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4日目の1 メァリ・ラブゥ登場


いよいよ、グループ別に分かれての実習だ。

スタートは例の教室に全員集めて、カーリーのお話から始まる・・・。


 「みなさん、おはようございます、

 いよいよ今日から本番と思ってください。

 ・・・あら、空席がありますわね・・・?

 来てらっしゃらないのは・・・リムとヘスね・・・。」


にわかに教室がざわめく。

カーリーはしばらく黙って、

空の一点を見つめているようだったが、

しばらくすると、瞬きをしてから再び受講生達に呼びかけた。


 「・・・確かお二人は同じ部屋に泊まっていましたね・・・

 どうやら脱落のようですね・・・。

 とても残念ですわ。

 気を取り直しましょう、

 ・・・皆さんは4組に分かれてもらいます。

 マルコ班の5名は、この教室の前に集まってください。

 ルキ班の4名は後ろの方へ・・・。

 ネロのグループ5名は管理棟の情報室へ。

 そして、私の班は同じく管理棟の私の部屋に来ていただきます。」

 

受講生達は自分以外の者の行動に目をやった。

昨日のシェリー達ではないが、

カーリー直々の指導があるなど、

ほとんどの者が思いつかなかったからだ。

しかも、カーリーは人数こそ明言しなかったが、

計算すればカーリー班はたった二人だけだ。

いったい誰と誰なのだろう?

ローズはシェリーと共に、

ナターシャやメィリィに手を振って教室を出て行った。

石畳の道を抜け、ローズを含む7人は、

物々しい塀に囲まれた管理棟の門をくぐる。

待ち構えていたネロが彼女達を案内した。

 「私の班は、

 二階の奥が情報室になってますのでそちらへ行ってください。

 カーリー班は、

 3階を上がったところにイスがありますので、

 そこへ座って待ってて下さいね。」


ローズはここでも手を振ってシェリーと別れた。

もちろんシェリーもそれに応えたが、

シェリーは、

ローズと共に階段を上がる、一人の黒人の少女から目を離すことが出来なかった・・・。

その子は、脇に小さな手作りの人形を抱えていたから・・・。

 



3階に上がると、

ローズは階段の近くにあったイスにちょこんと座る。

続いて、ショートアフロの少女も隣に腰をかけた。

好奇心豊かなローズは、

隣の子の人形から目を離すことが出来ない。

 「・・・ねぇ、その子の名前は何て言うの?」


ついに、抑えが効かなくなったらしい。

まぁ、ローズにそれを求めるのは酷だろう。

白いTシャツを着た黒人の少女は、

最初、ローズのきらきらした目に戸惑っていたようだが、

人形を見下ろした後、

ニッコリと笑って一言だけ口を開いた。

 「マーヤ・・・。」

続いてカラダを揺すりながら、

ローズが畳み掛けるように質問する。

 「可愛い! あなたの手作り?」

 「そう、自分で作った・・・。」


ローズと違って人見知りするのか、

彼女はあまり喋るのは得意ではないように見受けられる、

だが、けしてローズを疎ましく思ってるわけでもなさそうだ。

 「すごぉい、器用なのね?

 あ! あたしローズ、よろしくね!」

 「私、・・・ラブゥ・・・よろしく。」

 

ローズはその後も、ラブゥや人形の事を聞きまくった。

対照的に、

ラブゥはそんなローズに焦るでも嫌がるでもなく、

ゆっくり言葉をつむぎだして、

一つ一つ短い答えを返していた。


 トン トン トン・・・

階段を足音が登って来た・・・カーリーだ。

 「・・・お待たせしてごめんなさい?

 あら、もう仲良くなってるのかしら?

 ローズが13歳、ラブゥが15でしたね、

 年齢も近いし、ちょうどいいでしょう。

 さ、こちらへどうぞ、私の部屋に案内します。」


・・・カーリーの部屋は、

窓は全て厚いカーテンで覆われ、

中は薄暗いランプが灯っているだけだ。

そのカーテンも絨毯も、立派な刺繍が施され・・・

売ったらいくらぐらいの値打ちだろう?

