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シーズン・シリーズ

アナザー・ストーリー 晩翠の騎士

作者: アワイン

 昔々、四季がない国がありました。その国に色はなく、どんよりとした暗黒と言える国でした。

 そんなとき、とある古い魔法使いが作った四季の魔法を用いて、王族に連なる一族に四季の力を与えました。力は女性にしか使えず、一族は四季の力を宿した女性を一人ずつ出しました。そして、四季の塔といわれる場所で決められた期間、住まわせました。

 彼女達を四季の女王と呼びます。

 四季の女王様の力により暗かった国は、色彩のように豊かな国になりました。国を彩らせるために女王様は交代しながら、数百年、四季を保っていました。


 しかし、ある代の冬の女王様は「ここからでない」と言い、引きこもってしまったのです。

 そうして、冬が長引き、食料が少なくなっていき、王国中が困りました。このままでは、国と人々の心が冷えきりそうです。冬の女王様と仲が良い春の女王様に協力を頼みますが、春の女王様は断って塔にさえ近づきませんでした。


 やがて、王様からお触れが出ます。


「冬の女王は出したものには好きな褒美を出す。ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。 季節を廻らせることを妨げてはならない」


 これを聞き、女王様を出そうとするものが多く現れるのですが、冬の女王様の力により、追い払われてしまいます。次第に人々は冬の女王様を恐れ、塔に近づかなくなりました。

 我慢できなくなった人々は、遂に女王様を倒せと言い始め、王様は気を病んで寝込んでしまいます。このままでは、とあるお伽話に出てくる国の滅びの末路を辿ってしまうと人々は恐れました。





 ――冬の季節が続き、三年がたった頃です。

 綺麗な夜のある日、女王様が住まう塔の最上階に盗人が忍び込んできます。窓から侵入して、黒い布を全身にかぶり、腰には短剣をつけていました。塔に中にある宝石を狙っているのでしょう。


「……誰っ!?」


 雪のように美しい少女が気付きました。白銀の髪に白い肌、アイスブルーの瞳。まるで、雪のような少女。まだ十五、六歳ぐらいの歳ですが、間違いなく冬の女王様です。宝石を漁っているところを見られ、盗人は振り返りました。


「……ひっ!」


 女王様は恐怖でビクッと震え、部屋に吹雪を起こしました。ですが、盗人はマントをうまく使い吹雪を防いだのです。吹雪の中、女王様は床に押し倒されてしまいます。

 短剣を顔の横に突き立てられ、本当に動けなくなりました。

 やられる! っと、自分に向けられた武器に目を瞑ります。そんな女王様の心とは、別に盗人は女王様を傷つける気はありません。

 

「悪いけど、静かにしててくれませんかね?

こっちは傷つけたくねぇんですよ。小さな冬の女王様」


 言われたことに驚き、横にある短剣を目にして、何度も頷きます。吹雪もおさまり、女王様はばくばくとうるさい胸を押さえていました。盗人は武器をしまって、女王から離れます。


「……ふーん、中々良いものもってんな」


 宝石箱にある宝石を袋に入れていきます。女王様は勇気を出して、聞くことにしました。


「……あなたは……何者っ!?」


 盗人は振り返り、呆れていました。


「おたくのように引きこもって、民衆を困らす女王に名乗る名を持ち合わせてはねぇーですよ」


 ずばっと言われ、女王様は目を潤ませて涙ぐみました。自分の我が儘で人々を困らせていることは、分かっているのです。女王様を見て、盗人は仕方ないと思いました。


「……まあ、特別にあんたには教えてやるか」


 女王様に近づいての手の甲に口づけをするではありませんか。ついでに顔を見せあげました。盗人は女王様よりも年上の青年です。森のような緑の瞳、少し跳ねた焦げ茶色の前髪。凛々しく美しい狩人のようでした。


「俺は『木菟(ミミズク)』と言われてる義賊だよ。冬の女王サマ」


 外が騒がしくなりました。盗人が入ってきたことに、気づいたのでしょう。


「気付かれたか。……じゃあな、冬の女王様」


 盗人は静かに窓の外に出ます。窓の外を見ると近くにある森の奥へと消えていきました。義賊(ぎぞく)とは、悪い人物から物を盗み、盗んだものをお金に変えて、貧しい者に分け与える者のことを言います。義賊である『木菟』は、各国の悪名高い王族や貴族を騒がせています。


「その『木菟』が此処やって来たと言うことは、私が民衆から悪者だと思われているんだね。……辛いけど、わかってる。

それでも、私は冬を長引かせなきゃならないの」


 言い聞かせるようにいって、全てを通らせないのに窓を閉じて、引きこもりを再開し始めました。








 薪ストーブによって、暖められた宿屋は心地が良いです。人気があまりない宿屋の食堂に盗人の青年はいました。


「ヘリワード」

「ぶっ」


 名前を言われて、驚いて水を吹き出しましす。呼び掛けた人は目の前の席に座り、ヘリワードは白騎士様を厄介そうに見ました。

 ヘリワード・ロクスレイ。彼こそ、通り名『木菟』を持つ青年です。


「っ……ブラン。本名で呼ぶのやめてくれって」


 明るい茶色の髪と、黄緑色の瞳。白く重そうな鎧を身につける真面目そうな美青年はブラン・ウェイクと言います。彼は幼馴染みであり、隣国の騎士です。とある事情でヘリワードを追っています。


「ヘリワード。こんなことを止めて、そろそろ、こちらに戻るんだ」


 ヘリワードは元々騎士でしたが、とあることで数年前に止めてしまったのです。三年前から、誘いの言葉を何回も聞いていました。ですが、ヘリワードはブランの誘いを何度も断っています。


