第2章 レディ メリーと赤い手袋 第1話
第一章を書き終えた後、
メリーさんとは如何なる存在なのか、
当時、ネットに出回る資料を探して、
作り上げたのが第二章です。
2chでもバラしてますが、
登場人物は、私が学生時代に書いた、
読み切りもの、「白いリリス」からのキャラクターを流用しています。
・・・まさか、この後、
この一家がここまで成長するなんて、
当時の私ですら予想できませんでした。
シュバッ! シュバッ!
「こっち、向いて!」
「被害者の女性達に何かおっしゃりたいことは!?」
カメラのフラッシュと質問の嵐・・・。
一人の男性が、報道陣に囲まれながら警察に連行されていた。
男性の名は森村剛志21才。
親が与えたマンションに、3人もの女性を同時に監禁、
彼女達を奴隷のように扱い、暴虐の限りを尽くしていた。
女性達全員に誓約書を書かせた男の言い分は、
「 合意の上での共同生活であり法には触れない 」との主張。
被害者の一人が男の外出時に、
トイレの窓から助けを呼び、事件が発覚。
ここに逮捕となった。
だが 本当の事件が 始まるのは
これからなのだ。
「・・・ええ、編集長! すぐに追加記事を送ります!
・・・そうなんですよ、
例の監禁事件の犯人の祖父が、
どうも地元の警察署の元署長らしいんですよ!
ハイ、苗字は違います。
でも元々地元の名士らしく、今は県議会議員とか・・・、
ええ、そこのところ、家庭環境とか生い立ちとか調べますんで、
早急に!」
ふ~、ここのところ、こんな事件ばっかりだ。
・・・ああ、え~と、
私はある出版社の専属ライターをしている・・・伊藤・・・
とでも覚えていて欲しい。
出勤時間は拘束されず、
一つの記事を担当しては、契約したギャラをもらっている。
今回もこんな寒い田舎にまで飛んで、事件を追っているというわけだ。
仕事の性質上、外にいることも多いんで、こんな季節には手足がかじかむ。
屋内に戻ってキーボード打とうにも、中々思い通りに指先が動かない。
・・・と、以前グチをこぼしていたら、
この出張の前に、妻が毛糸の赤い手袋を編んでくれていた。
滅多にそんなマネをしてくれる妻ではないので、とても感激だ。
・・・赤いのは恥ずかしいけれど。
あ、申し訳ない、どうでもいい話だったね。
そうそう、それで、契約先の編集長との電話の後、
外回り、地元の聞き込み、懇意にしている新聞社での情報収集、
それなりの裏づけと記事の大枠がまとまったので、
私は、その地元新聞社の小部屋を借りて、原稿を打っていた。
・・・そんな時だ、
「おい! 大変なことになったぞ!」という、
とんでもない報せが私の耳に飛び込んできたのは・・・。
「例の監禁事件の被害者の子が、・・・死体で見つかった!!」
一方、こちらは拘置所・・・面会室。
「え・・・弁護士の先生・・・オレ、どうなんの?」
きれいに染め上げた髪の美形の青年は、
面会に来た弁護士に気弱そうに尋ねた。
「心配はいらないよ・・・
お祖父さんや私が、全力で君を助ける。
気をしっかり持って欲しい。もうしばらくの辛抱だよ。」
青年の祖父に依頼された弁護士は、短い接見時間の中で、
警察の尋問での対処の仕方・注意事項・今後の方針等を事細かに伝えた。
「だいじょ~ぶ、元々合意の上なんだろう?
今のところ、被害届けは二人からしか出てないが、
きっと彼女達も思い直してくれるさ・・・。」
弁護士の柔らかい表情に、徐々に青年・森村剛志は、
持ち前の明るさを取り戻していった。
「・・・ですよね!?
オレがこんなとこにいるのがおかしいんだよねっ?
あ~、早くあのマンションに戻りたいっすよぉ!」
彼には反省する気持ちはさらさらないようだ。
しばらくして、拘置所を出た弁護士の元に携帯の連絡が入る。
『あ~、弁護士先生ですかい?
後の二人・・・被害届け・・・取り下げるみたいですよ?
物分りのいい子達で・・・。』
弁護士はそれを聞いて、
喜ぶでもホッとするでもなく冷静な顔つきのまま・・・、
まるで予定通りとでも言わんばかりだ。
「そう、それは良かった、
そう言えば、もう一人の子は自殺したって・・・?
可哀想に・・・。
私達には関係のない話だけどね、
うん、先生には私のほうから・・・」
電話を切った弁護士は、高級そうな外車に静かに乗りこみ、
その拘置所を後にする。
向かう先は、県議会議員自宅・・・。
「どういうことですか!?」
「何故、被害者が自殺を!?」
記者会見現場では、物々しい雰囲気に包まれていた。
無理もない、
今まで被害届けを出していなかった被害者の死亡・・・、
しかも自殺した被害者の父親は、
例の県議会議員の息のかかった地元企業で働いていると言う・・・。
私でなくともウラを疑う。
ああ、みなさん覚えていただいてるかな?