調度品も民族色豊かな小物も多く、

部屋の中は白檀系の香の匂いで充満している。

それだけでローズは嬉しそうに落ち着かないでいる。

笑顔こそ見せないが、ラブゥも同様のようだ。

 


 「さて、よろしいですか?」

カーリーは、

相変わらずの柔らかい物腰で席に着いた。

 「改めてよろしくお願いしますね、

 まず、お二人に言っておく事があります・・・。」


何だろう・・・、

二人はカーリーの言葉を黙って待ち構える。

 「ローズ、それにラブゥ・・・、

 あなた達はすでに、

 私たちの指導を特に必要とはしていないと思います。」

 「え?」

さしものローズも驚きの声が出る。

ラブゥは驚いてるが、

その反応は表には出ない・・・。

 「既にあなた達は、

 メリーとしてのスタイルは完成しています。

 もちろんこれは・・・あなた達が他の人に比べて、

 優劣がどうの、という基準ではありませんが、

 あなた達のスタイルに、

 私たちが余計なものを付け加えるものはない・・・

 という判断の元に選ばせてもらいました。

 従って、これから、

 私が残りの日数であなた達に教える事は、

 これからのあなた達の活動に役立てられるかもしれないし、

 逆に、全く役に立たない知識になるかもしれません。

 ただ、あなた達がここへ来たのが無駄足にならないように、

 これだけは保証します。

 ・・・もし、あなた達が最終日の試験まで乗り越えられれば、

 あなた達は、

 今まで以上の力を手に入れられるでしょう。」

 

ローズはワクワクが止まらない。

イスをガタガタ音を立てて前に詰めようとする。

 「あと、それと、ローズにラブゥ・・・

 あなた達の能力はまるで性質の違うものですが、

 お互いそれを見せる必要はありません。

 特にローズ・・・、

 あんまり質問攻めにするとラブゥが困りますからね?

 ほどほどに・・・。」

釘刺されちゃった・・・、

 「は~い・・・。」

と言って、ローズはつまんなそうに肩をすぼめてしまう。

 


なんだかんだで、

午前中の時間が終了を迎えた。

どの班も、

午前中は下準備に時間を費やし、

午後から本格的に始動するようだ。

カーリー班は、会話が中心だ。

よく喋るローズと無口なラブゥでは対照的だが、

カーリーがうまくバランスを振り分けて話を進めていく。

そろそろローズも、

ラブゥが無口なのは人見知りというよりも、

単に性格だとなんとなくわかってきた。


さて、ローズがお昼ご飯を食べに行こうと、

部屋を出る直前、

ここでちょっとした事件が起こる。

ラブゥが席を立つ時、彼女は絨毯に手をついた。

単純に、

絨毯の手触りを確かめていただけかもしれない・・・。

だが、その瞬間、

空気を切り裂くような鋭い声が部屋に響いたのである。


 「ラブゥッ!」


戸口にいたローズまで心臓が飛び上がりそうになった。

ローズが振り返ると、

鬼のような形相をしたカーリーがラブゥを見下ろしている・・・。

余りの衝撃で、

部屋の時間が止まったかのようだ。

カーリーはその形相のまま、

ゆっくりと口を開く・・・。

 

 「おやめなさい、ラブゥ・・・、

 この部屋だけにあらず、

 そのような行為は私たちへの攻撃と見なします・・・。

 初日に死んだパメラのようになりたいのですか・・・!?」


器が違う・・・とでも言うのだろうか、

ラブゥはすっかり怯えてしまい、

 「ご、ごめんなさい・・・。」

とかすれるような声で謝るのみだ。


 「今回だけはなかったことにします、

 ・・・ですが次はありませんよ・・・!?」


ローズは目を白黒させて、

ラブゥが部屋から出てくるのを待った。

 「・・・ねぇねぇ? 何したの?」

 「な、なんでもない!」

そのまま、ラブゥは走って階段を下りていってしまった。


そぉーっと、部屋を振り返ると、

カーリーがいつもの涼しい顔に戻っている。

 「ローズ、何でもありませんよ、

 どうぞお昼に行ってらっしゃい。」

 「・・・はーい・・・。」


ローズはお昼ごはんを食べるべく、

腕を組んで首を捻りながら階段を下りていこうとした。

・・・おかげで階段でよろけてしまいそうになる。

 



メリー受講生側最後の登場人物です。

なお、この黒人少女は実在する人物の名前をもじってます。


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VRoid版メリーさん幻夢バージョン
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