「二度と裏切らないって、保証してくれんの?」

「……――」


 この言葉を投げ掛けると、黙ります。答えないことに馬鹿にするように笑い、頼んだサンドイッチを食べました。


「言わんこっちゃないね。てめえに何度も言われても、俺は戻る気はない。上に伝えておけよ」


 食べ終えて、怒りを込めてお金を机に叩き置きました。マフラーを身に付け上着を着ると、ブランが言いました。


「君は四季の塔に潜入しただろう?」


 彼、『木菟』が四季の塔に潜入したことは、国中の噂になっていました。ブランはヘリワードが『木菟』であることを知っています。ですが、咎めることをしません。


「さあね」


 誤魔化して宿屋の外を出ました。




 通りを歩くと、しゃりしゃりと雪を踏む音が耳に入ります。白い息が口から出ました。ヘリワードは塔で奪った宝石を金に変えて、貧しいもの家にお金を置きにいく途中でした。

 空を見上げると、曇った灰色の雲です。既に春でいい時期に、まだ降る雪に冬の女王様の印象が強く刻まれてます。

 強く宿った悲しそうな瞳。引きこもっているのには、理由があるでしょう。


「まあ、関係はないか……」


 歩き出そうとしますが、ふっと足が止まりました。

 本当にこれでいいのかと。

 ヘリワードは厄介そうに頭を掻きます。


「っ……遠の昔に捨てたと思ってたのに」


 刷り込まれている騎士の決まり。義賊の活動をしているのも、弱い者を守るという一部に従っているようなものなのです。


「まだ、騎士であろうとしてんのかね。俺は……」


 暗い雲を見続けますが振り返って、目的地とは違う道に歩いていきました。





 ――真夜中。冬の女王様は寝巻き姿でクッションを抱きながら、ベッドに座ります。

 前にやって来た盗人は、宝石だけ奪って逃走をしました。警備を強くしますが、人数は指で数えられる人数だけ。女王様を守りたいと思うものはいません。自業自得だとわかっており、女王様はベッドに横になります。鼻をすすって、目を潤ませました。その時、目にヘリワードの顔が入ります。


「暇そうですね。女王サマ」

「っ!?」

「そんだけ、俺に睨む元気があるなら、外に出てほしいわー」


 起き上がると、ヘリワードはいたずらっ子のような微笑みを向けました。塔を上ってきたのでしょう。窓が空いてますから。


「なに……!?」

「んっ? 何にも」


 飄々(ひょうひょう)とした態度に、女王様は戸惑います。近づこうとすると、冬の力を使おうとします。ヘリワードは使わせる前に、目の前に現れてました。女王様が声を出す前に、唇を人差し指で押さえました。格好いいの顔が近いことに、頬っぺたを赤くします。


「この俺の良い顔に免じて、黙っててくんねえですか? 別にとって食いはしませんって」


 指を離すと女王様は頷いて、冬の力を抑えて大人しくなりました。お利口さんにヘリワードはにこにこと笑い、隣に座ります。


「ま、ここに来たのは、気になることがあるから聞きに来たんだけど……女王さんは、何で、ここに引き込もってんの?」

「…………言えない」


 クッションを強く抱き締め、顔を半分隠します。絶対に口を開かないと伝わって、ヘリワードは腕を組みました。


「あのさ、自分の行動が皆に迷惑かけてること、わかってるんですかい?」

「うん」


 静かに首を縦にふります。わかっていて、迷惑をかけているのはよくありません。ですが、訳があるように見えました。


「じゃあ、何で、春の女王と替わらない」

「……」


 クッションをさらに強く抱き締め、顔を隠します。あまり答えたくない質問のようです。この国の貧しさは、冬の女王様の力のせいです。冬の女王様を何とかしなくては意味がありません。本人が話す気はないのであれば、仕方ありません。

 ヘリワードは日を改めてることにします。


「話したくないなら、話さんで良いです」


 立ち上がって、去ろうとしたとき――


「待って」


 声をかけられて、向きました。女王様は静かに訪ねてきます。


「何で、私を訪ねたの?」


 聞かれたことに、暫し黙ります。理由なんていくつも思い浮かびますが、ここは正直に言うことにしました。


「まあ、あんたのことが気になったってことにしといてください」


 苦笑して答えると、勢いよく窓から飛び降ります。女王様は窓から外に身を乗り出して、後ろ姿を見送りました。

 やはり、その後ろ姿は木菟のよう。

 姿が見えなくなると、女王は腰をつき、顔を赤くします。先程の青年の言葉がこびりついているからでした。




 ――ヘリワードは、森から塔のてっぺんを厄介そうに見てました。


「……やれやれ、面倒なことに首を突っ込んだかね」


 嫌そうに言っても、この国に振り撒く冬を長引かせるのは、良いようには思っていません。思い出したかのように、口をします。


「弱者への敬意と憐れみ、惜しみなく与えること」


 それは騎士の十戒の一部でした。


「ま、盗人に落ちた人間に正義もないか」


 自分自身を悪く言うと、ふっと先程の驚いた顔を思いだし、クスクスと笑い始めました。


「時折、顔出しましょうかね」


 興味が湧いたのでしょう。獣道を慣れたように、歩きました。





 ――義賊活動をし終えたあと、宿屋で冬の女王のことについて調べていました。ヘリワードの部屋には、二、三年前の新聞と数冊の本。

 すべて冬の女王様に関することです。本を読み進め、調べたことをまとめました。


【冬の女王様というのは肩書きようなものであり、四季を国にもたらすための役割の名です。四季の女王様はある一族から、選別されて女王の地位を与えられます。王は四季の女王を嫁に迎えることができ、ある時代では四季の女王全員と婚姻した王もいました。

 四季は欠けてはならないのです】


「やっぱ、いるんだな。どの時代も四季の女王は」


 調べたことの感想を言うと、新聞を手にしました。


 少し時間がたっており三年前のものです。新聞には、この国が冬に包まれる前の平和な出来事がかかれています。

 野菜の収穫量が上がった記事や子供たちが遊ぶ話などが、載ってました。現在の新聞は冬が始まったことにより、よくない事件が多く書かれ、比べると大分違います。ある一文を目にして、ヘリワードは目を疑いました。


「……冬の女王に王が結婚を申し込んだ?」


 王様と女王様の歳は離れ、王妃と子供も居たはずです。女王様に持ちかけた婚姻を断ったことに、王様はかんかんに怒ったと書かれていました。

  冬の女王様に婚姻を持ちかけと冬の季節の延長の始まりは、同じく二、三年前です。 冬の女王様は確かに雪のように美しく、王様が婚姻をするのもわかります。王様の怒りを恐れて、冬の女王様は塔に閉じ籠ったのでしょうか?


