6日目の4 最後の晩餐
その夜、ディナーは最後の食事ということで、
全員食堂に集まった。
一人が好きなラブゥも、
仕方なしに隅っこに席を取る。
ナターシャとメィリィは、
気まずいのか、どこかよそよそしげだ。
席は近いが微妙に距離を置いている。
カーリーは一人一人に飲み物を渡して、
受講生達に励ましの言葉を伝えていた。
ネロが給仕役だが、
これは結構、様になっている。
それよりマルコが落ち着かない。
カーリーの決定に逆らえないとは言え、
不満なことばかりなのだ。
受講生に色目は使えない、
受講生達を騎士団と戦わせる事に納得できない、
そして何よりも自分が戦えない事だ、
さっきから貧乏ゆすりしたり、
耳をほじったりと、下品な振る舞いが多い。
「・・・それでは皆さん、
ワインは行き渡りました?
お酒が苦手な方は無理しないで下さいね。
それから、
後でみなさんに携帯端末をお渡しします。
騎士団が上陸した時、
及び、戦闘終了の合図はこれでお知らせします。
また、みなさんの位置はこれでわかりますので、なくさないで下さい。
・・・それから、今夜0時で、
島の従業員はここから引き上げさせます。
残るのは私たちだけです。
正直・・・
試験内容は過酷だと思いますが・・・、
この程度クリアできないようでは、
メリーを名乗る資格もないと思います。
では、お互いの無事と成功を祈って乾杯といたしましょう、
・・・乾杯!」
ここまで来たら、
殆どの者が諦めというか開き直っていた。
ナターシャに関しても、
ヤケにはなっていたが、最後まで諦めるつもりはない。
絶対に生き延びてやる、と決意していた。
また、
こういう状況下ではやはり地が出るのだろう、
シェリーがいつも以上に雄弁だ。
しゃべってないと落ち着かないらしい。
ネロやルキは、
彼らなりに精一杯、受講生をねぎらう。
中には感極まって泣き出す子も出てきた。
意外な行動を取っているのはマルコだ。
残酷で変態のサディストと思われている割には、
オドオドと、
彼女達にどんな言葉を投げかけていいのかわからないのだ。
それが傍から丸判りなので、
かえってそれがナターシャ達の緊張を解いたようだ。
「ちょっとマルコさんよ?
アンタらしくないじゃん?
意外と気が弱いのか?」
「う、うるせー!
お前らのことを心配してやってんだよッ!
・・・こ、これでもオレは人情深ぇんだッ!!」
その場の笑いにつられたのか、
にこやかにカーリーも寄って来る。
「いいえ、
本当に少しだけ見直しましたよ、マルコ。
これなら次回も安心してお願いできるわ。」
「・・・ケッ、少しだけかよ・・・。」
ヤケになってワインをがぶ飲みするマルコに、
ローズがにこやかに酌をする。
「おお~、ローズぅ・・・
おめーはいい子だなぁ、
大きくなったら嫁に来いぃぃ。」
「・・・ンだよ、
やっぱりロリコンは変わんねーよ・・・。」
「バカ言え、ナターシャっ!
オ、オレはなぁ、
もっとこう、ボリュームのある・・・おま!」
マルコは言いかけた途中で、
カーリーにフライドチキンを口に突っ込まれる。
セクハラ禁止だと言われたでしょうに。
モゴモゴするマルコを他所に、
ローズはカーリーにまたとんでもないことを話しかけた。
「ねぇ、先生、
殺すのは騎士団の人たちじゃなくてもいいんでしょう?」
せっかく和やかになりかけていた場が一気に凍りつく。
しばらく静寂が訪れた後、
カーリーは困ったように笑い出した。
「ウッフッフフ、
本当におもしろい子だわ、
あなたは思った事を急に口にするから、
私にも『読めない』のよね、
ええ、そうよ。
・・・誰かあの時の言い回しに気づくかな、と思ったのですけどね。
別に殺すのは誰でもいいわ、
ここにいる受講生でも私たち講師でもね・・・。」
もはや会場の全ての者が、
二人から目を離すことが出来なくなっていた。
カーリーは話を続ける。
「でも、もちろん、
スタートの合図は変わらないわよ?
