2日目の7 バスルームの惨劇
既に太陽は沈みきっており、
わずかに西側がやや空の色が薄い。
林の隙間を見上げると、
星がいくつも瞬いている・・・。
食堂から宿舎の方へは歩いて二分程度の距離、
いずれも一戸建てにはなってるが、
宿舎は密集しているので、
それぞれの部屋を移動するのにもさほど苦にはならない。
シェリーが移動しながらローズに説明する。
「確かグェンて子のは、
バンガローの前に大きな樽が無造作に置いてあったところです・・・。
でも、ローズさんが悲鳴を聞いたとこかどうかは保証できませんよ?」
「うん!」
なにが「うん」だかよく判らないが、
シェリーの言葉の内容自体は、
どうでも良かったのだろう。
聞き流しても良かったのだが、
取り合えず何か答えないと悪いかな?
とでも思ったようだ。
その時、
彼女達の前方の視界に何かが映った。
彼女達がグェンの部屋を視界に納めたとき、
・・・その目的の部屋の屋根から、
何かが、
飛び去ってゆくのを彼女達は見逃さなかった。
反射的に全員の足が止まる。
「い、今のはナンだ!?」
「鳥!? ・・・違う。
部屋の向こう、飛び降りたみたいナ・・・?」
「さ、猿でもいるのでしょうか?」
ローズ以外のそれぞれが、
今、自分達が見たものを分析しようとしていた。
既に暗くてその姿はうかがえない、
・・・影の大きさと敏捷さでしか判断できる材料はない。
彼女達を無視してローズは走り出した。
メィリィが叫ぶ。
「ローズ! 待つ!!」
「大丈夫!
もうあの部屋にはいないわ!」
一度だけ振り返って、
ローズはすぐにグェンの部屋の前に到着していた。
他の三人もすぐ追いついたが、
ローズは構わずグェンの部屋を叩く。
ドンドンドン!
「グェンさん、ごめんなさい!?
いらっしゃいますかー!?」
玄関は内側から閉じられている。
だが、横手に廻ったメィリィが、
強大な力によって破られたような、
窓の残骸を発見した・・・。
窓と言ってもガラスではなく、
内側から閂のかかる木製の押し出し式の開口部である。
人一人が十分入れる大きさだ・・・。
カラダが一番小さいのはローズだが、
レースやシャーリング使いのヒラヒラした服では、中には入りづらそうだ。
ジャージ&タンク姿のメィリィが中に入る。
彼女は部屋に降り立つと、
慎重に辺りを見回した・・・。
「グェン?」
部屋の中は荷物が乱雑に散らかったままだ・・・。
荒らされたのかもしれないが、グェン本人の性格かもしれない。
そういえば、
昨夜も下品な食事をしてたのは彼女だったっけ・・・。
メィリィが足を進めると、
シャーワールームの扉が開いていた。
「グェン・・・!?」
シャワールームのタイルの上には、
あり得ない筈の「異物」が存在していた。
そしてその下には、
赤黒い液体が大量に流れていたのである。
・・・既に何人もの死体を見てきたメィリィも、
その凄惨な遺体を目撃して眉をしかめざるを得ない。
ちょうど入浴中だったのだろう、
三つ編みは、ほどくどころかバラバラに乱れ、
一糸纏わぬ姿で、グェン・・・
恐らくグェンに違いないであろう、
そのカラダは無造作に転がっていた・・・。
顔が半分、削ぎ取られ、
目玉は片方しか残っていない・・・。
足も片方、太ももからなくなっている。
野獣にでも食い殺されたとでも言うのか?
咽喉もともザックリとえぐられている・・・。
これが致命傷だろう。
メィリィは周りを見回すが、
凶器のようなものも、遺体の一部もない。
犯人は足を持って帰ったのか?
何のために!?
「メィリィ!?」
先程の窓から首を出して、
ローズがとても心配そうだ。
「いま、あけるよー!」
すぐにメィリィは戸口に赴いて、
閉じられていた鍵を開ける。
待ち構えていたナターシャとシェリーに、
メィリィは自嘲気味な皮肉を口にした。
「食事済んでて良かったネ?」
・・・冗談じゃない。
三人はメィリィに促されて、
シャワールームの惨状を目の当たりにする。
そしてシェリーは、
駄目押しを喰らったかのように、
ついにその場にペタンとしゃがみこんでしまった・・・。