キャッスル・オブ・メリー
振り込め詐欺には注意しましょう。
「もしもし? あたしあたし!
悪いんだけどさぁ、お金落としちゃって、5千円でいいから振り込んでくれない!?」
「もしもし? あたしあたし!
大変なの! 今そこでバイク事故っちゃって相手の人が怪我しちゃったの!
後で保険落ちるから、10万円ほどお金振り込んでくれない!?」
「もしもし? あたしあたし!
実は相手の人・・・!」
という振り込め詐欺メリーのお話もありました。
断ると大変な目に遭います。
マーゴお嬢様がやらかしていました。
カラ~ン。
・・・お店の扉が開いた。
身長150cm程の茶髪の女の子が入ってくる。
初めてこの店に入るのか、少し緊張気味だ・・・。
「いらっしゃいませ。
お一人様ですね? こちらへどうぞ!」
小さな店だ、
テーブルは二つだけ。
後は4~5人座るのがギリギリのカウンター。
少女はカウンターの端っこに座った。
カウンターの中の女性が声をかける。
「クスクス・・・あなた新しいお友達ね? 新人さん?」
カウンターの中の髪の長い女性がカクテルを作っていた・・・。
それはいいが、顔に仮面をかぶっている・・・、
アニメ声がアンバランスだ。
店の中には何人かの客がいる。
手前のテーブルにはブロンドの美しい外人女性、
何故か日本語ペラペラのようだが、
電話をかけている・・・「お金振り込んで」ってお仕事中?
奥のテーブルには、
薔薇の刺繍の黒いドレスを纏った銀髪の女性・・・
いや、あれ人形か?
ワインでも飲んでるように見える・・・
って、人形なのに飲めるの?
そしてカウンターにはこれまた何故か、
子供と・・・
そのそばに子供と同じぐらいの大きさの白い犬がいた。
とりあえず注文してみるか。
「あ、あの、え・・・とカルーアミルク・・・。」
「はい、かしこまりましたぁ!」
その少女は、
飲み物が出される間、
店の内装をキョロキョロ見回す。
壁には物騒なものが掛かってる・・・
アラベスク文様の装飾が施された鎌、
農作業用の血塗られた鎌、
ごつい幅広の刃のついた斧、
白羽の弓矢セット・・・。
B.G.Mにはブラック系のスローナンバーが掛かっている。
どういう店なんだろう。
「はい、お待たせしました。
・・・あら? どうかなさいました?」
「あ・・・ありがとう、
・・・ここ、変わったお店だよね?
吸い込まれるように入っちゃったけど・・・。
あれ? あたし、
確か、追われていた様な・・・?」
「警察に・・・ですか?」
「えっ? い、いえ、あ~、その・・・!」
「大丈夫ですよ。
ここへは警察は入ってこれません、
このお店には『メリーさん』しか入れませんからね?」
「え? ど、どゆこと?」
「お店の看板、見たでしょう?
ここはメリーさんご用達の店、『キャッスル・オブ・メリー』。
メリーさんと、
その眷属以外には見えないし入れないの。」
「ええっ?
・・・てことはここにいる人はみんな・・・。」
「そう、みんな『メリー』さん。
・・・あ、あの外人さんだけは臨時のアルバイトだから、
仕事が終わったらここには入れなくなるけど・・・。」
少女は一生懸命、頭を整理し始めた。
ええと、
あたしはデリヘルをやってて、
ふとした事から警察に指名手配されて・・・
あれ?
考えてる途中で隣の女の子が話しかけて来た。
「なんや?
まだ自分の境遇、わかっとらんのんか?」
隣で犬が、
舌を垂らしてこっちを見てる・・・人懐っこそうだけど・・・。
「それがぁ、直前の記憶はあんだけどさぁ・・・その前が。
彼氏っぽい奴がいたような気もするんだけど、
そいつの名前も思い出せないし・・・。」
ちっちゃい女の子は、
カウンターのママさん(?)と顔を見合わせた。
「んーまぁ、
『メリーさん』ゆーてもいろんな奴がおるからなぁ?
とりあえず、生きとる人間は、
こんなかじゃ、ウチとそこの金髪ねーちゃんだけやしなぁ?」
「うっそ!?
じゃ、ここのママさんも? ・・・あ!」
少女は仮面のママさんを見て何か思い出したようだ・・・、
あの長い黒髪に黒いワンピース。
「あ・・・あの? ママさん?
あたし、あなたに会ってますよね・・・!?」
あまりいい思い出ではない・・・。
だが、黙ってはいられないほど重要な事だ。
「くすくす・・・かもしれませんねぇ?」
仮面のママは笑いながら(?)答える・・・。
「なんか思い出したんか?」
その言葉に少女は無言だったが、
いきなりテーブルを叩いて立ち上がった。
「ちょっと待って!
