メァリ・ラブゥ ~ 初戦撃破
デルタチームは、
今の会話の内容を無線でガワンに伝える。
もちろん、ガワン達もラブゥの話を鵜呑みにはしない。
あくまで参考レベルとして捉えている。
「あ・・・あ、私どうなるの?
こ、殺される・・・?」
チームのリーダーは、
警戒を解かないまま機械的にラブゥに答えた。
「お前が協力的なら命は保証する・・・、
しばらくは拘束させてもらうがな、
いろいろ聞かせてもらうぞ。」
他の部隊は、大破したバンガローを調べにまわる。
逆にラブゥを拘束した部隊は、
海岸へ彼女を連行しようとした。
「ガワン様!
宿舎には他の人間はいないようです!」
「まだ鎮火してないところは調べておらんだろう!?
構わん! ここはヘクトール部隊に任せ我らは進軍する!
デルタチームはその少女と共にこの場に待機!
・・・李袞、後は頼むぞ!」
「少ししたら、私も動きますよ?」
「フッ、なんだかんだでお前も暴れたいようだな?
ま、獲物が残ってる事を祈るんだな!?」
言うが早いか、
アキレウス部隊はあっという間に林の中に突入していった。
デルタチームはそのまま、ラブゥへの尋問を続ける。
「この島の管理者・・・メリー試験の運営者の名前は?」
その質問の答えにも、ラブゥは何の遠慮もないようだ。
「一番の責任者が、カーリー、
そして指導官としてマルコ=シァス、ルキ、ネロ・・・、
それしか知らない・・・。」
「ネロの名は我々も知っているが、
マルコ=シァスとルキとは何者だ?」
「私も知らない・・・、
党首の個人的なつきあいとか言ってたと思うけど・・・。」
その後も兵士達は、
ラブゥから可能な限り情報を引き出した。
・・・その間にヘクトール部隊もバンガローの調べをほぼ終わらせ、
2部隊6人を残し、時間差でガワン達の後を追う。
その二つの部隊を残らせたのは、
念入りに焼け跡を調査するためと、
沖で停泊している待機部隊とのラインを保持するためである。
ラブゥを拘束しているチームは、その者たちとはやや距離を置いている・・・。
・・・ラブゥの目が光った・・・。
「・・・そういえばこの人形はなんだ!?」
「あ、こ、これは私の大事な・・・!」
「いいからよこせ!
無害なものと判れば返してやる。」
兵士は強引に、ラブゥから人形を取り上げた。
握りつぶして中身を確かめるが、
どう見ても手作りの粗末な人形だ。
中身に固形物すらない。
兵士は人形の背中に穴を見つけるが、
手を入れる為のものであることも容易く理解した。
「ほう? これで両手両足も動かせるのか?」
「そ・・・そうなんだ、
ハハ、私が作ったんだ、可愛いだろ?
これがないと私はダメなんだ・・・!」
兵士は互いに目配せすると、
安心してラブゥに人形を返した。
嬉しそうにラブゥは人形を受け取る。
まるでちょっと頭の足りない女の子のようだ、
・・・兵士達はそう理解し始めていた。
「ありがとう!
・・・なぁ、アンタ名前はなんてぇんだ?
こいつはマーヤって言うんだ。」
ラブゥは早速、
取り返した人形の背中に手を入れ、腹話術でもするような仕草をした。
兵士達は肩をすくめ、
初めて笑いながら「オレはジョーンズだ。」とだけ口にした。
なんか人形を使って芸でも見せてくれるのか?
「・・・そう、ジョーンズ・・・、
ねぇ、マーヤ、そう言えばあなたの好物はなんだっけ?」
ラブゥは頭を傾け人形に話しかける、
やっぱり腹話術だ・・・。
「アタシ? アタシノコウブツハニンゲンノカミノケヨ!」
その言葉の後に開いた掌には、一本の髪の毛があった。
・・・もちろん、毛髪など細すぎるので、
兵士達にはそれが髪の毛かどうかは、
目で辛うじて見える程度だ。
ラブゥはその髪の毛を、マーヤの口の中に突っ込んだ。
「ほーら、マーヤ、お前の大好きな髪の毛だ。」
「ムシャムシャ! オイシイ!
コノカミノケハダレノカミノケ?」
「お前の目の前にいるジョーンズの髪の毛さ!!」
何を言い出すんだ、この少女は?
三人とも奇異の目でラブゥを見るが、
その髪の毛は本物である。
先程、暴れた際に、ラブゥはこの兵士の頭を掴み、
髪の毛を手に入れていたのだ。
次の展開を待っていると、
ラブゥは魅惑的な目をジョーンズに向け、
怪しげな韻律の言葉を発する・・・。
「マーヤ、マーヤ、おまえはマーヤ?
いいえ・・・ジョーンズ、ジョーンズ・・・おまえはジョーンズ・・・。
おまえが右手を上げればジョーンズの右手が上がる・・・、
おまえが銃を構えれば・・・ジョーンズも銃を構える・・・。」
兵士達はラブゥの行動が全く理解できず、
互いの目を合わせるだけだが、
その時、ただ一人そのジョーンズだけが虚ろな目をしている異状に気づいた。
「ジョーンズ!?」
ラブゥは薄く笑みを浮かべながら、
まるで娼婦のような瞳でジョーンズを見つめたまま。
彼女が人形を動かすたびに、
ジョーンズもまるで、
その人形に合わせたかのような動きをとっている。
「ジョーンズ! おい、どうした!?」
彼は仲間達の声に一切反応せず、
・・・ゆっくりと両手に持った突撃銃を水平に動かしていく・・・。
「な・・・何の真似だ・・・!?」
ラブゥは人形の右腕の先端を、・・・くいっっと曲げた。
「BANG!!」
ダラララッ!!
・・・海岸に残っていたヘクトール部隊は、
信じられない光景を目の当たりにしてしまう。
少女を監視してたはずのデルタチームの兵士が、自分の仲間を撃ち殺してしまったのを。
一体何が起きたのか、
事態を呑み込めず、誰もがしばらく身動きできない。
一方、ジョーンズは、
もう一人のカラダにも弾丸を撃ち込み・・・、
最後には躊躇いもなく、銃口を自分の口の中に入れ、
自らも引き金を引いてその場に崩れ落ちてしまった・・・。
ようやくヘクトール部隊が、
奇声をあげながら砂浜に向かって走ってきたが、
この距離ではそうすぐには接近できまい。
ラブゥは、
倒れている兵士のサバイバルスーツからナイフを抜き取り、
なれた仕草で、その男の耳を切り取った。
「私はメァリ・ラブゥ、
・・・お送りするはブードゥーマジック・フォーチュンドライブ・・・。
・・・グッナイ、ベィビーズ・・・。」
そして彼女は収穫を終えると、
足早に砂浜から近くの林の中にと消えていった。
メァリ・ラブゥ ミッションクリア!!
ラブゥの決め文句は、音楽番組のDJ風なセリフと想像してください。