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冬将軍、南進す! ~猛吹雪もののふ無双~  作者: 嵯峨 卯近
<第一部・序章> 永き眠りから覚めし冬将軍。
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三話:雪崩れなど、どうという事はない。

 吾輩わがはいは、冬将軍である。


 原因は不明だが、永き眠りから目覚めた吾輩わがはいに、来客が二人。

 彼者かのものらは近くに住む村人で、長老に会って欲しいと懇願こんがんされる。

 快諾した吾輩わがはいは、彼者かのものらに先導され、洞窟を出て久方ぶりである外界がいかいの空気に触れるのであった。


 さてはて、どうなる事やら――。




 洞窟の入り口に立つのは、氷で出来た鳥居。だが、それよりも目をくのは、雪だるまであろうか。


 本来の神社ならば――、狛犬こまいぬが置かれているはずの台座に、その雪だるまが二体、乗っかっているのだ。


 何とも面妖めんようだが、北の最果てならではの光景なのか――な。






 ――雪山の歩行は、非常に難儀なんぎそうだった。


 真っ白い急斜面を横切るように、体勢を保ちながら一歩ずつ踏み出してゆく。


 体格の良い二人のそんな様子を、吾輩わがはいはぷかりぷかりと浮きながら観察していたのだが、なかなかどうして、慣れているようではあったが、やはり一苦労な様子――。


 目指しているのは山と山の間、すなわち谷の奥のようだ。


 一見すると、何もないように思える――が、

 まぁ、行けば分かるだろう――。






 吾輩わがはいはふと――、空をあおいでみる。


 空はどんよりくもっていたが、日の高さから午前中だという事が分かった。おそらくはたつこく【約七時から約九時】であろうか。


 ちなみに――、宸世しんぜの時刻法は十二時辰(じしん)を採用している。一日を十二に分け、それぞれ干支えとを振り分け、二時間ずつに区切ったものである。


 あと、一時間ずつ初刻しょこく正刻せいこくという呼び方もある。例を言えば、たつ初刻しょこく【約七時】に、たつ正刻せいこく【約八時】と言った所か。






 ――しかし、何となくだが、違和感がある。


 今は冬、蝦夷松えぞまつなどの針葉樹林を含め、普通なら厚く白い雪におおわれているはずなのだが――、それら樹木の上はくっきりと深い緑、その向こうの雪山では岩肌がところどころに見える。



 つまりは、枝葉の雪はごっそり落ち、黒い岩肌は雪が滑り落ちたあと――と。


 ふうむ、これは――、やはり――。



「うおっ、また地震だっ」

「えぇい、揺れは小さいぞっ、大丈夫だっ」



 吾輩わがはいの身体は浮いているゆえに揺れなどは感じぬが、確かに雪が落ちたり崩れたりする不気味な音が聞こえてきた。


 だが――、

 吾輩わがはい達が居る急斜面きゅうしゃめんの上から響いてくるのは――、


 これは――、何というか――、いささか――、まずい音ではなかろうか。



「うわああああああっ、まずいっ、まずいぞおおおおおおっ、大雪崩おおなだれだああああああっ」

「逃げろおおおおおおっ」



 ――とは言った二人であるが、かんじききでは上手く走れない。

 誰の目から見ても、間に合わないのは明らかである。



「うああああああっ、誰かああああああっ、助けてくれええええええっ」

「もお、だめだああああああっ」



 大自然の驚異の前には、人間などはなはだ無力。

 いくら足掻あがいても無駄な事だ。


 だがしかし――、


 このまま見捨てる訳にもいくまい。


 吾輩わがはいの力、しっかとまなこに焼き付けるが良いぞ。






 雪崩なだれのやってくる方向へ、二人の前に降り立った吾輩わがはいは、両手を大きく広げる。白い狩衣かりぎぬそでがばさりとひるがえり、さながら鶴のようにも見えるだろうな。


「ここは、吾輩わがはいに任せよ」


 そのまま腰を落とし、力を入れて踏ん張る。吾輩わがはいの周りから一陣の風が吹き散らされ、毛沓けぐつ【鹿やいのししなどの皮で出来たくつ】が、ずぶりと雪に沈んだ。


 次に、口を大きく開いて深呼吸――、いや冷気を取り込むのだ。


「むううううううっ」


 腹の底から声にならない音を出し、吾輩わがはいは身体中に力をめぐらせる。

 この程度の雪崩なだれ、二つに割ればやり過ごせるであろう。


「ゆくぞっ」


 広げた両手を閉じて手刀の形を成し、するどく前方へ突き出す。


「はっ!」


 裂帛れっぱくの気合いと共に、吾輩わがはいの手刀からすさまじい寒波が、前方へと放たれた。

 同時にその余波で、周りに積もった雪も少しばかり舞い上がる。



 ――すると、



「あ……っ、あれ?」

「おぉう、おれ達、助かったのか……?」


 真っ二つに割れ、自分達を避けるように流れてゆく雪崩なだれ。


 それを見て――、二人は――、呆然ぼうぜんとつぶやいたのだった。

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