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第2話

 

ああ、

麻衣はなんて可愛いんだろう? 

一人悦に入っていると、

携帯の向こうから「ママに代わって?」という妻の声が聞こえてきた。

 『あなた?』 

ハッと我にかえる自分。

 「あ、ああ、何だい、百合子?」

 『麻衣の言ったお祖母ちゃんの事は気にしないで・・・、

 子供の言う事だし・・・。』

 「ああ、大丈夫だよ、気になんかしちゃいないさ。」

 『それよりあなた。』

 「ん? な、何だい?」

実を言うと妻はこの一瞬の間が怖い。

いつかお見せしよう。

 『無理しちゃ駄目よ、

 危ないと思ったら、・・・手を引いてね。』

 「・・・ありがとう百合子・・・、

 決して危ないことはしないさ・・・!」


今日、二回目の「ありがとう」が自然に口に出た。

そういや、前はいつだったかな?

私はおやすみを告げて、携帯を切った。

 「よーし! やるぞーッ!」

我ながら現金である。

カラ元気だけではない、

・・・麻衣のセリフの「じゅーじか」で思い出せたのだが、

被害者家族は熱心なクリスチャンであり、

彼らは毎週日曜には、親子三人で教会に通っていたとも聞いている。

そうなると余計に不自然さが増すばかりだ。

(神社で自殺するものかな?)

駄目もとで、教会に向かってみよう。

場所はある程度把握している。

うまく行けば、

教会関係者に事件の感想ぐらいは取れるかもしれない。



さて、

教会の敷地には何台か車が止まっていた。

そのうちの一台に目が留まる。


 ・・・あの家族の車だ!

 ここに来ていたのか?


私は車を敷地に停め、

教会の正面の大きな扉を開いた。

 「すいませーん、夜分失礼しまーす。」

しばらくすると、

神父と思しき白髪交じりの年配の男性が現れた。

 「・・・どちら様でしょう?」 

とりあえず記者という身分は隠して・・・と。

 「○○さんがこちらにいらっしゃると、伺ったんですが・・・?」

神父は、あからさまに迷惑そうな顔で、

「もうお帰りになりましたよ。」と、ぶっきらぼうに答える。

ごまかされるものか。


 「ですが、車は表に停まったままですよ?」


その途端、

神父の表情に変化が生じる。

何か、・・・良くないことが起こったのか?

神父は途端に身を翻し、

奥へと戻っていったと思ったら、

すぐに外套と懐中電灯を用意して、再び姿を現した。

 「あなたは新聞記者か何かですか?」 

神父は私の身体を追い越し、

慌ただしく靴を履いて表に出ようとしている。

容易ならざる事態が起きている事は私にも感じられた。

 「あ、わ、私は雑誌のルポライターです。」 

ごまかすつもりだったが、そんな空気ではない。

神父は表に出る前に一度振り返る。

 「マスコミの方に話す事はありません・・・、

 と言いたいのですが、手伝って下さいませんか?

 もしかすると・・・。」


私の返答を待たず、神父は表へ飛び出した。

神父は車の所まで行き、ライトを照らす。

すぐに私も追いつき、ライトに照らされた車内を覗いてみた。

 「あれ? 運転席に 封筒が・・・

 『遺書』!?」

神父は私の顔を見た後、車のドアを開けようと試みた。

・・・ロックされてはいない。

ドアを開けた神父は遺書を手に取る。

 「こ、ここの教会の神父様・・・ですよね?

 あ、あの夫婦がここを出られたのはいつ頃なんですか?」

私の慌てた質問に、神父はすぐには答えない。

遺書に封はしていなかった。

私は肩越しに、ライトで照らされた遺書の一部を読む。

細かい事は書いていないようだ。

 「○○様(神父の名?)」に最後まで迷惑をかけたこと、

愛する一人娘を失った事への絶望、

加害者とその祖父への恨みが書かれていた。

・・・そして


  『・・・主のお教えに背くかもしれません、

 ですが私達夫婦にはこれしか道がないのです。

 愛する娘の苦痛を少しでも和らげるために、

 私達の命と恨みの情念を・・・

 あの人形メリーの糧として奉げようと思います・・・

 どうか・・・』


内容を把握できたのはそこまでだった。

神父は書面を封に戻し、

振り返って、先ほどの私の質問に答えてくれた。

 「彼ら夫婦が出たのは、およそ一時間ほど前です。」

その後すぐに、神父は近所の扉を叩き、私は警察に連絡をとった。

そんな緊急事態でありながら、

私の頭からは、遺書に書かれていた部分がどうしても離れない・・・。


    人形・・・メリー  メリーさん・・・? 


近隣住民総出での捜索の結果、

・・・彼らの行方の手がかりが見つかった。

教会のすぐ先の街道沿いに、大き目の橋があり、

そこに、夫婦の靴が揃えて並べられていたのである。

そして事件は、

一家全員死亡という最悪の結果を迎えてしまった。



いま、何時?

