↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬将軍、南進す! ~猛吹雪もののふ無双~  作者: 嵯峨 卯近
<第一部・序章> 永き眠りから覚めし冬将軍。
9/36

九話:雪だるまから生まれた、雪女。

 吾輩《わがはい》は、冬将軍である。


 永き眠りから目覚めた吾輩《わがはい》は、近くにある隠れ里の長老に呼ばれて出向き、話をした。

 その上で、これから吾輩《わがはい》は、眠っていた場所へ戻って秘密の儀式を執《と》り行なうので、三日間は誰も入ってはならぬと、長老に申し伝えるのだった。


 さて――、女房を起こそうか。




 吾輩《わがはい》が眠りについていた場所、冬天宮《とうてんぐう》。

 そこは、洞窟の中にひっそりと建てられた神社である。

 その洞窟の入り口――氷の鳥居がそびえ立っている左右の台座に、二つの雪だるまがあった。


 隠れ里から出た吾輩《わがはい》は、雪上を高速移動し、再びこの場所へ戻ってきたのだ。

 なので――、さほど時間は経《た》っていない。日の高さから、羊《ひつじ》の初刻《しょこく》【約十三時】だと思われる。



 さっそく、雪だるまの前に立った吾輩《わがはい》は、それを撫《な》でてみる。

 その大きさは――ざっと、二十歳《はたち》の女子《おなご》がすっぽり入るぐらい。

 雪をぎゅうぎゅうに固めてあるので、カチコチではある――が、触《さわ》り続けて百五十年以上の、吾輩《わがはい》の経験が脳裏で叫ぶ。


「確かに、至極《しごく》良い雪だ……」


 これなら、さぞかし触《さわ》り心地《ごこち》の良い、女房の身体が出来そうだ。



 吾輩《わがはい》は、雪だるまの正面に向き直り、両手でその頭を挟《はさ》んで固定する。

 とは言うものの――、雪だるまに顔らしき装飾は一切施(ほどこ)されておらず、どちらが正面かは分からないのではあるが、これから行う事にさほど影響はないだろう。


 大きく息を吸い込み、冷気を取り入れた吾輩《わがはい》は――、


 雪だるまの頭に、口づけするのだった。




          * * *




 それから――、

 おそらく一刻《いっこく》【約二時間】は、経《た》ったと思われる。


 吾輩《わがはい》は、冬天宮《とうてんぐう》本殿《ほんでん》の中で、今か今かと待っていた。

 本殿《ほんでん》とは――、御神体が安置されている場所。


 もう少し分かりやすく言えば――、

 賽銭箱《さいせんばこ》があってお参りする所が拝殿《はいでん》というのだが、その奥にある建物だ。



 待ち人《びと》来《こ》ず――。


 吾輩《わがはい》の傍《かたわ》らにたたんで置いてあるのは、濃色《こきいろ》の女袴《めばかま》【紫《むらさき》のプリーツスカート】に、冬将軍を表す“三《み》ツ鱗《うろこ》”紋の金糸《きんし》刺繍《ししゅう》が入った千早《ちはや》。つまりは巫女《みこ》服《ふく》一式である。祭壇《さいだん》の収納部分から取り出したのだ。


 宸世《しんぜ》において、通常の巫女《みこ》は襠《まち》ありの赤い緋袴《ひばかま》【ズボン型】を履《は》くものだが、我が女房は元々、最上級の雪女にして巫女《みこ》である“雪姫”として、祀《まつ》られておったのだ。故《ゆえ》に、若く清浄な意味を持つ濃色《こきいろ》【紫《むらさき》】を常に着用する事を義務づけられていた。

 ちなみに、女袴《めばかま》【プリーツスカート】なのは、女房の趣味――というより、吾輩《わがはい》を誘惑する為であろう――な。



 未《いま》だ、待ち人《びと》来《こ》ず――。


 それにしても、おかしい。

 すでに身体が出来上がって、ここに来てもよいはずだが――。



 そう――、

 吾輩《わがはい》は、同化していた女房の雪音《ゆきね》を待っているのだ。


 一刻《いっこく》前【二時間前】に、雪だるまと口づけをしたのは、雪音《ゆきね》の魂をそれに吹き込んだ事に他ならない。決して、吾輩《わがはい》の身体から女房の魂を追い出したのではないぞ。


 ただし、吾輩《わがはい》の心之臓《しんのぞう》に同化している雪女の本体である核はそのままなので、吾輩《わがはい》が人間に戻る訳ではない。


 だいたい半刻《はんこく》【一時間】過ぎた頃合いで、雪だるまの中に入った女房の魂を中心に、身体が出来上がってくる。材料はもちろん、雪だるまの雪である。その触り心地《ごこち》は雪質に左右されるが、間違いなく良いものだと断言できる。