「いや、ないな」


 考えたことを、バッサリと捨てました。女王様の様子から見て、理由にはならないからです。

 新聞を見続けていると、国が兵士の募集をしている記事がありました。他国と争いを始める為に、各地から兵の募集を呼び掛ける記事です。ヘリワードはブランのことを思い出した。


「……そういやあ、ブランのやつも俺に戻るようにいったのは、こういうことだったのか? あー、世知辛い世の中になったもんだわー」


 戦力の一つになってもらうために、戻ることもあったのでしょう。ベッドに寝転びました。


「……あの女王様が全部話してくれたらいんですけどねぇ……。全てのことを打ち明ければ、あの女王が悪く言われることもなくなるのになぁ」





 ――ヘリワードは時間があるときは塔に行き、これまでの話や各国の観光話をします。警備をする気がない塔に入り込むのは簡単です。話すことに、冬の女王様は話を真剣な表情で聞いていました。塔から出ないため、外の情報に疎いのです。喋りがいがあるので、女王様をからかうこともあります。

 女王様は真剣に話を聞いてくれるので、ヘリワードは気に入っていくのです。




 ――今日も冬の女王様は塔から町を見降ろしました。


「……義賊さん。来てくれるのかな?」


 そわそわしながら、二人分のお茶とお菓子を用意しました。ヘリワードの分で、彼がこの塔に来ていることを秘密にしております。この部屋に警備しに来る兵士もいないので、好都合なのです。


「ええっと、クッキーと美味しい紅茶を机において……」


 お茶とお菓子は自分で用意しました。

 この塔には生活できる場が整っております。普段は使用人がいるのですが、冬の女王様に恐れをなして、皆は塔から出ていきました。

 四季の女王様はある程度の家事を仕込まれているので、生活はできるのです。しかし、飢え死にしないように、食材を届けられるのを見て、冬の女王様は皮肉のように感じました。

 困っている人々に分けたらいいと思っていますが、己のせいなのですから言えません。ですが、ヘリワードがここに来てくれていることで、嫌なことを忘れさせてくれています。

 こないかな、こないかなと窓をチラチラと見て、顔を赤くしました。


「……今日はどんなお話かな?」


 ヘリワードの笑う顔を思い浮かべました。顔を赤くしてクッションを強く抱き締めました。まるで、恋する乙女のようでした。

 すると、くつくつと笑い声が聞こえ顔をあげます。


「お茶とお菓子を用意して盗人を待つ女王サマなんて、聞いたことなねえですぜ」


 フードで顔を隠した青年が、窓辺から笑っていました。


「! 義賊さん!」


 パタパタと駆け寄り、ヘリワードの前に来ました。微笑みは浮かべていないものの、顔を赤くして瞳を輝かせています。嬉しそうな女王様に、ヘリワードは目を横にそらしました。純粋な表情には弱いのです。


「……あー、うん、わかりましたから、とりあえず、窓閉めてくれつーか……」

「は、はい!」


 女王様は窓を閉めて、案内しました。


「あの、義賊さんがつまらなくないように、お菓子を用意したの」

「おっ、それはありがたいね。では、一杯もらって体を暖めてから話しましょうか」


 笑顔を浮かべ、女王様は嬉しそうに何度も頷きます。そして、小さくて暖かなお茶会が始まりました。








 ――月日が大分過ぎ。


「で、俺はそいつに殴ったわけですよ。子供にまともな教育をさせろと」


「……うんうん」


「富裕層の貴族様の癖に、民衆だけでなく子供にも酷い目をあわせてたんだ。俺はそいつの悪事を暴いて、監獄送り。子供は無事保護。民衆も安心に暮らせて、万々歳と言う話でした」


 ヘリワードはほぼ毎日来るようになり、女王も来る時間を把握し、慣れた手付きでお茶とお菓子を用意してます。

 最近気づいたことがあります。

 冬の女王様は話しているときでも、楽しい話題を出しても、あまり表情が変わりません。つまり、笑わないのです。話題が面白いのか、心配になりました。


「……つまらないですかね。俺の話」

「あ、ううん、面白い」


 冬の女王様は素直です。楽しんでいることに、ヘリワードはよかったと思いますが、早速笑わない理由について聞いていました。


「女王さん。何で、あんたは笑わない?」

「笑わない……? 今、笑う必要があるの」

「いや、そうじゃなくてな」


 ヘリワードはしっかりと聞きます。


「あんたは、俺の話を聞いて笑顔や微笑みさえ浮かべないじゃないか。何で、笑おうとしないんだ?」


「……それは」


 顔がうつ向き、しばらく黙ります。とても女王様と仲良くしておりますが、いけない質問だったのかもしりません。謝ろうとすると、女王様は声を話し始めました。


「冬の力を強くするための条件に、笑顔を出さないがあるの。……そのために、笑顔を出さないようにしてるんだ」


 女王様が冬の延長をわざと起こしていると言うのです。これでは、女王様が本当に悪いではないですか。


「……冬の力を強くするために笑わないって……」


 衝撃の事実を聞き、ヘリワードは開いた口が塞がりません。女王様は苦しそうでした。恐らく、原因を話そうとしてくれているのでしょう。


「 ……女王さん。無理せずに現状を話さんでいいです。女王様が酷いことする人じゃないってわかってますよ」


 頭を優しく撫でてあげました。女王様と接して、ヘリワードは酷いことをする人ではないことを知っています。女王様は、素直でお利口、純粋な少女なのですから。


「……うん、ありがとう」


 女王様はまだ落ち込んでます。感謝されたと言うのに、釈然とせず頭をかきます。


「……」


 静かに黙る女王様に、ヘリワードは仕方ないと思い、雰囲気を変えるために明るい笑顔を作りました。


「……じゃあ、気分を変えて、互いに自分のことを話しますか?」

「自分のこと?」

「そっ、家族のこととか。女王様からでいいですかね」

「えっ、わ、私から?」


 いきなりふられたことに女王様は慌てて、急いで内容を考えます。まとまったのか、話を始めました。


「あのね。私の家は知っての通り裕福な貴族でね。家族は母と父、長男と次男、そして、末っ子の私。

一番目の兄は優しくて頼りになるの。

二番目の兄は、努力家で尊敬できるの。一番目の兄は二番目の兄と私を、可愛がってくれてたよ。冬の女王としての勤めを、応援してくれる優しい家族なの」

「そっか。………というか、女王様。やっぱ、末っ子なんだな」


 わかっていた口ぶりに、女王様は驚きました。


「えっ、わかるの?」

「まあ、三つ年が離れた妹がいるんで。何となく、ね」


 話すと、女王様は先程よりも驚きの顔を見せます。


「……義賊さん。本当に家族いたんだ」


「俺、人間ですからね。花とか、木から生まれたような妖精的な存在じゃあないので」


「ご、ごめんなさい。なんか、想像できなくて」


 突っ込みをいれると、謝ります。義賊であったりすると、家族の想像はできないでしょう。そこは、女王様の言う通りです。ヘリワードは仕方なく、自分の話を話すことにしました。


「じゃあ、俺の話でも話しましょうか?」

「……! 義賊さんの話……聞きたいっ」


 子供のように表情を輝かせてきました。ヘリワードは向けられた表情に勝てず、話しました。


「……何から話せばいいかね。……とりあえず、俺の故郷から話そうか」


 自慢話は話せますが、過去を話すのは歯痒くなります。恥ずかしがりながら、話しました。


「俺の故郷は、隣国にある森に囲まれた集落。農耕と狩りで生計を立てているんですよ。俺の家族もそこで農耕とかをしてます。森と共に生きる場所なので、俺と幼馴染みのブランってやつは、子供の頃から狩りや罠を仕掛けて獲物をとらえていた。集落を出る前までは、二人で互いに、色々と競ってましたから」