ああ、日付が変わっていた。

疲れた・・・、

まさか自分が警察に聴取されるとは・・・。

反対に、こっちが何か聞き出してやろうと思ったが、

さすがにそうは甘くない。

ただ担当の若い刑事は、

「殺人だという証拠さえあれば(例え容疑者が警察OBでも)動く」とは、言っていた。

信用して良いのだろうか?

帰り際、神父の姿が見えた。

話しかけるタイミングは今しかない。

あの、気になる遺書の中の記述の事を聞いてみたかったのだ。

遺書に書かれていた、

メリーという人形とは何の事なのか?


寒さで白い息を吐きながら、神父が車に戻る前に声を掛けてみた。

 「聴取、終わったんですか? ご苦労様です。」

神父は一瞬、複雑な表情をしたが、すぐに礼儀正しく頭を下げる。

 「・・・先程は見ず知らずの方に、

 手伝って頂いてすみません、

 あの親子が、

 ・・・祝福された土地に辿り着けるといいのですけれど・・・。」


私は一呼吸置いてから、

 「・・・あの親子の事を詳しくお聞きしたいのですが?」

と尋ねたが、返答は冷たかった・・・。

 「マスコミの方には何も申し上げることは無い、と言った筈です。」

 「では、遺書の・・・

 人形の事を教えてくれませんか? メリーとは?」


初老の神父はこちらを見上げた。

 「何の事か、私にも分りませんな・・・、

 確かに遺書にありましたが・・・。」

神父は自分の車に乗ろうとしている。

全く立ち入るスキがない、でも負けるもんか。

 「い、いや、人形の件は、

 マスコミというより、子供の父親として・・・、

 夕方、ウチの子供がメリーという人形のことを・・・言って・・・

 あ、アレは夢の話・・・だったっけ?」


我ながら呆れてしまう。

いくら、神父を引き止めるセリフが思い浮かばないと言ったって・・・。

だが、意外にも神父は、私の言葉に興味を持ったようだ。

 「お子さんが・・・なにか?」 

神父の動きが止まる。

 「え? ・・・ええ!

 夕方、家に電話したら、

 4つになる娘が、夢の中で『メリーさん』という人形に私が会うと、

 死んだ祖母に教えてもらったって言うんですよ。」 

もういいや、言っちゃえ。


神父の驚いた顔は言葉に言い表せない。

しばらく神父は無言だったが、ようやく口を開いてくれた。

 「明日の朝、教会においでなさい・・・。」


・・・翌日、隣町で3人の男の斬殺死体が見つかるのだが、

この時まだ、私達はそれを知らない・・・。




朝の教会は、

寒さの分もあるせいなのか、余計、荘厳に感じられる。

今朝は雲も厚く、

陽の光も十分には降り注がない。

決して大きな教会ではないが、

古びた感じがなお、その荘厳さを高めていた。

私が白い息を吐きながら、

スカーフをかぶった修道女に案内されると、

礼拝堂で昨日の神父が朝の礼拝を行っていた。


ここでは寒いからと、その場を過ぎ、

石油ストーブの焚いてある小さな部屋で待つことになる。

しばらくすると、

祈りを終えた神父がやってきた。

 「おはようございます、今日はわざわざ、ありがとうございます。」

神父は私の挨拶には答えず、

短く頭だけ下げると、いきなりこう切り出した。


 「あなたの・・・お子さん、娘さんでしたかな?

 普段、何か変わったことはございませんか?」


今度は私が面食らった。

まぁ昨日、話をふったのは私だからしょうがないんだが・・・。

 「え、ええ、普通の子供ですよ、

 特に・・・別段・・・何も・・・。」

 「では、お祖母さんというのは・・・?」

 「ああ、えーと、母親の方の祖母のことなんですけど、

 時々、娘が夢でお話するって言うんですよ、

 娘が生まれる前に亡くなっているんですけどね。」


神父にこんな話をすると、なんか重大な話に聞こえてくる。 




 「あの・・・ 娘は何か・・・?」 

神父はしばらく考え込んだ後、私の顔を見据えた。

 「いえ、失礼しました、問題はないと思います・・・

 それで、ゴホンッ、昨晩の件ですが。」 

 「あ、ハイ。」 

こっちも、背筋を伸ばして姿勢を正す。

 「まず、『メリー』という人形について・・・、

 これは我々の教会や宗派と何の関係もない事、

 また、まともなニュースには決して取り上げられる価値の無い、

 ただの噂話だということ・・・、

 これを覚えておいていただけますかな・・・?」


価値が無い・・・という割には、

神父の語気には強い意志のようなものを感じられる。

 「は、はい・・・。」

ここではそう言うしかない。

だが、この時点で私の心中には、

未知のものに憧れる期待と、

娘への関わりとの不安で想いを交錯させていた・・・。

後になって考えれば、

聞かなかったほうが良かったのかもしれない。

 「・・・では 」

神父はため息をついて、

呪われた「人形メリー」の話を私に語って聞かせた・・・。

 


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