3日目の3 襲撃
・・・ここで少し場面が変わる。
面談が進行し、
既に半数以上のメリー候補生が島内観光を楽しんでいた。
といっても、
自然や風景以外、見るものはほとんどないのだが・・・。
例の正体不明の殺人事件もあるので、
多くの者は近場で済ますか、
それか同室となった者同士で、
少し離れた所にある滝や泉に足を延ばすだけだった。
・・・その二人、
ヘスとリムも暇つぶしに裏手の丘や林を散策していた。
「ヘスはなんて言われたのぉ~?」
「あたしはピアノ線使いだからねぇ、
歩行術や気配の消し方なんかを勧められたよ。
たぶん、あのサングラスのルキって人につくんじゃないかな?」
「いいなあ~、私なんて、
あのヒゲのキモ親父だよぉ、見たァ?
あのギラついた目ぇ・・・?」
「殺されないでね、リム?
セクハラされて迂闊にキレないようにね!」
二人は既に、
滝のある場所は通り過ぎていた。
両側は小高い崖のようになっており、
二人が歩いているのは片側の中腹にある細い砂利道だ。
眼下には、小さな川が流れている。
一応、転落防止の為、
彼女達の右側には、数メートルおきに杭が打たれており、
粗いロープで繋がれていた・・・。
空は晴れてはいたが、
所々に雲が覆い始めていて、
青空はわずかな面積しか残っていない。
この島も赤道に近い場所にあるが、
日も傾き始めていて、崖の陰に太陽は隠れてしまっていた。
また二人のいる斜面も、
南方独特の、幅の広い葉の植物が自生しているので、
この道は既にかなり薄暗い。
「・・・おっ、風が強くなってきたぁ、
もう少ししたら一雨くんのかなぁ?」
・・・ザザァァア・・・
ちょうどヘスが独り言のようにつぶやくと、
一段と強い風が木々や葉を揺らす。
シャツがめくれあがり、おへそ丸出しになる。
「おおおぉ!?」
どうせ、他人に見られるわけでもなし、
男がこの場にいるわけでもなし、
それよりよろめきそうになるので、
右手のロープを思わず掴まざるを得ない。
「ねぇ、リム、あんたスカート大丈・・・ぶ・・・ 」
笑いながら後ろを振り向いたヘスは、
己が目を疑った・・・、
リムがどこにもいないのだ。
そんなバカな?
隠れる所なんかない・・・。
先程の強い風の時に、
砂利の音は紛れてしまったのかもしれないが、
ほんのわずかの隙に、
リムが見えないところにまで移動できるはずがない。
ヘスはすぐに川の方へ注意を向ける。
・・・まさか川に転落なんて・・・。
それだったら、悲鳴ぐらい出るだろうし、
彼女があの程度で川に落ちるなんて考えられない。
ヘスはもう一度辺りを見回し、
恐る恐る、ロープをまたいで川岸を覗き込んだ・・・。
・・・あれ?
川の手前の草木の陰に、
その場には不自然な色彩の物体がわずかに露出していた。
衣服?
まさかと思ったが、
リムのはいていた薄い色のスカートだ。
転落したのか!?
斜面は注意しながら降りれば、
転ばずに下までたどり着けそうだ・・・。
ヘスは腰を曲げて、
不恰好に手をつきながら斜面を下り始める。
「リムー! おい、リムーッ!!」
少しずつ近づくと、
スカートの裾からまぶしい太ももが露出しているのがわかる。
やばい、意識をなくしてるのか!?
カラダは仰向けになってるようだ。
すぐに茂みからリムの顔がのぞい・・・
うっ!?
目が開ききっていた・・・、
まるで最後に信じられないものを見たかのように・・・。
ショックを受けながら、
さらにヘスがもう一歩前に進むと、
ヘスの心には、
衝撃より恐怖の感情が噴出し始めた・・・!
咽喉がざっくりとえぐられていたのだ・・・。
大雨の日の排水溝のように、
赤黒い液体が咽喉からどんどん湧き出てくる。
殺されている・・・!
あのグェンとかいう女を殺したヤツか!?
すぐにヘスは自己防衛本能が働いた。
反射的にベルトの金具に指を引っ掛けると、
ビィィーンという音とともに細い金属製のワイヤーが飛び出した!
「誰だぁ!?
どこだ、どこにいるゥ!!」
そしてそこへ・・・
・・・その声は、たった一つの声色でありながら、
ヘスの周りの、
茂みのあちこちから聞こえてきたのだ・・・!