「集落を出る前? 二人は外に出たの?」


「そう、俺達は狩人よりも国に仕える騎士に憧れたからです。俺はこう見えて元騎士だったんですぜ」


 軽くて飄々としているヘリワードが騎士だった姿を、思い浮かべることはできません。あり得ないと言う表情に、ヘリワードはにやにやと笑います。


「あり得ないと思いますよねー。その頃の俺は純粋だったんですよ。こう見えても、とある国では知られざる人はいない弓騎士でした」


「世も末」


「おい」


 流石に突っ込みます。ヘリワードも自覚があるので、これ以上は言いません。


「まあ、親に無理をいって、騎士団の門を叩きました。隊長に弓矢の腕を買われて、なんと、十才から入団。十五歳で本格的に騎士団として働いた。お世話になった隊長に恩を抱いて、騎士団で武功あげた数しれず、剣の扱いもそこそこできた優秀な騎士だったんですよ」


 軽々と話しますが、段々とヘリワードの表情は冷たくなっていきます。女王様は気付き、これから不穏なことを話すのだとわかりました。昔のことを思い出し、恨むように言葉を言います。


「……けれど、そこで俺の人生を百八十度変えることが起きた。ある王国の前大臣は、騎士団の隊長が気に食わなかったんだ。そこで俺を利用して、世話になった隊長を俺に手をかけさせた。そうして、俺は王の怒りに触れて騎士団を脱退だ」


 遠い日に、罵声を浴びせられた記憶をヘリワードは思い出します。沸き上がる怒りを抑えながら、話を続けます。


「ブランは俺のせいではないと見抜いていた。けれど、周囲からは本当のことを話しても信じてもらえないうえに、国民からは悪人としてみられた。俺はあの国に裏切られたも同然。王国の前大臣のようなやつを許さなかった俺は、こうして世間を騒がす義賊に転職ってこと」


 聞いた話に、女王様は近くにあるクッションを掴みました。


「十代の青春時代を真面目に騎士の事にぶつけたのに、政治などに利用されるとは思いやせんでしたよ」


 あっけらかに笑い、天井を見上げます。ですが、悲しそうでした。


「まあ、過去の話だ。気にしたって――……っ」


 顔を見て、ぎょっとします。女王様の目から涙が溢れているからです。あわててハンカチを出して、ヘリワードは目を拭いてあげます。何度も何度も出てくる涙に、いたたまれなくなり、聞きました。


「女王様。なんで、泣いているんだ……?」


「だって……義賊さん。頑張ってきたのに、裏切られたんでしょう。悪くないのに、悪いことをやらされたんでしょう?

……ひどいよ」


 女王様は涙をぬぐいながら答えます。


「…………」


 あまりにも純粋な言葉に、胸を突かれて視線をそらしました。同情をされるのは慣れていましたが、女王様から言われると心に鉄が強くぶつかるような衝撃を受けたのです。


「……なんで、義賊さんが酷い目に遭わないといけないの?」


 しばらく黙って声を聞き、頭を優しく撫でてあげます。


「……あんたが泣くことないのに。女王様は涙もろいんですかね」

「…………だって、義賊さん。悪い人じゃないのに」


 真っ直ぐと言われ、手が止まりました。悪い人ではないと言われるのは、嬉しいですが複雑でもあります。


 義賊と言われていても、悪いことをしていることに変わりはありません。女王様は悪人であるヘリワードに、心を向けてくれているのです。


 溜め息を吐き、頭を胸に引き寄せ、片腕で優しく包んであげました。ヘリワードも女王様に心を向けて、願うように言います。


「女王サマは泣かないでいいんです。だから、泣くのは止めて、笑って。顔で笑えないなら、心の中でたくさん笑ってほしい」


 優しくて暖かい言葉に、女王様は顔をあげました。涙はおさまっていますが、不機嫌そうです。


「……女王じゃなくて、マリアだよ。義賊さん」


 名前を聞いていなかったことを思いだし、笑顔で紹介をします。


「じゃあ、俺はヘリワードです。義賊さんじゃないですよ。女王さん」

「……女王さんじゃないよ。ヘリワードさん」

「わーってますよ。マリア」


 笑って返すと、笑うことはしませんが、マリアは照れて顔を赤くしました。






 ――四季の塔を抜けて、町に入ります。宿屋の前に着くと、暖かい明かりとは裏腹に、ヘリワードの見る人物の目は険しく冷たいです。溜め息を吐き、呆れました。


「ブラン。またか」

「……ヘリワード」


 ブランは近付き、ハッキリとした言葉で告げます。


「これは、君が望んだ道なのか?」

「寒いんで、中に入らせてくれねぇか?」


 幼馴染みの言葉に、ヘリワードは無慈悲に笑って言います。ですが、ブランは引きません。


「私は君のしていることを否定しない。それで、救われる人もいる。けれど、これで良いのか。君は誰かを守るために、騎士になりたかったんじゃないのか」


 ブランは心配しています。そして、ヘリワードのしていることに、疑問を抱いているのです。抉る問いかけでも、ヘリワードは笑みを保っていました。


「もう、後戻りはできない。それに、俺は俺の道を進むしかないんでね。

夢に見ていた騎士は、忠誠を誓っていた者に裏切られ、守ろうとした者に裏切られ、俺は信じられなくって、灰色の道をえらんだ。決して白でもない黒でもない、グレーの色を」


 ヘリワードもわかっていました。自身のしていることは、悪に等しいことを。そして、自身の望んでいる騎士の形ではないことに。幼馴染みが自分を案じてくれるのは嬉しいですが、選んでしまった道にもう後戻りはできません。


「……寒いから、そこどいてくれよ」


 答えても、ブランは退きません。

 それはまるで、自分の歩もうとしている道を阻む壁のようです。

 静かに見続けてくるので、表情から笑みを消しました。ヘリワードの雰囲気が氷のような寒さになります。


「どけ、ブラン。お前が俺の邪魔をすると言うのであれば、容赦はしない」

「君の本心を聞くまで、どかない」


 反発し合う答えにヘリワードは弓を構えようとすると、ブランは聞きました。


「君は四季の塔で冬の女王とあっているのだろう?」

「……っ」


 思わず動きを止め、ブランは話を続けます。


「冬の女王様に何をしているのか、わからない。酷いことをしていないことは、君を見てわかっている。だけど、これだけは聞かせてくれ。……君は四季の塔に行ってから、様子がおかしい。……一体、何をしようとしているんだ?

