2日目の4 最強の騎士とカーリーの講義
・・・一方、場所は変わって、
ここはパプアニューギニア英国領事館。
「ガワン公使、
本国の情報部よりお電話が入っておりますが?」
呼ばれた男は、
熊をも思わせるほどの大柄な男だった。
年のころは40台位か、
その顔にはしわが彫られ始めている。
その男、ガワンは、
自分の席に巨体をゆっくり沈み込ませると、
「ありがとう。」と一言、言った後、
机の受話器を手に取った。
「・・・ああ、どうも。
お久しぶりですな?
・・・はい。
・・・ええ、その件は以前に・・・はい。
そうですか、場所が特定できましたか?
では、本部で決定が下りたのですな?
プロジェクトの規模は・・・。
いえ、私の方の人員で問題ないかと・・・。
や、本部の方で決定されるのでしたら、
私に異存はありませんが・・・。
李袞ですか?
ああ、彼なら安心です。
それにしても慎重ですな、
久しぶりのプロジェクトとは言え、
私と彼の組み合わせを選ぶとは。
ハハ、ご安心を。
まだまだ、
若造どもに活躍の場を与えてやるほど老いてはおりません。
では、計画書は早急に送りますので、
はい。
お嬢様にもよろしくお伝え下さい。
は、では失礼します・・・。」
電話を終えた後、
巨漢のガワンは不敵な笑みを浮かべながら、
部下にいくつかの指示を出した。
「・・・本国から緊急の指示が入った。
向こう二週間ぐらいの私の予定を見直してくれないか?
代理に任せられる件以外は、
スケジュールをキャンセルしてくれ。
・・・それと、ガレス、
君は亜細亜支部の李袞に連絡してくれ。
・・・久しぶりのでかい任務だ・・・!」
そして再びセントメリー諸島の小島。
黒衣のカーリーのお話の時間だ。
「・・・さて、皆さん。
・・・先に謝った方がよろしいのかしらねぇ?
実はですね、
『メリー』などというものは存在しないのですよ。」
カーリーの突然のセリフの内容に、
全ての受講生が騒ぎ出す。
「あらあら? 誤解しない下さいね。
『メリー』が存在しないというよりは、
『メリー』の定義が存在しないと言う事なのです。
身も蓋もない言い方をすれば、
ここにいる貴方達全員、
その気になれば私たちの指導を受けなくても、
勝手にメリーを名乗って殺人を犯せばいい・・・、
そうでしょう?
実際、そういう方もいらっしゃると思いますよ?
ただ、これだけは保障します。
私たちの研修を終え、
無事に試験に合格したならば、
あなた達は、一般の人間には
手 の 届 か な い 能力を手に入れられる。
・・・そう思っててください。
実際、ただそれだけなのです。
もちろん、
先程わたしたちは、
なんの制約もしないと言った様に、
あなた方は、新しい能力を手に入れても、
使う使わないは自由ですし、
メリーを名乗る名乗らないも自由。
・・・それで具体的にこれからどうするかですが、
私の講義とは別に、
午後はいろいろアンケートや簡単な筆記試験を行います。
目的は皆さんの資質を確かめる事です。
あなた方が身につけるべき能力は、
各自の素質によって様々です。
・・・ここにいるネロ、ルキ・・・(間が空いて)マルコは、
その皆さんの素質を開花させるお手伝いをするためにいるのですよ。」
・・・静かな教室にカーリーの足音が響く・・・。
「それでは、次に、
メリーとはいったい何なのか?
その考察をしたいと思います。
ですが、これも先程述べたように、
定義がはっきりしない以上、
神学論争のようなものになります。
ただ、これからみなさんが『メリー』を名乗るのでしたら、
その起源や謂れを知っておくべきでしょう。
・・・実際メリーの伝説が世に広まったのは、
せいぜいここ百年ちょっとと言われています。
では、それ以前にメリーはいなかったのか・・・?
