4日目の2 屍人と禁忌の花園
タイトル詐欺です。
今夜のディナーはいつもと様相が異なっている。
いつものテーブルに、
ローズ達が腰掛けているのは間違いない。
だが、ナターシャとメィリィが、
まるで死人のようにうなだれている。
・・・他のテーブルも、
所々同様の光景が見られる。
辛うじて普通に食事をとっている者も、
かなり苦しそうだ。
シェリーとローズは席をくっつけて、
互いの顔を見合わせていた。
「どうしちゃったの、これ・・・?」
「私もいま、来てみただけですから・・・、
よほどハードな演習だったのでしょうか?」
程なく・・・まるで、
ゾンビさながらの動きでナターシャが腕を動かし始めた。
「・・・あ、ああ~、
たいしたサディストだよ・・・あいつはぁぁぁ・・・、
人の体力限界までいたぶりやがってぇぇぇぇ・・・!」
メィリィも頑張る・・・。
「あれ・・・笑ってたねぇ・・・、
心の底から楽しんでた・・・ヨ。」
シェリーはほっと胸を撫で下ろしていた。
よかったぁ・・・ネロ班で・・・。
「あ、あの、
よければお食事持ってきましょうか・・・?」
ナターシャ達は体勢を変えないまま、
心の底から礼を述べる。
「あああ、おねがいぃぃぃ・・・」
「嬉しいねぇぇ、
できれば、辛いもの中心で・・・
さもないと、食欲湧かナイ・・・。」
シェリーは笑いながらローズを促した。
マルコ班の中には食事を摂らない者もいたが、
ここで体力をつけないのは自殺行為といえよう。
メィリィ達はそれが判っているので、
無理にでも食事をする。
・・・もはやナターシャとメィリィは、
廃人同様の動きで食物をかっくらった。
ある意味、
シェリーにとってはそのほうが都合がいい。
彼女達に会話を振る必要なく、
ローズへの会話に集中できるから・・・。
「ね、ローズさん、
あなたと一緒にいた女の子はなんて名前なのですか・・・?」
「ん? ラブゥ?」
「ラブゥさんと仰るのね?
あなたの事だから、
ここへ誘うかと思ったのですけど?」
「んー、誘ったけど断られちゃった、
あんまり人と一緒にいるの、好きじゃないみたい。」
「彼女は人形を抱いてましたけど、
もしかして人形遣いなのですか・・・?」
「うーん、わかんない?
でも何でそんなこと聞くの?」
シェリーはやや取り乱しながら、
大した事でもないというそぶりを見せる。
「ええ、ちょっと興味があって・・・。」
「あ、でもね、
人形抱いてる時は気づかなかったけど、
あの胸の大きさは反則だよ!」
「は、はい? 胸!?」
「そう、もちろん、
ナターシャよりかはちっちゃいけど、
あの子、まだ15よ、
あたしと二つしか変わんないのよ?
身長だって、
シェリーとそう変わんないのに、
あの大きさはずるいわ?
まるでバスケットボール。
あの黒い肌にぴったりした白いTシャツ着てるから余計に目立つ!」
もしかしてローズ、悔しいのか・・・?
ナターシャに関しては、
年齢と身長の開きがありすぎるから気にならなかったらしいが、
かえって年齢の近いラブゥに関しては、
意識せざるを得ないようだ。
ナターシャが息も絶え絶えに反応する。
「こらぁ、そこぉ、
また問題発言をぉぉ・・・。」
ローズはしげしげと、
ナターシャの胸を至近距離で観察した。
「あたしも、大人になったらナターシャみたいになれるかなぁ?
ママもそんな大きくなかったし・・・、
揉んだら大きくなる?」
「もぅ何とでも言えぇぇ、
今なら犯されても抵抗できねぇぇぇ・・・!」
メィリィも負けじと参戦する。
「それじゃあアタシ、突っ込んであげるネ、
二度と忘れられない夜にしてあげるヨ・・・。」
「ふは!
メィリィだって使い物にならねーくせにぃぃ・・・。」
「あ~確かに、
アッという間にイッちゃいそうネ・・・。」
まるで女子校のノリだ、
二人は息が続かないので自然と品のない笑い方になる。
どうして人はこういう時、
体力の無駄遣いをするのだろうか?
こんな二人に、
シェリーがついていけるはずもない。
「も、もしかして
お、お二人とも壊れてます・・・?」
思いっきり引きまくるシェリー、
ちなみに彼女はまだ男を知らない。
メィリィについては・・・内緒だ。
気をとりなおして、
シェリーはローズに向かう。
「あ、えっと・・・、そのラブゥさん、
ここには来てないのですよね?
いつもお一人で食事してるのかしら?」
「そうみたいね?
部屋もずーっと一人のまんまって言ってた。」
シェリーはさらに考え込む。
「えっと・・・、
前にグェンさんが殺された時、
そのラブゥさんの部屋には、
あなたとメィリィさんが行ったのかしら?」
「うん、主に会話してたのはメィリィだけど。」
「部屋の中には入りました?」
それには、
もう目も開かないメィリィが答える。
「あ~、あの黒人の子ね、
一人でだいじょぶだし、入って欲しくナイ言ってたネ・・・。」
「そうですかぁ・・・。」
ローズが心配そうにシェリーの顔を覗き込んだ。
「今日、変だよ、シェリー?」
慌てふためくシェリーに、
ナターシャが見かねて助け舟を入れる。
「別に恥ずかしがる事も隠すこともないだろう?
人形遣いを探してるって言えばいいじゃん・・・。」
「え・・・?
ま、あ、そうですけど・・・。」
ローズの目が輝いた。
「お人形さんに興味あるの?
だったら一緒に聞きにいこっか!?」
実を言うと、
シェリーはそういう流れになるのを待っていた。
自分の口から言い出せなかったようだ。
仮に一人で訪ねに行って、追い返されたり、
「人形はただの趣味」と言われたら、
自分がバカみたいに感じるからだ。
已む無くローズに引っ張られるように行けば、
少なくともそう感じることはない。
「じゃぁ、お願いしようかしら・・・、
ローズさん、紹介してくれます?」
「うん、行こっ!
ところで・・・メィリィ、ナターシャ・・・大丈夫?」
二人は食事を終えたはいいが、
また死人モードに戻っている。
「・・・だいじょーぶだよぉー、
いってらっしゃーい・・・。」