2日目の6 悲鳴
その日の夕食・・・、
夕方スコールがあったおかげもあり、
今夜も夕闇に海風が気持ちいい。
テーブルの上の、オレンジ色のランプに照らされて、
4人の受講生は食事を楽しむ。
ローズ・メィリィ・シェリーに加わって、
今夜はナターシャが同席していた。
「ナターシャは何してる人なの?」と物怖じしないローズ。
「あたし? あたしはゲリラだよ。
メリーの暗殺術を仕事に役立てないかと思ってね。
・・・ここに来るには結構、悩んだんだけどね。」
対照的にシェリーは口数が少なく、
他の三人の話を興味深く聞きながらも、
自分からは会話に参加しない。
・・・もっとも、それは彼女本来の性格の為だけではない・・・。
「シェリーどうしたカ?
昼間のことが気になってるカ?」
シェリーは、
午前中に受けた恐怖がまだぬぐえないようだ。
無理もない。
ピンポイントでカーリーの黒い瞳に見つめられたのだ。
せめて口を閉じているのがやっとだったのだろう。
そこの処はメィリィの目にもはっきりと映っていた・・・。
「い、いえ、自分でも、
ここがまともじゃないのは最初からわかってはいたんですが・・・、
みなさんは、
あのカーリーを始めとした指導員達を見て、
なんとも思わないんですか・・・!?」
思いつめたようにまシェリーは周りを見回す。
一瞬、空気が静かになったが最初にナターシャが口を開いた。
「あたしはカーリーよりもマルコが・・・ね。
多分、あいつはあたしと同業だ・・・、
もっとも向こうは純粋に破壊や戦闘を好むタイプだと思う・・・
ていうか、
あれサディストの変態じゃねーのか?
第一あいつ、自分が殺した女と何やってたって?
恐らくあのメンバーからしたら、マルコが戦闘指導員ってとこか?
想像したくもねーなぁ・・・、
ま、あたしは大丈夫だろうけど・・・、
気弱そうな女の子や、お嬢ちゃまは危ないと思うよ~?」
シェリーは語気を強めて反論する。
「ち、違うんです!
・・・それはあのヒゲのムサ男も気持ち悪いですが、
そのアイツの頭が上がらないカーリーは何者なのです!?
まるで、人の心の中を覗かれているような・・・そんな・・・
いえ、そんなことはない・・・ですよね・・・。」
他人の心をのぞく・・・
それはメィリィにも心当たりが有る・・・、
だがそんなことが出来るのだろうか?
その時、
デザートのラズベリーヨーグルトを、
美味しそうに食べ終わったローズが不意に質問をした。
「カーリー先生って『メリー』なの?」
「そう言えばそうネ?
『メリー』だと言っても違和感ナイ・・・、
でも、自分がそうとは一度も言ってナイね・・・。」とメィリィ。
基本的にメィリィは、
他人のことはあんまりどうでもいい。
しかし一度興味を覚えると、その事を深く追求したくなる。
「ローズはいろんな事を知りたがるタイプね?
・・・それでローズはカーリーの事どう思う?」
「ん~面白い話が聞けて楽しいけど・・・」
「けど?」
「なんか違うような気もする。」
ナターシャとシェリーは顔を見合わせる・・・
昨晩に続いて、
今日もローズは興味深い発言を行う。
メィリィは、
面白半分、真面目半分でローズの感受性に興味を持っていた。
メィリィにとっては、この子の考え方も、
カーリーの話と同様に不思議な説得力を感じるのだ。
「ナンかって・・・?」
続く質問に、
ローズは困ったような顔をして首を傾ける。
「ん~、よくわかんなーいんだけどぉ・・・
なんとなくぅ・・・。」
ナターシャは、
「しょせん子供」と、ローズの感じる違和感など気にも留めなかったようだ。
だが、
シェリーとメィリィはそれぞれが心に思う事がある。
しばらくしてから、
シェリーは思い出したように顔を上げた。
「・・・あの、心を読める云々はともかく・・・
(小声で)会場の各所に、
盗聴器や隠しカメラとかあるんじゃ?
ここへ来る時、
携帯電話などの通信機器の持込を禁止されたでしょ?
情報管制なんかもあるんじゃ・・・。」
「ああ、それはあるかもなぁ?
母体は傭兵機関だろ?
そういった側面にも気を遣うだろうなぁ?」
・・・!
ナターシャの言葉が終わるか終わらないかのうちに、
突然ローズが宿舎のほうを振り返った・・・。
「ローズ?」
一瞬ではない・・・、
ローズは振り返った首をテーブルに戻そうとしない・・・。
他の三人はローズの突然の行動を理解できないでいると、
ローズはその体勢のまま口を開いた・・・。
「悲鳴が聞こえた・・・。」
「ひ、悲鳴・・・?」
シェリーが震える声を絞り出す。
ナターシャとメィリィは戦闘準備のスイッチが入る・・・。
命をやり取りする稼業ならではの当然の反応だ。
「ローズ・・・
あたし達が泊まってる宿舎のほうカ?」
首を戻したローズは、
人形のように表情をなくしたまま答える。
「方角は間違いない。」
そして彼女はそのまま、他の食事中の受講生達を見回す。
「ねぇ、シェリー?
ここに来てないのは誰と誰?」
「えっ? ちょ、ちょっと待って下さい、
1、2、3、4・・・
あたし達入れて今、15人が食事して・・・。
20人中一人脱落してるから・・・
今、ここにいないのは4人・・・。」
再びローズは宿舎のほうを見つめ、
「その人たちの部屋はわかる?」と冷静に聞きなおした。
「ぜ、全員は無理よ。
・・・そこまでは私も観察できていな・・・あ!
昼間カーリーに質問されていた三つ編みの子・・・
グェンって言ったかしら?
あの子は目立ってたからわかりますわ!」
すぐさまローズは席を立った。
続いてメィリィ、ナターシャも後に続く。
「み、みなさん、行かれるのですか?」
メィリィがシェリーを見下ろす。
「・・・言わなかったケド、
昨夜も誰かがあたしの宿舎をうかがってた・・・。
気のせいかと思ったケド、対策しないとイケナイ・・・!」
「シェリー? 部屋だけ教えて?」と、ローズ。
世間知らずと思ってた年下の女の子に、
主導権を握られるわけにはいかない。
シェリーも必死に勇気を奮い起こした。
「わ、私も行きます・・・!」
ナターシャは、
配膳台に行ってナイフの束を握りしめてきた。
「ま、気休め程度にね、
あたしは自前のがあるけど、アンタ達はいる?」
メィリィとシェリーは、
ナターシャからナイフを手渡される。
ローズは何も受け取らず、
先頭に立って、木々に挟まれた石畳の道を歩き出した。
最初の犠牲者は・・・。
(マルコに頭を潰されたパメラは除く)