暗殺少女メィリィ ~ メィリィ参戦!
砂浜で残った部隊は、
最後まで何が起きたのか理解できない。
ラブゥを追って林の中に突入する事も考えたが、
デルタチームに何が起きたのか、調べる事が先決だと判断した。
林の中に罠がないとも限らない。
すぐさま彼らは部隊長の李袞に無線で連絡を取るも、
正確な報告も出来ずにしどろもどろだ。
「・・・もういい、
その少女を追わなかったことは正解だ。
お前たちはそのままそこにいろ!
念のために船から3部隊ほど呼び寄せておけ。
ガワン殿には私から連絡する!」
無線を切って李袞は一人つぶやく・・・。
「やはり、
通常の人間とは思わないほうがいいのか・・・。」
一方アキレウス部隊は、
食堂を目の前にして行動を停止していた・・・。
食欲をそそる匂いが彼らを包み込んでいたのである。
既に日が差し始めていており、
木々の間から柔らかい日差しが漏れてくる。
「ガワン様・・・従業員ですかね?」
「どこから見ても食堂だな・・・、
良し・・・。」
ガワンは後続部隊を引き連れ調理場へ向かう。
周りに伏兵が潜んでる気配もない・・・。
調理場の中には、
白い割烹着を着たアジア系の女性がいるだけだ。
彼女はガワンの姿を見ると、明らかに怯えている様子だ。
「仕事中、邪魔をする・・・。
お前はここの従業員か?」
「は・・・は・はハイ、
そうです・・・あなた達は・・・?」
「こちらの質問にだけ答えてもらおう、
お前たった一人でここの食事を作っているのか?」
「そ、そうです、
量はたった10人ちょこっとの分だけですシ・・・。」
「うまそうだな?
我々の分もあるのかな?」
「だ、だ、ダメです。
カーリー様から何も聞いてまセンし・・・
分量が足りなくなりマス・・・。」
「ハッハッハ、
さもないとこの料理を食べる者がいなくなるぞ、
・・・まぁいい、お前、
その肉団子を自分で食ってみてくれ。」
「えっ!?」
ガワンはこれらの料理に、
毒が入ってないか確かめたいらしい。
大体、島の連中が襲撃を知っているのに、
ただの従業員とは言え、何事もないかのように料理を作っているわけがない。
「どうした?
自分で作った料理が食えないのか?」
「ハ・・・ハイ。」
調理場の女性は怯えながらも、
不審な動きもせずに肉団子を飲み込んだ。
「・・・なるほど、うまそうだな?
料理はもう全部終わっているのか?」
「ま、まだ、あと20分は・・・。」
「管理棟とやらはこの先か?
そこに見えるのは?」
「ハイ、この道を行ってすぐ、
・・・そこにあるのは受講生達の教室ネ・・・。」
「わかった・・・あとで食べに来る。
できるだけ作っておいてくれ・・・。」
そう言うと、
ガワンはマントを翻し、先の管理棟に向かった。
「ガワン様、よろしいので?」
兵士の一人がガワンに尋ねる。
「私の狙いは敵の親玉だ。
たった一人に部隊を割くのも勿体ない。
それにあの女はチャイニーズっぽいしな、
ヘクトール部隊に任せるさ。」
そのままガワンは無線を使おうとする。
ちょうど、李袞からの連絡とタイミングがあったようだ。
お互いの報告事項を伝え合う。
『ガワン殿、気をつけて下さい!
やはり、一筋縄ではいきません!』
「・・・そうか、
デルタチームの三人は死んだか・・・!
おのれ・・・!」
ちょうどその時だ、
無線に雑音が入り始めた。
会話する用はお互いほとんど済んでいたが、
妨害電波が流れているようだ。
「フン!
こんなもので邪魔をしたつもりか!? くだらん!!」
ちなみに妨害電波を流したのはシェリーだが、
電波ジャックして、「私メリー」なんてふざけた声を入れる余裕は彼女にはない。
アキレウス部隊は慎重に・・・
しかし迅速に石畳の道を抜け・・・
灰色の管理棟を自分達の視界に入れた。
そしてそれから、
李袞率いるヘクトール部隊が食堂にやってくるのに、
時間はそんなにかからなかった、
中華料理を作り続けるメィリィの元へ・・・。
「ナ、ナニ? あなた達は?
さっきの人たちはあっちに行ったヨ!?」
ヘクトール部隊は、
食堂のテーブルから調理場に向かって、突撃銃の照準を合わせる。
李袞はゆっくりメィリィに話しかけた。
「彼らはいいんだ・・・、
君を拘束するのは私たちに任せてもらったんだ。
大人しく出てくるんなら手荒なマネはしない・・・わかるね?」
薄く唇の上に髭を蓄え、
七三にきれいに分けられた髪の李袞には、
先程のガワンとはまた違った威厳を感じられる。
物腰は紳士だが、
その口調には逆らう事を許されない静かな威圧感があった。
「・・・ハァ~、仕方ないネ・・・。」
メィリィは諦めたように調理道具を置く。
火を止めたり最低限の作業を行うが、
余計な動作を行えば容赦なく蜂の巣にされるだろう、
しかし、彼女がもちろん、
そんな大人しい女な訳がない。
いつの間にか、流れるような手の動きは、
盛り付けられたデザート(ライチ?)の中に突っ込まれていた。
「っ! 撃てっ!!」
それはほぼ同時であった。
何十発もの弾丸が調理場に打ち込まれる一方で、
床に伏せたメィリィは、
騎士団の兵士達に煙だまを投げ込んでいたのだ。
「・・・ゴホッ! 遠巻きに攻めろ!
ヤツは逃げようとするはずだ!
退路を塞げ!」
あれだけの銃弾を打ち込んで無傷とも思えないが、
調理場には鍋やら大釜がたくさんある。
傷を負わせたという保証もない。
煙は次第に晴れていくが、彼女の姿は見えない。
部隊の一つに調理場を覗かせるが、
落ちているのは彼女の白い割烹着だけ。
もちろん弾に当たった痕跡もない。
「・・・バカな・・・
あのタイミングでどこへ!?」
「李袞様! 上を!!」
・・・食堂の屋根には、
鮮やかなロイヤルブルーに、
金糸を縫いつけたチャイナドレスの女性が立っていた。
ウェストまでスリットを入れたメィリィが、
美しい足を露出しながら男達を見下ろしてつぶやく・・・。
「・・・出番ネ、
メイドの土産に拝ませてアゲル!」
その手には巨大な青竜刀を握りしめて・・・!