九話:雪だるまから生まれた、雪女。
吾輩は、冬将軍である。
永き眠りから目覚めた吾輩は、近くにある隠れ里の長老に呼ばれて出向き、話をした。
その上で、これから吾輩は、眠っていた場所へ戻って秘密の儀式を執り行なうので、三日間は誰も入ってはならぬと、長老に申し伝えるのだった。
さて――、女房を起こそうか。
吾輩が眠りについていた場所、冬天宮。
そこは、洞窟の中にひっそりと建てられた神社である。
その洞窟の入り口――氷の鳥居がそびえ立っている左右の台座に、二つの雪だるまがあった。
隠れ里から出た吾輩は、雪上を高速移動し、再びこの場所へ戻ってきたのだ。
なので――、さほど時間は経っていない。日の高さから、羊の初刻【約十三時】だと思われる。
さっそく、雪だるまの前に立った吾輩は、それを撫でてみる。
その大きさは――ざっと、二十歳の女子がすっぽり入るぐらい。
雪をぎゅうぎゅうに固めてあるので、カチコチではある――が、触り続けて百五十年以上の、吾輩の経験が脳裏で叫ぶ。
「確かに、至極良い雪だ……」
これなら、さぞかし触り心地の良い、女房の身体が出来そうだ。
吾輩は、雪だるまの正面に向き直り、両手でその頭を挟んで固定する。
とは言うものの――、雪だるまに顔らしき装飾は一切施されておらず、どちらが正面かは分からないのではあるが、これから行う事にさほど影響はないだろう。
大きく息を吸い込み、冷気を取り入れた吾輩は――、
雪だるまの頭に、口づけするのだった。
* * *
それから――、
おそらく一刻【約二時間】は、経ったと思われる。
吾輩は、冬天宮本殿の中で、今か今かと待っていた。
本殿とは――、御神体が安置されている場所。
もう少し分かりやすく言えば――、
賽銭箱があってお参りする所が拝殿というのだが、その奥にある建物だ。
待ち人来ず――。
吾輩の傍らにたたんで置いてあるのは、濃色の女袴【紫のプリーツスカート】に、冬将軍を表す“三ツ鱗”紋の金糸刺繍が入った千早。つまりは巫女服一式である。祭壇の収納部分から取り出したのだ。
宸世において、通常の巫女は襠ありの赤い緋袴【ズボン型】を履くものだが、我が女房は元々、最上級の雪女にして巫女である“雪姫”として、祀られておったのだ。故に、若く清浄な意味を持つ濃色【紫】を常に着用する事を義務づけられていた。
ちなみに、女袴【プリーツスカート】なのは、女房の趣味――というより、吾輩を誘惑する為であろう――な。
未だ、待ち人来ず――。
それにしても、おかしい。
すでに身体が出来上がって、ここに来てもよいはずだが――。
そう――、
吾輩は、同化していた女房の雪音を待っているのだ。
一刻前【二時間前】に、雪だるまと口づけをしたのは、雪音の魂をそれに吹き込んだ事に他ならない。決して、吾輩の身体から女房の魂を追い出したのではないぞ。
ただし、吾輩の心之臓に同化している雪女の本体である核はそのままなので、吾輩が人間に戻る訳ではない。
だいたい半刻【一時間】過ぎた頃合いで、雪だるまの中に入った女房の魂を中心に、身体が出来上がってくる。材料はもちろん、雪だるまの雪である。その触り心地は雪質に左右されるが、間違いなく良いものだと断言できる。
まだまだ、待ち人来ず――。
よもや、寝ているのではあるまいな。
可能性は、大いに有り得る。
仕方ない。あの寝坊助さんを迎えに行くか。
吾輩はすっくと立ち上がり、氷上を滑るように洞窟の出口へ向かった。
そうして、洞窟を出た吾輩を待っていたの――は、
雪だるまの胴体から少女の頭が突き出ているという、とても異様な光景だった。
「やはり……か」
百二十年前と変わらず愛らしい顔ではあるが、少女はよだれを垂らしながら眠っていた。
とりあえず起こさねば――、
吾輩は、ペチペチと女房の頬を叩いてみる。
「ふみゅぅ……」
うむ、これは駄目なやつだ。昔から女房は寝起きが悪い。
こうなれば、無理にでも引っこ抜いて、持って帰るか。
「これだな……」
雪だるまの胴体に両手を突っ込んだ吾輩は、女房の肩らしき感触を見つけ、脇下に回して掴んだ。
「よっこら……っ」
そのまま両手に力を入れ、引き寄せ――、
「……っせ!」
――一気に引っこ抜いた。
「うおっ……」
さほど抵抗力を感じず、きれいにスポッと抜ける。その勢いを殺しきれず、吾輩は尻もちをついてしまった。
それから――、
冬天宮本殿まで戻った吾輩は、引っこ抜いた女房の身体を仰向けに寝かせた。ちょうど、吾輩が安置されていた棺の下である。
当然ながら、砕けた氷の破片はきれいに片付けている。
真っ白い雪肌に、しっとりした藤色の長い髪を持つ、やや幼い顔立ちの十五歳ぐらいの少女。吾輩と初めて出逢った時と変わらない姿である。
一糸纏わぬその身体に、吾輩は手を伸ばす。
肌の触り心地は、至極良好。もち肌というべきか、とても雪で出来ているとは思えない、まるで人肌である。
――むぅ、股間のイチモツが、ぐんぐん立ち上がってきたではないか。
女房の、身体の線は細くなだらか、目立った窪みも膨らみも無いし、余計な毛など一つも生えていない。手足は細く華奢であり、背も低い。全体的に小さいのだ。
これを、いわゆる幼児体型と嘲笑う馬鹿どもは、いくらでもいるだろう。
だが――、
それがいいのだ。
反論は認めぬっ。一切なっ。
「ふむ……」
吾輩は、着物をゆっくりと剥きながら挿し込む方が、好きなのだが――、
されど――、
女房が眠っている故、吾輩がわざわざ、一から着物を着せねばならないのだ。ただでさえ、女子の着物は複雑で面倒であるのに――な。
「まぁ……、時間はたっぷり……、あるしな……」
三日は入って来ぬよう長老に申し渡したのは、思う存分、女房の身体を堪能しようという訳なのだ。
「やはり……っ、着せるのは、面倒だな……っ、うぅむ、どうす……っ!」
その時、吾輩は閃いたのである。
そうそう――、
激しい刺激を与えれば、否が応でも起きるはずだ。
女房の意識がはっきりした後にでも、服を着てもらえば、面倒も省ける。
「む……っ、むっふっふっ、ふっふっふっ、ふっはっはっはっ」
これからの、愛する女房の顔を想像して、笑いが込み上げてくる。
うむ――、これでいこうぞ。
「そうと決まればっ、善は急げだっ」
吾輩は、居ても立っても居られず、脱衣する。
あっという間に、全裸になり、女房の身体に、自らの身体を重ね――、
百二十年ぶりに、一つとなるのであった。
【 】内は現代語訳と省略用語、“ ”内は強調単語、( )内は口に出さないセリフ、つまり心の声です。