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第3話

今回、キリが悪く少し長めです。


ここからは神父の話になる。

この間、私には口を挟むことができなかった。


 「 ・・・私がこの教会を任されて、

 もう20年になります。

 この教会が建ってからは、私は三代目なのですが、

 当初この教会には、海外から越してきた信者が何名かおったそうです。

 修道女の中にもおりました。

 彼女達は熱心な信者でしたが、

 よく村の子供達に、

 自分達の生まれ育った土地の昔話などを話すことがあったそうです。

 私も正確には覚えておりませんが、

 これはその内の一つです・・・。


 ・・・ヨーロッパのある小さな町に、

 かわいい女の子が住んでいました。

 名前は・・・確かエミリー、

 そんな名前だったと思います。

 彼女には母親がいましたが、

 しつけのきつい母親だったそうです。

 エミリーは母親にいつも叱られていました。


 そんな母親でしたが、

 寒い冬のある日、母親はエミリーに、

 何だったか・・・『ある物』をプレゼントします。

 エミリーは、さぞ喜んだ事でしょう。

 ところがエミリーは、あまりにはしゃいだために、

 『それ』をどこかに失くしてしまいます。

 母親は大変怒りました。

 エミリーは、泣きながら町中探し回ります。

 途方に暮れたエミリーは、

 町外れに住んでいるという、魔法使いに聞いてみようと思いました。

 なんと大事なその『ある物』は、

 どういう訳なのか、

 見つけてもらうどころか、魔法使いの家にあったのです。

 魔法使いは『それ』を返すにあたり、喜ぶエミリーに約束をさせました。


 『私から返してもらったことは誰にも言わないこと、

 この約束をもし破ったら、

 今夜12時に、エミリー、

 おまえを連れ去りに行く』・・・と。


 エミリーはたやすい事と思い、

 約束して品物を返してもらうと、

 大喜びで帰りました。

 ところが、

 母親があまりの剣幕で娘を問い詰めたため、

 エミリーは約束を破ってしまいました。

 その夜・・・

 約束を破ったエミリーの元に魔法使いがやってきたのです・・・。」



 ・・・エミリ~ィ

 私だよぉ、私は今、

 おまえの家の前にいるよぉ・・・



 「その声は、

 エミリーの耳にはっきりと聞こえてきました。」

 

 「エミリーは、

 叫び声をあげたり、壁を叩いて必死に助けを求めるのですが、

 魔法のためなのか母親は気づきません。」


 エミリ~、

 今からお前を攫いに行くからねぇ~ 

 アハハハハッ 

 ほ~ら、家の中に入ったよぅ 


 かわいいエミリ~ッ・・・

 私はいま、階段の下にいるよぉ~

 キミは約束を 破っちゃったね~?


 エミリ~、一段上がったよぉ 

 怖いかい~? アハハハハハァ~


 ほぉ~ら、二段目だ・・・

 だんだん近づいているよぉ~ 


 いま、三段目だ エミリ~?

 これからどうなるかわかるかいぃ~?


 四段目、四段目だぁ、

 もうじきおまえを捕まえに行くよぉ~ 


 どんどん、

 声が近づいているだろう? 

 いま五段目だぁ 


 六段目~ぇ、

 誰も助けにきてくれないぃぃ~、


 怖いかぁい? 怖いかぁぁい?

 ま~た、一段あがった、

 七段目だ エミリ~ィ・・・

 おまえの部屋が見えてきたぁ、


 八段目だ~、ああぁ、

 早くおまえに会いたいいぃ


 九段目、どんな事して遊ぼうかぁ?

 アハハハハァッ 


 さぁ、十段目だぁ、

 もうぅ手が届きそうだよ エミリ~ィ


 ・・・十一段目、あと少し、あと少し!

 お人形さん遊びは好きかい、えぇみぃぃりぃぃぃいいぃ


 ああああぁ! ほぉ~ら、十二段目だ!  

 お着替えをしましょうね~?

 腕や足もお取り替えしましょうねぇぇ~!?


