんど手首の回転だけで弾いてしまうのだ。
・・・確かにこの部隊を統率するだけの事はある。
しかもまだこの男には余裕があるのか!?
「納得いかないという顔つきだね、お嬢さん?」
メィリィの攻撃の間隙をぬって、
李袞が微笑みながら話しかけてきた。
「中々うまくその武器を使いこなしているが、
攻撃がワンパターンだ・・・、
所詮青竜刀は、
それだけのサイズだと振り回すだけ・・・
縦に振り下ろすか横に薙ぐか・・・。
突いたり、防御には不向きだと思うがね・・・?」
「・・・!
なら、これ試してみるネ!!」
離れた距離からメィリィが一気に突進する。
(なるほど、接近戦に持っていく気か!?)
だが、
メィリィの更なる技も李袞には余裕のようだ。
一度、刀を弾いて、
そのままカウンター気味に体当たりを食らわせれば、
勝負は一瞬で決まる。
ところがメィリィの青竜刀は、
李袞の想定したタイミングより明らかに早く地面に振り下ろされた。
青竜刀の刃が床に刺さる。
まさか!?
それまで低い体勢を維持していたメィリィのカラダが、
李袞の視界から完全に外れる。
メィリィは棒高跳びのように、
刀を支点に空中で回転した。
そのまま視界の外からの踵落としだ!
「ぅおおおおっ!?」
だが、その取って置きの攻撃でさえも、
李袞の肉体を砕くには至らない!
(外れた! ・・・避けた!?)
身の危険を感じた李袞は、
受けるよりも最初の予定通り、
突進する事によって攻撃をかわしたのだ。
正解だ、
スウェーなどでは間に合わないし、
腕やブラシで受け止めようものなら、
致命傷にはならないとはいえ、
粉々に破壊されていよう。
そして二人のカラダが交差した事によって、
メィリィはただ一つの武器をも手放す事になってしまった。
(ヤバイよ、これェ!)
しかし李袞は次の攻撃に移らない・・・。
素手になったメィリィに向かって、
彼は静かに微笑みかけた。
「素晴らしい攻撃だった・・・、
あのまま蹴りを喰らったら即死だったかもしれないな・・・、
だが、どうする? 他に奥の手でも?
今までの戦いで互いの地力はわかったはずだ。
どうだね?
無駄な抵抗はやめにしないか?
見れば君も中国人のようだ、
手荒なマネはしないつもりだぞ・・・。」
だが、・・・李袞のその言葉に、
メィリィの眉は吊りあがる。
「アタシは中国人じゃナイ・・・!」
「ほう? それは失礼した、
ではなぜチャイナドレスを着ている?
コスプレというやつか?」
さらに激しく興奮するメィリィ!
「ふざけるな!
これはアタシ達の民族衣装!
お前たち中国人の女には着る事を許されなかったアタシ達の伝統衣装だ!
アタシ達の先祖の国を滅ぼし、
皇帝を廃し、言葉を奪ったお前たちが、
アタシ達の歴史や文化や・・・
誇りまでをも奪う事は絶対許さナイ!!」
「君は満州族・・・
いや女真族の生き残りか・・・、
気持ちはわからないでもないが・・・
その皇帝は戦う事を放棄したはずだが、
君は、今更自分達の民族再興でも願っているのか?」
「・・・わかてるよ・・・、
時代は変わった・・・、
最後の皇帝溥儀は世話になったニポンが負けたら、
とっとと中国に尻尾を振った・・・、
アタシのパパも女真の言葉喋れナイ・・・。
でも、アタシが受け継いできた誇りだけは消えさせナイ!!」
メィリィは構えた・・・、
素手でも李袞と戦うつもりらしい。
彼女が守りたいもの・・・
それはローズが父母の仇を取ろうとしている事と、
根っ子は同じものなのだろう。
だからこそ、二人は相性が良かったのかもしれない。
李袞は黙って彼女の話を聞いていたが、
フッと笑ってデッキブラシを投げ捨てた。
「・・・いいだろう、
ならば君の意志に敬意を表して、
私も素手でやらせてもらう。
だが、続きをする前に断っておこう、
騎士団内で最強の男とは、
先程のガワンか本部のランスロットという所だが・・・
素手での格闘なら・・・
この私を越える者はいない!!」
李袞は両手を前方にかざし、
ゆっくりと円を描いて構えに入る。
「その構えは・・・形意拳!?」
「ご存知かな?
象形十二形拳・・・木火土金水・・・
宇宙の五元素を拳術に取り込んだ私の得意とする拳だ、・・・行くぞ!」
信じられないほどの踏み込みの速さで李袞のカラダが前方に飛ぶ!
まともにぶつかれるわけもない。
流れる動きで受け流そうとするメィリィだが、
すぐさまカラダを密着させる李袞が、それを許さない。
一度カラダを接すれば、
相手の動きを制することで一瞬にして勝負は決まる。
腕の皮膚をこすりあい、捌き、ねじり、
捻りながら戦いの主導権を握るべく激しく打ち合うのみ。
間合いは必要ない。
達人クラスの拳は触れただけで相手の内臓を破壊する。
・・・完全に李袞はそのレベルだ。
さらに李袞の両腕を支点に極めた交差式の足払いで、
メィリィは激しく後ろに転ぶ。
体勢を立て直せ・・・!
「・・・クッ!」
必死で立ち上がろうとするメィリィに、
李袞は追撃をかけない・・・。
その気になれば一気に距離を詰め、
致命的な一打も加えられたかもしれないが、
いまだ彼には余裕がある。
「・・・女の身にしておくには惜しいな・・・、
化勁(相手の力を受け流す技術)が今ひとつだがね、
技のベースは八極拳か?
だが、それだけの技量があれば、
私の実力もわかるはずだ。
さきほどの拳撃のうち、
崩拳一つ入るだけでも君の内臓は潰れるし、
鑚拳が顔面に決まれば、
二目と見られない顔になるか頚椎が破壊される。」
メィリィはそれには答えず、
体勢と呼吸を整えるのみだ・・・。
もちろんメィリィとて、
相手を一撃で死に至らしめる技は持ってるのだが、それを撃ち出せる隙がない。
「アナタ化け物・・・?」
「・・・上には上がいる・・・
それだけのことだよ・・・。」
李袞は決して彼女を見下してはいない。
先程、彼女に敬意を表すと言ったのも嘘ではない。
何とか彼女を死なせずに捕まえたかった、
・・・それは拳術を修める者としての心情だろう。
そしてさらに言えば、
騎士団幹部の中でも、彼は日浦・ガラハッドに並ぶ柔和な男でもある。