1日目の3 シェリー登場
二人は、
バンガローの外側にも異常がないことを確かめると、
島の中央に近い食堂に出かけていった。
既にほとんどの者は食事を終えたらしく、4、5人の受験生がいるだけだ。
改めて見るとここの異常さがよく分る。
・・・ブツブツ独り言を繰り返す髪の長い女・・・。
・・・やけにオーバーアクションで、
食べ物を散らかす品のない三つ編みの女の子・・・。
まともな子は・・・
あのメガネの子ぐらいか・・・。
昼間、責任者のカーリーに、
質問をしていた女の子だ。
メィリィが、
ほんの2、3秒でそれらのことを観察していると、
ローズもそれに気づいたようで、
メガネの子の方に首を傾けた。
「メィリィ、あの子にも声かけていい?」
「あ、ああ・・・あたしは構わない・・・。」
「じゃ、聞いてくるね?」
一応、ローズの人を見る目は常識の範疇内にあるようだ。
ちょっと安心するメィリィ。
メガネの子は、
ほとんど食事を終えかけていたが、
礼儀正しく彼女達の同席を許した。
友好的とも排他的ともいえない、
事務的な応対ではあったが。
その少女はシェリーと名乗った。
清潔感のある白いブラウスに、
リゾートティストの麻のスカート。
黒ブチのメガネをかけていて、ごくごく普通のイメージだ。
だが、
小顔の割りに目はぱっちり見開いており、
一度見たら印象に残るタイプであろう。
「ふぅ、まともな人で良かったァ・・・。」
メィリィはついつい本音をしゃべってしまう。
メガネのシェリーも同意見だったようで、
その時、初めてクスッと笑った、
・・・ほんの一瞬だけ。
「こんな所だと、
果たしてまともな人ってのは褒め言葉なのかしらね?
でも、確かにまともな人がいないと心細いですわ、
ヨロシクお願いしますね。」
シェリーの応対も、自虐的な皮肉も混じっていたが、悪意の欠片も感じるようなものでもなく、
常識的な受け答えと言えよう。
ローズはすぐに無邪気な会話を始めようとする。
だがメィリィは、
(シェリーに関しては情報を共有できる仲間として付き合ったほうが良いのでは?)
と考えていた。
恐らくシェリーも・・・
いや、普通の人間なら考える事は同じはずだ。
「メリー」認定試験とは何なのか?
この島の運営は?
などなど、気になる事はたくさんあるはずだ。
メィリィはそのあたりをシェリーに聞いてみた。
「ごめんなさい、
私も多分、大した情報は持ってませんわ・・・。
勿論、事前にできるだけのことは調べようとしたけれど、
・・・メィリィさん? あなたはいかがなのです?」
「・・・それは・・・あーアタシも同じ・・・。
でも実際に、メリーという謎の暗殺者がいる・・・。
そしてそれは、人間の能力を遥かに超えるチカラを持つ・・・。」
シェリーはため息をついた。
「たぶん、ここにいる人達は皆、
『メリー』になってからその先は、
それぞれ目的が違うのでしょう。
・・・でも、
戸籍や国籍を失うという意味をわかっていらっしゃるのですかね?
つまりここでは何があっても、
誰かに助けてくれる保証は全くないということ・・・。
みんな・・・
『メリー』になれなかった場合の事を考えているのかしら?」
勿論メィリィも、その可能性は考慮していた。
だが、元の世界での彼女にものっぴきならない事情がある。
ただ、ここでそれを明かす必要もない。
メィリィは会話を続ける・・・。
「・・・シェリー、
それはあなただって・・・?」
「ええ、もちろん。
・・・一応、それなりに対策はあるのですけどね、
それより・・・この子、ローズさん?
大丈夫なのですか、彼女は・・・?」
・・・シェリーとメィリィは、
思わずローズの顔を覗き込む。
当の本人・・・ローズは話が良く飲み込めてないのか、
きょとんとして他の二人の顔を交互に見比べる。
メィリィもその事は当然・・・
いや、実を言うと、なるべく考えないようにしていた。
どう考えても、ローズがこの先、
無事に試験をやりすごせるとは思えない。
「?」
・・・とりあえずローズは、
首を曲げてペコちゃんみたいな笑顔を作る。
こういうときは笑えばいいとでも思っているのだろうか?