  ・・・昇りきったよ・・・、

 エミリー・・・、

 今、わたしはお前の部屋の前にいるよぉ


 

 

 「・・・神父様、

 すみませんが・・・手短に 」 

気持ち悪くなってきた。

怯える少女の姿と娘の麻衣が重なったのである。

これ以上は聞けそうにない・・・。

 「あ・・・、申し訳ありません、

 ご想像の通り、

 エミリーはバラバラに殺されてしまいます。

 そして、その後もエミリーには哀れな運命が待ってます。

 殺されたエミリーの魂は天国へ行けず、

 魔法使いの作った人形に封じ込められてしまうのです。」

 「ひど過ぎる・・・。」 

私は思わずつぶやいた。

 「魔法使いは、

 エミリーの魂が入った人形を慰み者にし続けました・・・。

 しかしある日この町に、やはり魔法使いと思われる老人がやって来ました。

 彼は人形となったエミリーを哀れに思い、

 使い魔であるカラス・熊・キツネの三匹の動物を使って、

 人形を奪う事に成功するのです。」

 「おお!」

例えお伽話とは言え、救いはあるのか、

私は思わず声をもらしたが、

話はそんなに甘くなかったようである。


 「しかし、その老人の魔力を持ってしても人形の呪いは解けません。

 呪いをかけた本人でなければ、

 その呪いを解くことはおろか、

 人形を動かす事すらできなかったのです。

 ある時彼は、

 近くで非業の死を遂げた者がいると、

 少女の人形が奇妙な反応をする事に気づきました。

 老人は人形にひと振りの鎌を与えてみました。

 それは彼が直接、

 死者の王に授かったという『死神の鎌』だと言われています。

 するとどうでしょう、

 人形は立ち上がり、普通の人間のように動き始めたのです。

 以来その人形は、死にゆく者の恐怖や怨念を感じると、

 まるで自らの恨みを晴らすかのように、

 その不気味な鎌を振るい、

 非道な犯罪者達の命を狩るようになったのです・・・。」


 「そのエミリーという少女の人形が・・・メリー?」

 「伝えられてきた昔話が、

 どこかで名前が間違って伝わったのか、

 魔法使いの老人が、何かの目的で名前を変えたのか、

 もちろん、

 メリーという人形とは直接関係ないという可能性もあるかもしれません。

 ただ、私がこの教会に赴任した時には、

 既にここの住人の間では、

 いつの間にか『メリー』として定着していたようです。」

 「それはつまり、

 恨みのある相手を・・・人形が報復してくれる、

 と信じられている・・・と?」

神父の顔は残念そうな表情を見せていた。

 「お分かりでしょう、

 そんな昔話が事実であろうとなかろうと、

 よりにもよって教会の中でするわけには参りません。

 この教会ではその話はタブーだったんです。 

 本来なら時間とともに忘れられていく昔話でしょうからね

 ところが、この日本で、

 この町で、数十年前その人形メリーが実際に現れたのです。」

 「何ですって!? 」 

私は驚愕した。

それはそうだ、

今までの話は全て外国の伝説だと思っていたからだ。

神父はため息をつく。

 「先代の館長の頃の話です、

 まだこの町が村だった頃、

 何人もの少年が殺されるという事件がありました。 

 犯人は性的倒錯者のようでしたが、

 当初、捜査は難航しました。

 そんなある日の晩、村の青年が、

 大きな鎌を持った人形が路地を走り去ってゆく姿を目撃しました。

 青年は腰を抜かしてしまいましたが、

 近くを通った駐在に助けられ、人形のやってきた道を辿ります。

 すると、一軒の小屋がありました。

 中をのぞくと、カラダをバラバラにされた男の死体があったのです。 

 村で変わり者とされていた男でしたが、

 よく調べると、

 その小屋から以前に殺された少年達の遺品が見つかったのです。

 以来、それは人形メリーの報復だという噂が、

 村人達の間にあっという間に拡がったのです。」



突然、私の携帯が鳴った。

編集長からだ。

 「神父様、すみません、失礼します。」

神父はどうぞ、

というジェスチャーをとる。

 「ああ、編集長、おはようございます、 

 すいません、正午までにはそちらに・・・?

 えッ!?

 隣町で建設会社の作業員3人の斬殺死体ッ!?