ある出版社で専属ライターをしている伊藤だ。
いま、記者会見の場で取材中なんだけど、
まぁ、私のことはどうでもいいだろうから、
警察の発表の続きを聞こう。
「えー、場所は少女自宅の裏山の神社の境内、
大量のアルコールを摂取した後、
神社の老木に紐をくくりつけ、
首吊りによる頸部圧迫が死因、
遺書などは現在の所、見つかっておりません!」
厳しい顔の警察幹部は、たんたんと書面を読み上げる。
「例の監禁事件との関連性は!?」
相次ぐ記者の質問に、
ようやく発表者は顔を起こし、記者団に向かってこう述べた。
「現在の所、事件として両者を結びつける事は考えておりません・・・、
以上で、会見を終了いたします!」
怒声と罵声が会場を包む・・・。
そんな馬鹿げた話があるものか!?
少女が精神的に病んでいたとしても無理はないが、
何故、このタイミングで自殺をするんだ?
私は編集部に電話をして、
自殺した被害者の自宅へ向かうべく、その会場を後にした。
その家には、既に私同様、
ハイエナのような報道関係者が群がっていた。
地元のケーブルテレビも取材に来ている。
玄関には「取材お断り」の張り紙が一枚・・・。
「あ、どーも、伊藤さん、考えることは同じっすね?」
同業者の中には当然、顔見知りも多い。
特ダネを教えあう事はありえないが、軽い情報交換などはする事もある。
「どう思うー? 自殺だと思うー?」
「ありえないっしょー?
でも、事件だとするととんでもない大ごとですよ、これはー?」
「だよなー・・・。」
私は庭に目をやった。
・・・そういえば、昼間もこの近辺に来たが、
確かこの家は車を二台所有してたよな?
今は一台しかない・・・?
「なぁ、今、ここのご夫婦は出かけているのかい?」
「ああ、警察にでも出かけたままみたいですよー、
帰るの待ってるんすけどねー。」
私は途方に暮れた・・・、
さぁーて、どうしたもんかなぁ?
夫婦はいずれ帰ってくるとは思うが、
取材には答えてくれそうにはないだろうな。
ホテルに戻るか、新聞社に立ち寄るか、
いや・・・、まずは家に連絡するか・・・。
「あーもしもし、百合子?
おれ、ん、今、現場、結構長引きそう・・・ ん、
・・・あ、そうだ、
・・・手袋ありがとう、暖かいよ。」
実はそれでも結構寒いのだ、
ただ単純に気持ちがうれしい。
ぶっきらぼうに聞こえたかもしれないが、
精一杯の感謝を込めて、私は礼を言ったつもりだ。
『あら?
あなたから「ありがとう」なんて久しぶりに聞いたわ、
でも、たまにはいいものね?
あ、待って、・・・ 麻衣がなんか出たいみたい。』
なんというか、夫婦仲は悪くない・・・と思う。
ただ、娘の麻衣が生まれてから、妻はそっけなくなったように感じる。
まぁでも子供が出来れば、どこもそんなものだろう。
『ぱ~ぱぁ~!』
来た来た! 一人娘の麻衣、4才。
めちゃくちゃ可愛い・・・!
「は~いぃ~、パパだよ~!
麻衣ちゃん、いい子にしてた~?」
親バカとでも何とでも言うがいい。
『んー、まいちゃん、いい子・・・ぱぱ、今日帰れるの?』
「ごめーんねぇ、パパ、今夜は帰れないんだ、
明日なるべく早く帰るから、麻衣ちゃん、待っててねぇ~?」
隣で同業者が笑ってるが、知るか。笑え。
『ぱぱぁ?』
「ん~何だい?」
『 お人形さんによろしくね ! 』
「・・・お人形・・・さん?
えっと・・・、何だい?
ママに新しいお人形さん買ってもらったの?」
『ううん、今日ね、
お昼ねしてたらね、
おばぁちゃんが言ってたの。
ぱぱが お人形さんに 会うって 』
・・・実を言うと麻衣は時々不思議なことを言う。
いや、子供はそんなものなんだろう、
この「お祖母ちゃん」というのも、時々麻衣の口から出るが、
・・・これは百合子の母親のことなんだが、
麻衣が生まれる前に亡くなっている。
「へぇ?
どこにいるのかなぁ、そのお人形さん?
なんて名前なの?」
『・・・んっとね・・・』
言葉を選ぶのに悩んでるようだ、
私はニヤニヤしながら麻衣がしゃべる続きを待った。
『あのね、じゅーじかのあるところ?
でも そこじゃない・・・、
大きなおうち? まいちゃんわかんない・・・、
・・・でも、名前は えっと メリーさん! 』
続きはまた明日。