メィリィも困ってしまった。
何が起きるか分らないこの島で、
仲間を作ること自体はいい。
だが、ローズと一緒にいて、
彼女の存在が役に立つかどうかは・・・。
もちろんメィリィも、
あまり深く考えてローズと行動を共にしているわけでもないのだが。
「ローズさん?
あなた、メリーになるってことがどういうことかご存知なのです?」
ついにシェリーはローズ本人に聞いてみた。
「え? 人を簡単に殺せるのよね?」
即答である。
顔を見合わせるシェリーとメィリィ・・・。
ローズは、
時々明るい顔をして、恐ろしいことを言う。
「・・・そ、そうですね、
私たちも漠然とした事しか分らないので、
はっきりとは言えませんけど、
イメージとしては間違ってないかも・・・。
で、ではローズさん?
あなたは今、何ができるの?
それとも何が得意なのです?」
「んー? あんまり上手じゃないけどぉ・・・ 」
「上手じゃないけど・・・?」
「歌が歌えるし、踊りも好きよ?」
思わず噴出すメィリィ。
シェリーは呆れるしかない・・・。
「メィリィさん・・・?
この子、悪いけど足手まといにしかならないんじゃないかしら?」
メィリィは一旦、ローズの顔を見てからシェリーに答える。
「そうかも知れナイ、
でも、ローズおもしろいヨ・・・。」
シェリーはまたまたため息をついた。
ところが次の瞬間、
ローズはタイミングを外して意味深な言葉を発した。
「メリーさんになるには何が要るの?
強さ? 頭のよさ? それとも残酷さ?」
「・・・!」
シェリーでさえもその発言に驚いたのは確かだ。
「ず、随分、ユニークな発言ですね?
私も『強さ』と『知恵』は必要だとは思いますが・・・
『残酷』さなんて考えつきませんでしたわ。
・・・強いて言えば、
『冷静』さは必要だとは考えていますが・・・。」
シェリーはしばらく考え込んでた後、席を立った。
「メィリィさん、
確かにこの子は面白いかもしれませんね?
でも、今夜はこれで失礼いたしますわ。
ローズさんもごめんなさいね?
・・・ああ、あとそれと・・・、
役に立つかどうかわかりませんが、
私の知っていることをお話ししておきます。
あの黒衣の女性、カーリー・・・。
表向きはヒンドゥー教の寺院の所属ですけど、
ドイツの傭兵組織『黒十字団』との関係が噂されています。
・・・どういう繋がりなのかまでは分らないので、
眉唾な話なんですけどね?
それではまた明日から宜しくお願いします。」
別れの挨拶を終えた後、
再びローズは美味しそうに食事を続けた。
メィリィもいろいろ考える事はあったが、
彼女もどちらかといえば楽天的なタイプだ。
難しいことは、またその時考えればいい。
ローズとメィリィも、
食事を終えると自分達の部屋に戻った。
・・・部屋の中は勿論、
メィリィの貼っておいた魔除けにも異常はない・・・。
やはり、あれは気のせいだったのだろうか?
とにかく、今夜はぐっすり休んで明日からの行動に備えよう。
こうして、セントメリー諸島の中の小さな島で、
そこに集まった多くの若い女性たち、
その彼女達の最初の夜が平穏無事に過ぎていった。
だがしかし、翌日の講義は・・・、
初っ端から波乱含みの展開が、
彼女達を待ち構えていたのである・・・。
カーリー
「メリーさんに必要なものですか・・・(遠い目)
よろしいですわ、教えましょう、
それは気品と美しさです!!(ビシィッ!)」
シェリー
「あ、ありがとうございます・・・?(困惑)」
ドイツの傭兵組織「黒十字団」に関しては、
レディ メリー第五章で、ライラックとマーゴの会話中に差し込んでます。