 その建設会社って、あの県議会議員の一族が経営している・・・

 ハイ、すぐに・・・!」

私は反射的に神父に目をやった。

初老の神父は目を見開いて驚いた様子だったが、

やがて、静かに十字を切って天を仰いだ・・・。


他にも聞きたい事があったのだが、

神父にしても、自殺した夫婦の事などで忙しくなるのだろう、

お互い話の区切りをつけるには丁度よく、

私は神父に別れを告げ、地元の新聞社へと向かった。


そこでわかった情報は以下の事である。

3人の斬殺死体の身元は、

建設会社の末端の子会社の人間で、

その会社は、ヤクザのダミー団体とも言われていること、

また、そのうち二名は、

この会社に昨年から働いている中国人労働者のようだ。

三名は、

作業現場のプレハブ小屋で酒盛りをしていたが、

その前までは町の風俗店にいたことが判っている。

作業現場は荒らされており、

激しく争っていた様子が窺えられる。

死体は全て鋭利な刃物によって切り刻まれ、

日本人男性の携帯には、

直前まで何者かと、

短い間隔で何度か通話していた記録が残っていたという。

私は、昨日までのまとめた原稿と、

今回の事件の速報を編集長に送り、

「今後さらに急展開する恐れがある」ことを伝え、了承をもらった。

人形の件はあくまでも伏せていたが・・・。



薄暗い曇り空の事件現場、

そこでは警察が厳戒体制を敷いていた。

私は、昨日老夫婦の心中の件で、

私を聴取した若い刑事をその場で見つける事ができた。

 「いやぁ、昨日はどうも。」 

若い刑事は立ち入り禁止区域外にいた。

 「ここは刑事さんの管轄ではないんじゃあないのですか?」 

刑事はためらっていた様子だったが、

私に口を開いてくれた。

 「別件ですよ、

 ・・・多分もう、発表するだろうから言いますけど、

 監禁事件の方、

 二件の被害届けが取り下げられた。

 じき、森村容疑者は拘置所を出ます。」

 「何ですって!? そんな馬鹿な!

 何故、被害者が・・・!?」

そこまで言いかけて、

ハッと恐ろしい考えが私の頭に浮かんだ・・・。

 「ま、まさか・・・、

 あの自殺とされた女の子の事が原因で・・・。」

 

「被害届けを出すかどうか悩んでいた少女が死んだ・・・

 既に被害届けを出していた他の女の子達はどう思ったのかな・・・。」

若い刑事は独り言のようにつぶやいた。

 「まさか、脅迫・・・その為の材料にするためにあの子を・・・。」 

自分の体が震えているのがわかった。

・・・止められそうにない。

刑事は話を続ける。

 「和解を申し出ていた弁護士以外に、

 彼女達に何らかの接触をした者がいるんじゃないか、

 と思って調べていたら、ここの責任者に行き着いたんだけど・・・、

 死体になっちゃこれ以上は無理かな。」

 「これ以上は捜査できないと・・・!?」

 「監禁事件は終了、自殺・心中事件もこれ以上捜査の必要なし、

 と上が判断すればそうなるでしょうね。

 こっちの事件は確実に殺人だから、

 むしろ、こっちに力を入れる事になるだろう。

 死体の損壊程度から言って、

 中国マフィアが絡んでいるかもしれない。」

・・・自分の感情が怒りで沸騰していくのがわかる。

 「では、・・・自殺に見せかけられた少女の真犯人は捕まえられないっ!

 指示をした警察OBには手出しできないと言うのですか!?」

刑事は眉をしかめ、

別れ際にこうつぶやいて、私から離れていった。


 「だから何度も言ったでしょう・・・、

 我々は証拠がなければ動けないんです・・・。」

 




私はもはやジャーナリストとしてというより、

一人の親としての想いが自分を動かしてたように思う。

心中した家族が自分の家庭に重なり、

また今朝、神父から聞いた天国にも行けない少女の話、

永遠の苦しみを味わう悲しい話を、

この痛ましい事件に重ね合わせていた。

もしも娘の麻衣が同じような目に遭うとしたら・・・、

私には麻衣の怖がる姿すらとても想像できない・・・。

誰も助けに来てくれない、

逃げる事もできない永遠の絶望・・・。

あの家族の尊厳を守り、少しでも恨みを晴らしてやりたい、

ならば、

できうる限りのことを調べてマスコミに公表する。

それが私のなすべきことだ。


この段階で、

私はメリーさんとかいう人形の話は忘れていた。

頭に浮かんでいたのは、

この建設現場の三人が何か知っていて、

(もしかしたら、彼女を自殺に見せかけて殺した実行犯かも)

恐らくは絵図を描いた者に、

口封じの為に殺されたのではないか、

という可能性である。

勿論推測の域を越えるものは何もない。


妻、百合子の

「無理はしないでね」という、

電話の声も頭に残る。

だが、私は車を走らせるしかなかった、


県議会議員の自宅に向けて・・・。


 

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