君のしようとしていることが、いけないことなら、私も動かざる終えない」


 ヘリワードの今までの行動が気になって、来たのでしょう。武器を構えるのをやめ、雰囲気を元に戻して白状します。


「……別に、この国の冬をどうにかしようかと思っただけだよ。冬の女王様が訳ありぽいから、何とかしようと、四季の塔に通ってるだけ。別にブランが想像しているような、物騒なことじゃない」


 頭をかいて、素直に全てを話します。誤魔化そうとする、必ずばれるのでブランに嘘はつけません。


 ヘリワードの表情は決まり悪そうであり、態度からも話すことが恥ずかしそうだと感じます。ブランは安心して穏やかに笑いました。


「……ふふっ、そうか」

「つーか、何笑っているんだ」


 拗ねて聞くと、ブランは嬉しそうでした。


「いや、ヘリワードに気になる人ができるとは思わなくてね」

「…………うるせー」


 言われた瞬間に、頬を赤くし頭を掻いて返します。ヘリワードの肩を叩きました。


「……今日は日を改めるよ。私は国境の関所で滞在している。君の答えを聞くまで、いつでも、待っているよ」


 微笑みながら、ブランは雪の足音をたてて、町の出入口に向かっていきます。ヘリワードは白い息を吐き、空を見ました。 


「――――あぁー……ホント、容赦ないなブランの奴」


 自分で進んだ道は、自分で進むということは自己責任であり、心配されることではないと考えていました。

 ブランとは一緒に騎士を目指そうと誓った仲です。ブランにとって、ヘリワードは兄弟みたいで、ライバルで、唯一の幼馴染みです。そのため、心配するのでしょう。


「けど、俺の道は俺が決める。覚悟はしているんだけど……」


 マリアの事を思い出すと、ある思いが沸き上がり、振り払うようにヘリワードら首を横に振り払いました。


「……厄介だな」


 身と心が落ち着くまで、冬の夜空と雪で癒すことにします。地面に隠れている緑を雪で多い隠すように、自分の気持ちに蓋をしていきます。






 ――とある真夜中の日。

 森にある貴族の屋敷の見取り図を手に入れ、 義賊活動を励みます。弓に矢、短剣を携えて、眠り薬と麻痺薬、逃げ出すときの道具などをもちました。ヘリワードは雪の森の中で、盗みの準備をしています。


「とりあえず、門の中にいる番犬は楽勝で……厄介となるのは、屋敷内の護衛といったところか」


 情報によると、この屋敷の主は貧困で苦しむ村の人々を無理に集めて働かせて、家の元に帰さないようなのです。そして、この屋敷には腕のたつ護衛が数人います。ヘリワードはこの屋敷にいる人々を解放し、屋敷の宝もついでに奪う寸法をきめました。


 黒いマントを羽織り、フードをして顔を隠して木を登ります。


 森の木々を飛び乗って屋敷が見えると、敷地内にある大木に飛び乗ります。


「いた、いた」


 筋肉質の獰猛そうな番犬。ヘリワードの気配に気付き、大木に近寄りました。番犬が吠える前に、吹き矢を懐から出して、二匹に飛ばします。

 見事に命中し、二匹はものの数分で倒れ、木から降りました。ぐっすりと寝ていることを確かめます。事前に調べたルートの窓から、忍び込みました。




 ――屋敷の廊下には、美術品や鎧などがある豪華屋敷です。護衛や使用人の目を掻い潜りながら、ドアに隠れました。そして、執事の一人を引っ張って気絶させます。服を剥ぎ取り、荷物を部屋に隠し武器を懐に隠しました。

 髪型を変え、眼鏡をかけてヘリワードは執事に変装します。


 厨房に顔をだすと、厨房のシェフがヘリワードを呼び出しました。


「おお、ちょうどいいところに。旦那様に夕食を持っていってくれ」

「かしこまりました」


 シェフに頼まれ、食事を持っていきますが、主人の部屋にいく前に、こっそりと眠り薬を入れます。

 部屋の前につくとヘリワードは周囲に人がやって来ないのを確信してから、聞き耳をたてます。


「……どうだ? 金の方は集まったか?」

「勿論。……あとの問題は、この季節です」

「ったく、冬の女王か。生かしておけとは、王も何と面倒なことをしなさる……」


 冬の女王。ヘリワードはピクッと反応しました。恐らく、屋敷の主と雇った護衛が話しているのでしょう。

 なんの話をしているのか聞いていると、とんでもないことを聞きました。


「ったく……兵士を集めるにも、物資が圧倒的に足りん。王も戦争を始め、国を潤したいのならば……どんな手を使ってでも冬の女王を出せばよいのだ。やはり、冬の女王を始末か、怪我を負わせるしかないか」


「その通りですね」


「ああ、女王の始末をするように暗殺者を放とう――――」


 戦争、女王の始末。その二つを耳にして目を見開き、気付いて頭を押さえました。


「っ……そういうことだったのかよ!」


 冬の女王様は三年前から、塔に籠っていました。

 それは、冬の季節を延長させることによって、戦争をさせないのようにしていたからです。

 戦争をするにも、食料が必要であり、戦いを有利に進める状況も必要になります。マリアはその事を春の女王様にだけに、打ち明けたのでしょう。春の女王様が塔に近づかない理由もわかります。

 ドアの向こうから声が聞こえました。


「そこにいるのは誰だっ!」


 気づかれて、ヘリワードはドアから離れます。護衛の剣士が勢いよくドアを開けました。ヘリワードは演技をして、やり過ごすことにします。


「旦那様、夕食の用意が出来ました」


 違和感なく執事として振る舞っていました。護衛の剣士は呆れ、溜め息をつきました。


「……ったく、執事かよ」

「お騒がせして、誠に申し訳ございません」


 謝ったあと、食事を中に入れて机の上に置きます。


「おお、美味しそうだ。……さて、お前は部屋に戻ってろ」

「わかりました」


 剣士は部屋の外に出ると、ヘリワードは食事の準備をし終えておりました。

 屋敷の主はスープを一口すくい、薬が入っているとは知らずに、美味しそうに飲んでいきます。


「やはり、美味しいな。高級な牛乳を使ったクリームシチューは。野菜も肉も上品なものを使わせた甲斐がある」

「…………」


 瞼が降りていき、動きも鈍くなっております。


「……? 何だか……眠く…………」


 体が前のりに倒れ、ぐぅとイビキをたて始めたのです。ヘリワードは机の中から鍵をとり、忘れずに、装飾品の中にある高い指輪を盗みました。


「成功だな。さて……」


 ゆっくりとドアの前にたちますが、嫌な予感がして一歩下がります。すると、ドアが切り刻まれました。ドアがなくなると老かにいる剣士に、ヘリワードは言葉をかけます。


「気づいてたんですかい?」

「見ない使用人の顔だったからな。まさかと思ったのだ」


 鞘から抜いた剣を持って、中に入ってきました。目の前にいる相手は、場数を踏んだ実力者です。真っ向に立ち向かって、勝てる相手ではないでしょう。降り下ろされる剣を短剣で受け止め、振り払います。