いえ、おりました。
ただ、メリーという名前が先にあったわけではありません。
そう、
・・・メリーなんて名前はどうでも良いのです。
私たちがあなた方に知って欲しいのは、
メリーと呼ばれる者の本質です。
・・・さて、だれかに聞いてみましょうか・・・?」
カーリーは学校の先生のように、
机の間を歩き、受講生達を見回す。
そして一人の少女の前で足を止めた。
昨晩食堂で、品のない食べ方をしていた三つ編みの少女だ。
「グェン? あなたに聞こうかしら?
メリーと呼ばれるためには何が大事だと思います?」
ここでも必要以上に頭を揺らしながら、
その少女は必死で考えた後、
「鎌!」
とだけ大声で答えた。
「なるほどぉ?
メリーの鎌、すなわち武器の事ですね?
ですが実際、大昔のメリーに相当する者は、
必ずしも鎌を使ってきたわけじゃないですのよ。
・・・これも私たちの考え方なので、
皆さんにそれを押し付けるつもりはないのですが・・・。」
そう言った後、
カーリーは何人かの受講生の顔を見つめた。
メィリィ・・・シェリー・・・そしてローズの顔を・・・。
ここでカーリーは、とんでもないことを話し始める。
「メリーに必要なのは、
強さでも、知恵でも、冷静さでも残酷さでもないのです・・・。」
その言葉に、
メィリィとシェリーの心臓が止まりそうになった。
昨夜、シェリーとローズが話してた内容とまさにドンピシャではないか。
昨晩の会話を把握しているとしか思えない。
この島では、盗聴器でも要所要所に仕掛けてあるのだろうか?
ローズは相変わらず、
呑気にカーリーの顔を見上げ、
手も挙げずに興味津々とばかりに黒衣のカーリーに聞こうとした。
「え? 先生、じゃあメリーさんには何が要るの?」
カーリーは、
「先生」と呼ばれてちょっと照れたようだ、
思わず彼女の顔から笑みが漏れる。
「ふふ、可愛い子ですね?
実際、
今言った強さも、知恵も冷静さも残酷さも、それぞれ大事ですが、
絶対に必要なものではありません。
あなたがたがそれぞれ、自分に足りない・・・
又は必要だと思ったら精進して励んでください。
では、本題に戻りますが、
私がお聞きした、
メリーに必要な事というのは、すなわちメリーの起源にも関わってきます。
・・・この中で一番小さいのはローズかしら?
なるべく簡単なお話にしましょうかね?
メリーの本質とは・・・まず女性であることが重要です。」
受講生達がにわかにざわめく。
カーリーはそれらを気にも留めず話を続けた。
「では、ここでいう女性とは何なのか?
皆さんは、
健康な体に生まれているならば、
子供を生むことができるでしょう?
・・・女性は古来から、
命を産み出す神秘的な存在とされてきました。
現在、様々な宗教や科学が発展しているために、人間は忘れかけていますが、
女性には、
本来、生命を司るという特殊な観念が持たれていたのです。
そしてさらに言うならば、
その生命の源たる子宮は、
一つの異界であるとも考えられてきたのです。
・・・この世に生まれてきたならば、
男も女も、
記憶の奥底に子宮の中にいた時のイメージが残っているといいます。
そしてよく、死に掛けた人間が見ると言う臨死の情景・・・。
人によりイメージは様々かもしれませんが、
人が持つ死のイメージとは、
子宮の中にいた時の記憶なのです。
人間の営みが正常である場合、
女性の機能は子供を生み育てる事・・・
ですがその営みの歯車が逆に動いた時、
その聖なる子宮は、
命を吸い取る暗黒の空間・・・すなわち冥界と化すのです・・・。
本当は、みんな分っているのです、
・・・ただ忘れているだけ・・・。」
騎士団の新キャラです。
騎士団には最強の名を冠する騎士が3人います。
今回はその内、パワー特化の騎士「ガワン」が出陣します。
なお、カーリー先生の講義は次回まで続きますが・・・
内容は覚えなくても構いません。
テストには出ませんから。