 まだまだ、待ち人《びと》来《こ》ず――。


 よもや、寝ているのではあるまいな。

 可能性は、大いに有り得《う》る。

 仕方ない。あの寝坊助《ねぼすけ》さんを迎えに行《ゆ》くか。


 吾輩《わがはい》はすっくと立ち上がり、氷上を滑《すべ》るように洞窟の出口へ向かった。






 そうして、洞窟を出た吾輩《わがはい》を待っていたの――は、

 雪だるまの胴体から少女の頭が突き出ているという、とても異様な光景だった。



「やはり……か」

 百二十年前と変わらず愛らしい顔ではあるが、少女はよだれを垂《た》らしながら眠っていた。


 とりあえず起こさねば――、

 吾輩《わがはい》は、ペチペチと女房の頬《ほお》を叩いてみる。



「ふみゅぅ……」

 うむ、これは駄目《だめ》なやつだ。昔から女房は寝起きが悪い。

 こうなれば、無理にでも引っこ抜いて、持って帰るか。



「これだな……」

 雪だるまの胴体に両手を突っ込んだ吾輩《わがはい》は、女房の肩らしき感触を見つけ、脇《わき》下《した》に回して掴《つか》んだ。


「よっこら……っ」

 そのまま両手に力を入れ、引き寄せ――、


「……っせ!」

 ――一気に引っこ抜いた。


「うおっ……」

 さほど抵抗力を感じず、きれいにスポッと抜ける。その勢いを殺しきれず、吾輩《わがはい》は尻もちをついてしまった。






 それから――、

 冬天宮《とうてんぐう》本殿《ほんでん》まで戻った吾輩《わがはい》は、引っこ抜いた女房の身体を仰向《あおむ》けに寝かせた。ちょうど、吾輩《わがはい》が安置されていた棺《ひつぎ》の下である。

 当然ながら、砕けた氷の破片はきれいに片付けている。



 真っ白い雪肌《ゆきはだ》に、しっとりした藤色《ふじいろ》の長い髪《かみ》を持つ、やや幼い顔立ちの十五歳ぐらいの少女。吾輩《わがはい》と初めて出逢《であ》った時と変わらない姿である。


 一糸《いっし》纏《まと》わぬその身体に、吾輩《わがはい》は手を伸ばす。

 肌の触《さわ》り心地《ごこち》は、至極《しごく》良好。もち肌というべきか、とても雪で出来ているとは思えない、まるで人肌《ひとはだ》である。


 ――むぅ、股間《こかん》のイチモツが、ぐんぐん立ち上がってきたではないか。


 女房の、身体の線は細くなだらか、目立った窪《くぼ》みも膨《ふく》らみも無いし、余計な毛など一つも生えていない。手足は細く華奢《きゃしゃ》であり、背も低い。全体的に小さいのだ。

 これを、いわゆる幼児体型と嘲笑《あざけわら》う馬鹿どもは、いくらでもいるだろう。


 だが――、


 それがいいのだ。

 反論は認めぬっ。一切なっ。



「ふむ……」

 吾輩《わがはい》は、着物をゆっくりと剥《む》きながら挿《さ》し込む方が、好きなのだが――、


 されど――、

 女房が眠っている故《ゆえ》、吾輩《わがはい》がわざわざ、一から着物を着せねばならないのだ。ただでさえ、女子《おなご》の着物は複雑で面倒であるのに――な。



「まぁ……、時間はたっぷり……、あるしな……」

 三日は入って来ぬよう長老に申し渡したのは、思う存分、女房の身体を堪能《たんのう》しようという訳なのだ。



「やはり……っ、着せるのは、面倒だな……っ、うぅむ、どうす……っ!」

 その時、吾輩《わがはい》は閃《ひらめ》いたのである。


 そうそう――、

 激しい刺激を与えれば、否《いや》が応《おう》でも起きるはずだ。

 女房の意識がはっきりした後にでも、服を着てもらえば、面倒も省《はぶ》ける。



「む……っ、むっふっふっ、ふっふっふっ、ふっはっはっはっ」

 これからの、愛する女房の顔を想像して、笑いが込み上げてくる。

 うむ――、これでいこうぞ。



「そうと決まればっ、善は急げだっ」

 吾輩《わがはい》は、居ても立っても居られず、脱衣する。


 あっという間に、全裸《ぜんら》になり、女房の身体に、自らの身体を重ね――、






 百二十年ぶりに、一つとなるのであった。

【 】内は現代語訳と省略用語、“ ”内は強調単語、( )内は口に出さないセリフ、つまり心の声です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。