 勢いで短剣を振るうと間一髪で避けれ、ヘリワードは下がりました。


「剣の腕が立つな」

「俺の本分は弓矢なんですけどね。……そんなのいいとして……――おたくらは、冬の女王に何をしようとしている」


 表情から微笑みを消して、剣士に対して鋭く睨みました。


「聞いていたのなら、教えよう。私たちは、王が病床に伏せている間、冬の女王を始末する。そして、この国を救うのだ」


 ヘリワードは聞いた瞬間に、腸が煮えくり返るような怒りが溢れ、吐き出しました。


「バカか? 本当にバカなのか?

冬の女王を殺したら、永遠に冬は来なくなる。四季に冬は必須だ。それに、三年前のこの国は戦争をしなくてもいいほど、豊かだったはずだ」


 三年前のこの国は戦争をしなくてもいいほど平和でした。ヘリワードの言葉に、剣士はにたりと笑います。


「なるほど、戦争の話まで聞いていたか。なら、全てを話そう。

この国の王に戦争を始めるように進言したのは、この屋敷の主。ある国の資源を独占するために、我々は金と人を集めている。だが、冬の女王が冬を延長したせいで、我々の計画は立ち止まった。だから、我々は主の命で冬の女王を始末し、止まっている戦の準備を始めなくてはならない」


 兵士を集める話を聞いて、マリアは察したのでしょう。

 この国が戦争を始める。

 始まってしまえば、多くの人々が苦しむ。だから、冬を延長させた。マリアが冬を長引かさなければ、今頃、戦をしてたくさんの人が苦しんでいたかもしれません。

 この王国の王、寝ている屋敷の主と目の前にいる剣士。この三人が胸くそ悪いと感じました。


「……王様も、その戦争に乗る気だったのか?」

「そうだ」


 剣士の肯定に、ヘリワードは深いため息を吐き、嘲り笑います。


「はっはっ、本当に下らないな。下らなくて、ヘドがでそうだ。ヘドがでそうなくらい……おたくらを許すわけにはいかないねぇっ!」


 ヘリワードが駆け出すと、剣士は剣を振るいます。剣が襲いかかる前に、懐から玉のようなものをだし、剣士に投げつけました。


「っ!?」


 顔にぶつかった瞬間に粉が散ります。

 ヘリワードは鼻と口を押さえ、部屋を出ます。投げたのは、麻痺薬を混ぜた煙幕。しばらく、動けないでしょう。ヘリワードは隠した武器と荷物を回収して、屋敷の外れにある大きな建物に向かいました。


 今は本来の目的を果たさなくては行けません。


 扉には鍵がかかっており、急いで鍵を開けて、扉を開けます。中には十数人ほどの男と女がおりました。全員の瞳に希望はなく、光も宿っていない空虚な状態。ヘリワードは声を上げました。


「義賊『木菟』の登場だっ! 全員、この屋敷から逃げろ!」


 ヘリワードの声かけに人々の目に光が宿りました。





 ――使用人の服を脱ぎ捨て、いつもの義賊姿になります。村の近くまで人々を誘導していきました。追っ手が来ないのを確認して、ヘリワードは村人に声をかけました。


「ここなら、大丈夫だろう。ほら、金をやるから、防寒具やら旅支度をして自分の家に帰りな」


 人々の一人に投げ渡し、急いで去ろうとすると、受け取った村人が声をかけます。


「あ、あの……」

「なんだ?」


 振り替えると、不安そうにヘリワードを見ました。


「貴方は何故、私どもを助けるのですか?」


 その問いに、ヘリワードは一瞬戸惑いますが、笑って答えました。


「俺がしたいようにしただけ。それに、ほら、義賊ってこういうもんでしょ」


 村人の答えに答えて、ヘリワードは冬の女王がいる塔に向かいました。






 ――マリアはベッドの上で天井を見ながら、ヘリワードを待ってました。いつも、楽しい話をしてくれる。意地悪ながらもどこか優しさを感じさせるヘリワード。

 思い浮かべては、顔を赤くしておりました。ごろごろとベッドの上に転がり、お茶とお菓子の準備をし忘れました。


「……準備しなきゃ」


 立ち上がって、部屋を出ようと来たとき、外から何か刺さる音がしました。マリアは振り向くと、ヘリワードが窓を蹴って現れます。突然の登場にマリアは驚かずにいられません。


「ヘ、ヘリワードさん!?」


 ヘリワードは無事を確認し安心すると、マリアに黒マントを包ませて告げました。


「逃げるぞ!」

「えっ」


 少女をしっかりと抱えて、窓から飛び降ります。


「えっ……やぁぁぁっ!」


 流石にマリアは悲鳴をあげました。警備兵も気づき、ヘリワードの姿を目撃します。しっかりと着地をしますが、警備の兵士に囲まれてしまいました。


「貴様、女王に何を」


 兵士の言葉を遮って、ヘリワードは煙玉をだします。周囲を白い煙だらけ。ヘリワードは兵士が戸惑っている隙に抜け出し、森の方に逃げました。

 逃げている最中、マリアは声をあげます。


「ヘリワードさん! ダメだよっ! 私はあそこにいなくちゃ……!」

「あんたは命を狙われているんだぞ!?」


 言われて、マリアは驚きます。


「……命……っ」

「ああ、だから、こうして逃げてるんだよっ!」

「…………」


 命を狙われていることに驚きもしません。すると、静かにヘリワードに告げます。


「だったら、尚更、私を置いていって」


 衝撃の言葉に足を止めました。マリアは地面に降りて、覚悟を決めた顔を見せました。


「私は、冬の力で人々を苦しめてきた。なら、罰を受けるべきだよ。私はそれ相応のことをしたから」

「……はっ?」


 ヘリワードはふざけるなと歯を力強く噛み締めました。

 色彩豊かな四季の国を、赤黒く塗りつぶさせないためにしてきたことを無駄にする行為です。

 背を向けて、冬の女王様は元来た道を戻ろうとしますが、肩を掴まれて止められました。振り替えって、やめてと言おうとしますが、息を呑みました。


「……じゃあ、てめえは何の為に、今まで塔に閉じ籠ってたんだよ」


 眉間に皺を作り、真っ直ぐと見つめて、マリアに対して怒りをぶつけます。本気で怒ったところを見たことなくて、少女は震えました。


「てめえは、この国が戦争をさせないように、冬を長引かせてたんだろう? 自分の命で償うなんて、ふざけるんじゃねぇ!」

「……っ!」


 目に涙を溢れさせると体をこちらに向かされて、真剣な表情で告げられます。


「確かに、やり方は間違っていたかもしれない。けど、てめえはてめえのやり方で、国を守ろうとしていた。間違ったからって、命で償うようなは真似はするな!