仮面のあなた、あの壁にある斧で、
あたしの首を刎ねなかった!?」
仮面のママさんはコップを磨きながら、
少女の興奮にも関わらず静かなままだ。
「くすくす、そういうプログラムなの、
気にしないで下さいね?」
「・・・じゃあ何!?
あたしが今、こんな人生に突入しちゃったのはあんたのせい!?」
「違いますよ。
私はあなたの首を刎ねただけです。
あなたがメリーになったのは他の原因です。」
少女は訳が分らなくなった。
とりあえず自分は死んでるらしい。
すると、
今まで自分のお客さんは死人とエッチしてたのか?
そ・・・それはこの際どーでもいいか・・・。
「ねーちゃん、名前は覚えとるんか?」
「メ・・・メリー・・・?」
「それ言うたら、
ここにおるんはみんな『メリー』やって!
愛称とか、
生きとった時の名前があろう?
うちは最恐の和製ゴスロリ少女うりぃ・めりー。
ママさんは電脳人形マザー・メリー。
・・・後ろの金髪ねーちゃんは・・・メリーちゃうが、
『ウェールズの魔女』マーゴっちゅう名前がある。
今日も振込み詐欺やっとるな・・・、
パパさんに怒られても知らんで?
マザー・メリーも勝手にここに運んどるしなぁ・・・。」
「あのお人形さんは?」
人形はその言葉に反応したのか、
ギョロっと瞳を動かしてこっちを見た。
・・・首をかしげている。
まるで小鳥のような反応だ。
「あれは・・・今は・・・そぉやなぁ・・・、
レディでええわな?」
少女は再び思い出そうとした・・・。
「あたしの名前・・・きょーこ?
はしもと・・・きょうこ・・・?」
「お? 思い出しよったん?
まぁ『メリーさん』になった以上は関係ないけどな?」
「それがなんでメリーさんになるの?」
それには仮面のマザー・メリーが静かに答えた。
「あなたの場合はかなり特殊ですよ?
死んで魂がカラダに残ってる状態のときに、
誰かが余計な事をしたんでしょう?
私のプログラムにあなたの魂が流れ込んできましたから。」
「誰! それ!?」
「さぁ、そこまでは?
でもあなたを死なせたくなかった誰かじゃないんですかね?」
「はぁ~っ? そんなことできんのぉ!?」
「普通の人間には無理やろなぁ?
神さんクラスかその使いか・・・?
もう、どーでもえーやろ?
メリーさんになったもんはもうしょーがないんや、
素直に新しい人生楽しんだらええ。 」
そう言われると、
確かに新しい人生を楽しんだ方が得かもしれない。
「・・・ちょっと待って?
・・・てことは、てことは、てことはぁ・・・?
あたし死人だから、
性病にもかからないのかしら!?
もしかすっと、妊娠の心配もなしぃ?
うぉっしゃあー! ・・・てことよね!?」
「知らんわぁ!
純潔乙女のウチに聞くなぁ!?」
どうやら記憶はともかく、
生前の性格は甦ったかもしれない。
この会話を聞いたら泣く男がいるかもしれないが・・・。
茶髪の元・今日子のメリーは突然明るくなった。
飲みかけのカルーアを一息に飲んでお代わりを頼む。
・・・すると、
「ぃやったーっ!!」
突然、
後ろの席で、マーゴが歓喜の叫びを上げた。
「今日の収穫、470万~!!
いいカモに出会えたわぁ~!!
ちょっとママさん!?
みんなにボトル開けてあげてぇ!
お祝いお祝い!!やっほーぅ!!」
「ええ時に来たな? 遠慮のうもらうで?」
「どぉーぞぉ! ・・・って、
うりぃちゃん未成年でっしょお?
今、飲んでるのメロンジュース?
それなら何杯でもおごって上げるわぁ。」
ゴチ・・・と聞くと今日子の目も輝いた。
「え? あたしもいーんですかぁ?」
「もっちろーん、新人さんでしょぉ?
歓迎パーティよぉ!!」
「きゃー!! やっりぃぃ!!」
「おっしゃー! 宴会やああ!
犬ぅぅ! 自分の出番やでぇぇ!!」
犬は身の危険を感じて、
キャンキャン泣きながらレディのドレスの影に隠れてしまった。
カラダがでかいからほとんどはみ出しているのだが・・・。
こうして宴は夜通し続けられました。
それにしても、
果たしてこれから何人のメリーがこの店にやって来るのでしょうか?
次は人間でも人形でもない者が現われるかもしれませんね?
ではまた!!
次回からデリヘルメリーさんは、
さらに激しく、さらにくだらなくなります。