戦闘開始から終了までの間に終わらせる事が条件・・・、
それ以前に誰かを殺しても無効よ・・・?」
「はーい、わっかりましたー!」
自分の発言が、
周りにどんな影響を与えてしまったか、
気にも留めずにローズは再び食事を続けた。
島は風が強くなっていた。
雨が降る心配はなさそうだが、
雲が激しく通り過ぎていく。
最後の宴会も早々にお開きにされ、
各自体調を万全にすべく、睡眠をとる。
既に、カーリー達に雇われていた従業員達は島を離れた。
今や、この島に残っているのは受講生11人と、
試験官4人・・・そして食人鬼1名だけである。
風の音が窓枠を揺らす。
時刻は午前3時ごろだろうか、
ローズは暗い部屋のベッドの中で、ぱっちり目を覚ました。
もぞもぞと動き始める・・・。
「・・・ローズ?」
「あ、ごめん、おこしちゃった? メィリィ。」
「いや、構わナイ・・・、どうせアタシも起きるネ、
それよりまだ時間あるはずだけど・・・?」
「んん・・・、なんていうの? 血がさわぐっていうの?
感じるんだ・・・アイツが近くいるの。」
「すぐそばカ?」
「んーん、すぐいきなりってわけじゃないと思う。
・・・でもあたしはもう行く。」
「・・・勝つ自信ある・・・?」
「そんなのは知らない・・・
あたしがあいつと戦うのは必然・・・。
出会ったからにはどっちかが死ぬだけよ・・・。」
「・・・ローズ・・・。」
「なぁーに、メィリィ?」
「きっと一緒にこの島から出るネ・・・!」
「そうだね、絶対一緒に出よっ!」
ローズは、夕食前に用意してた小箱の中から何かを取り出し、
ウェストに巻いたポーチの中に収める。
準備は整ったようだ、
その他の荷物も一つにまとめ、
静かに戸口から出てゆこうとした。
「・・・メィリィ・・・また後でね!」
「ローズ、無茶しちゃダメよ・・・!
逃げたって恥ずかしくない、
後から戦ったっていい・・・!」
メィリィの最後の言葉には答えず、
ローズは振り返ってにっこり笑った・・・。
バタン!
部屋から出たローズは、玄関からしばらく動かなかった。
そして、首の十字架とポーチを押さえて一人つぶやく・・・。
「パパ、ママ・・・行ってくるね・・・!」
少し先では、
ナターシャとシェリーが自分達の部屋の前で忙しく作業をしていた。
空はまだ薄暗いが、
体型の組み合わせで誰が誰だか判別は出来る。
ローズは二人を見つけ側に駆け寄った・・・。
「ナターシャ! シェリー! 寝なかったの?」
ナターシャは懐中電灯を照らしてローズに微笑んだ。
「なぁに、おまえらんとこと、
あの黒人娘以外の部屋にトラップかけまくっていたんだ。
意外と材料も多かったんでね、
それよりローズこそ、どうしたんだ? メィリィは?」
「あたしはこれから仕事に入るわ。
メィリィも起きたみたいだから、
そろそろ出てくるんじゃないかしら?」
「・・・そうか、
おまえらは自分のすべき事を知ってるからあんなこと言ったんだな・・・。
悪かったな・・・。
後でメィリィにも謝っとくよ・・・。」
「あたしもメィリィも気にしてないわ、
あたしこそごめんなさい。」
シェリーも心配そうに顔を出してきた。
「ローズさん・・・。」
「シェリーもナターシャもみんな頑張ろうね!」
「そうですね、この襲撃さえしのげたら・・・。」
シェリーは途中で言葉をつかえてしまった。
本当に生き延びる事が出来るのだろうか?
そんな不安を全く感じさせることなく、
ローズは笑って二人を通り越していった。
「じゃあね、また後でね!!」
一瞬ローズの体勢が沈み込んだように見えた瞬間、
二人の視界からローズがいきなり消えた。
仰天したナターシャが地面を照らすと、
蹴り上げられた土の跡が残ってる。
・・・その反対方向に首を曲げると、
林の木々が風と関係ない動きで揺れていた。
「・・・今のがローズ・・・
暗いとは言え動きが全く見えなかった・・・!?」
参加者中、最も小さく最も身軽なローズは、
ムササビのような動きで木々の間を跳ね回った。
カンニバル・メリーは絶対この襲撃の期間に行動を起こす・・・、
ローズのカラダに流れるバンパイアハンターとしての血が、
絶対的な確信を彼女に告げていた。
以降・・・、
ローズの姿を見かけるものは誰もいない、
この騎士団との抗争が終結するその時まで・・・。
次回よりいよいよ戦闘です。