マリア。俺は……あんたに生きてほしいから、こうして逃げているだ。だから、死ぬな! ……俺と違って、あんたは、まだやり直せる!」


 やり直せるという言葉を聞き、心についている重荷が落ちるように感じました。


「何処にいるっ!?」

「っ来るのが早いなっ!」


 ヘリワードは兵士の声に気づきます。再び、マリアを担いで走りました。ヘリワードが道に出ると、馬がいます。事前に馬を用意していたのでしょう。マリアを先に乗せ、その前にヘリワードが乗ります。


「しっかりと俺に捕まれっ!」

「う、うん」


 腰に捕まるとヘリワードは馬を操って、道の奥に向かって走ります。

 マリアを出来る限り安全な場所につれていく。

 それだけ、ヘリワードの頭を占めていました。安全な場所には心当たりがあります。

 馬に乗って目的地まで走り、ひたすら走らせて、風と共に駆け抜けて。

 マリアは腰に抱きつきながら、ヘリワードの暖かさを感じていました。






 ――長い時間走っているように、感じます。周りを見ると雪などが見えず、寒さもなく暖かいです。大きな壁のような門が見え、遠くには二人の兵士がたっていました。

 この国とは、別の国の兵士です。ヘリワードの見覚えのある鎧と風貌。此処は国境の関所です。つまり、関所の向こうはヘリワードの故郷の国なのです。 関所の前に止まると、兵士が槍を構えてヘリワードに聞きます。


「待て! 貴様ら、何者だ!?」


 ヘリワードは兵士の二人に告げます。


「元騎士ロクスレイだ。此処に、俺を連れ戻すように言われた騎士ウェイクが滞在しているはず。すぐに問い合わせてくれ」


「…………ロクスレイ? あの、ロクスレイ殿……!?」


 名を聞いて、兵士は驚き慌てました。


「ロクスレイとウェイク……」


 マリアは二つの名を聞いたことがあることを思い出しました。

 弓のロクスレイ。剣のウェイク。

 ヘリワードが有名人立ったことは本当であることに驚きます。

 兵士の一人は中に入りました。ヘリワードは馬から降り、マリアを下ろします。数分するとブランが中から、鎧もつけず慌てて現れました。


「ヘリワード!?」

「おっ、重い鎧も着けないで外に出ていいのか? ブラン」


 王の命令でヘリワードを戻すまで、関所に滞在することになっています。ブランを頼ってここまで来たのです。幼馴染みのいきなりの参上に、ブランは思わず聞きます。


「そうじゃない! 何で君が此処に…………」


 聞かれたこと対し、パタパタと手を振って答えました。


「義賊活動をして来たんだよ。……とりあえず、冬の女王様を保護してくれ」


 ヘリワードの後ろにいる少女を見て、顔色を変えました。四季の女王様の一人を連れ去った事に、衝撃を受けたのでしょう。

 ヘリワードは簡潔に事情を打ち明けました。冬の女王様が戦争をさせないために冬を長引かせたこと、全て。


「それは本当か…………!?」


 驚いて聞き返してきました。


「ああ、間違いないね。この国がどこかの国と戦争をし始めようとしているらしくて」


「その国は、我が国のことだぞ!?」


 ブランの言葉に、今度はヘリワードが驚きました。そして、全てのことが結び付き、深いため息をつきます。


「…………なるほどな、ブラン。お前が俺を連れ戻そうとしたのは、そう言うことだったのか」


 ブランは頷きます。


「……三年前、我が国にこの国が戦を仕掛けると言う噂がたった。情報を集めようとした矢先に冬が長引き、戦争の話はなかったことになったが……」


「それでも、油断はできない。万が一のために、俺を連れ戻そうとして、戦に備えようとしたって訳か」


 全てはブランの誘いから、始まっていたのです。

 ヘリワードの故郷となる国は森と川、海など全てが揃った資源豊かな国。それを狙う国も多いと聞きますが、まさか、四季を彩る国が狙っているとは思いませんでした。


「ともかく、理解したならば、冬の女王を保護してほしい」


 ヘリワードの頼みともあれば、


「……事情はわかったけれど、この事が露呈したら」


「俺のせいにすればいいだろう。それに、これを機にお前達がこの国の膿を暴露して、戦争の話をおじゃんにすればいい」


 ブランは一言言おうとすると、森の奥に光るものが見えました。

 鋭くとがった金属の光。目を見張って、ヘリワードに声をあげます。


「ヘリワード! 後ろだっ!」


 振り向いて気付くと、同時に矢が放たれました。

 狙いはマリアです。

 ヘリワードはすぐにマリアを庇いますが、背中に矢が刺さりました。ヘリワードはすぐに体制を整えて、弓で矢を放ちました。悲鳴が聞こえ、木から男が落ちます。矢が刺さったヘリワードに、マリアは血相を変えました。


「ヘリワードさん……っ!」

「……ははっ、こんなのどうってことないですよっ!」


 余裕が無さそうに笑いながら、背中に刺さっている矢を抜き、近くにいる兵士に声をかけました。


「おたくら、女王をすぐに関所の中に入れろ!!」

「は、はっ!」


 指示通り、マリアをつれていきます。ですが、マリアは怪我をしたヘリワードが心配でした。


「ヘリワードさん……!」


「そんな顔するんじゃないって。俺は大丈夫」


 はっきりといい、マリアが関所に入るのを見送ります。周囲には剣を構えた黒い布を被った男たちが表れる、遠くには弓兵が見えました。恐らく、先程の屋敷の主がヘリワードとマリアに対して放った暗殺者――追っ手でしょう。


「まったく……、君は厄介ごとを持ち込むなんて……馬鹿なのかい?」


 ブランは腰についている剣を抜いて呆れ、ヘリワードは軽口をぶつけます。


「はっはっはっ、馬鹿じゃなくて、大馬鹿野郎っていってほしいね」


「ったく、いい加減にしろっ!」


 その言葉を合図に敵はブランとヘリワードに襲い掛かります。


 ヘリワードは弓兵に対して矢を放ち、ブランは周囲の暗殺者の相手をします。


 幼馴染みの援護を忘れずに、ヘリワードは足に矢を放って隙を作りました。隙を逃さず、ブランは暗殺者を倒します。ヘリワードを狙う暗殺者には、ブランが相手をしました。弓兵は援護しようとしますが、ヘリワードの弓矢によって、先に倒れました。


 二人は背中合わせになると、昔を思い出して、ヘリワードは笑います。


「こうして、騎士の任務の時も連携とってたな」


 ブランも一笑しました。


「弓では君が優れ、剣の方では私が優れていた。その連携は見事だと言われていた」

「剣は俺が勝てなくて、弓では俺が勝ってたもんな。勝てなかった部分を任務の時では、互いに補っていた」

「あのときは、とても助かっていたよ」


 お互いに過去を思いだし、敵を倒していきますが。


「…………っ!?」


 ヘリワードは矢を掴むと、目の前がくらりとし始め、膝をつきます。様子がおかしいことに気付き、ブランは声をかけます。


「ヘリワード!」


 隙が出来ています。

 目の前にいる敵は、剣でブランを斬ろうとしてました。ヘリワードがすぐに矢を放って、敵の腕に当てます。ブランはやられそうであったことに気づきました。


「っそいつで最後だ! やれっ!」

「っ……!」


 暗殺者にたいして、ブランは剣で線を描くように振るいました。ブランの剣によってやられた男は倒れて、ピクリとも動きません。


 すべての敵は倒れました。が、ヘリワードは息を荒くしています。流石のマリアも異変に気付きました。ブランは駆け寄り、声を呑みます。

 明らかに顔色が悪いのです。


「ヘリワード、君はっ……!?」

「……多分、矢に毒が塗ってあったんだろう。……迂闊だった」


 地面を手でつき、視界も上手く捉えられません。

 確実に仕留めるために、毒を塗ってあったのでしょう。色々としたいことがあったのですが、身がままなりません。


「……ワード! ヘリ……っ!」


 ブランの声が遠くのように聞こえます。目を関所に移すと、マリアが真っ青とした表情でこちらを見ていました。ヘリワードは苦笑をして、倒れる前にブランにたいして口を開きます。


「――悪い。あとは…………任せた」


 どさっと音を立てて、地面に倒れてました。








 ――熱い、苦しいとヘリワードは感じてました。何度も名前を呼ぶ声が、ヘリワードの耳が聞こえます。


「ワードさん……! ヘリワードさんっ!」


「……っ! くっ……!」


 灼熱の熱さがヘリワードの体の奥から放たれて、とても苦しさを感じます。頭が働かない上に、体が鉛のように重く、手と足も動けない状態でした。全身から汗がふきでていますが、誰かが体を拭いてくれています。タオルは水によって濡れて冷たさを肌で感じました。

 薄く目を開けると、マリアが必死な顔で看病をしています。


「……?」


 ヘリワードのいる場所は、とある村の宿屋です。

 マリアが絞ったタオルで、ヘリワードの汗を拭っていました。マリアは体を軽く起こしてあげると、吸い飲みと呼ばれる急須に似たものを持ちます。口に運ばれると、苦味を感じました。


「!? ……がはっ……ごほっ……!」


 何度も咳き込むと、マリアの必死な声が聞こえます。


「お願い、飲んで……!」


 必死な声を聞き、口の中に注がれる水を懸命に飲みました。

 水が喉を通して、全身に行き渡るのを感じます。吸い飲みの中にある水をゆっくりと飲んでいくと、体の奥に感じる熱さが和らぐのがわかりました。

 表情から少しだけ苦しみがなくなり、目を閉じるとマリアは安心します。


「良かった……」


 優しく撫でられるのを感じながら、心地よい眠気に身を委ねました。





 ――走馬灯のように、ヘリワードは懐かしい夢を見ました。


 森の狩人としての技術と暮らしを教わりながら、騎士と言う正義の存在に憧れていたヘリワードとブラン。


 騎士団の門を叩くと、努力を重ねて、幼馴染みと共に国の中で名を馳せていきます。


 しかし、ヘリワードは大臣に利用され、恩がある隊長を手にかけてしまいました。

 本当のことを話してもブランしか信じてもらえず、王国に裏切られ、慕われた民にも裏切られました。故郷に戻ることも許されず、行く宛もありません。


 大臣のような人物から金目の物を奪い、貧しい人物にお金を与えた方がいいと考えます。そして、義賊となり、各国に騒がれる存在になりました。


 盗みを行い、人を手にかけ、貧しいものを与える。そして、人々の嬉しそうな顔を見る。騎士の時とは違う充実感があります。


 ですが、自分自身のしていることは、法と騎士道に反するもの。騎士道精神から抜けきっていないものがあるとはいえ、していることは犯罪。


 世間一般からしてみると、自分自身のしていることは正義の義賊ですが、自身からしてみると、ただの自己満足です。葛藤をし続け、義賊をし続けました。



 冬の女王様の話を聞き、興味と突き動かされる正義感から、出会ってしまいます。


 ヘリワードは交流をし続けることにより、女王様のことを知り続けてしまいました。そして、冬の女王様――マリアと共にいたいと、ヘリワードは思い始めてしまったのです。


 それはヘリワードにとって、いけないことであり、同時に自身の葛藤に向きあえる良い機会でした。





「……ん」


 ゆっくりと目を開けると、木目の天井がみえました。朝日が窓から入り、部屋全体を照らします。体には包帯が巻かれ、刺さった傷もガーゼによって押さえつけられています。ベッドの上にいることを自覚して、身を起こすと近くにマリアがベッドに寝そべってました。


 曖昧ですが、マリアが看病をしてくれたことを覚えてくれています。頭がぼうっとする感覚と体から感じる怠さから、自分の体が毒と戦っていたのだとわかりました。


「…………無事……だったんだな」


 生きていることに喜びはするものの、近くにいるマリアを見て、ヘリワードはなんとも言えなくなりました。

 倒れてから何度も、マリアが名前を呼んでいた気がし、ヘリワードを生かそうと懸命に看病して、傍にいてくれていました。


 ベッドにゆっくり身を沈み、目頭が熱くなり、片手で押さえました。


 必死に身を案じてくれるのは久々であり、マリアに向けられる感情を全て受け止めてしまったからです。


 悲しみ、恐怖、優しさ、そして――自分の中で理解しないように、誤魔化そうとしていた気持ち。蓋したはずの気持ちが、抑えきれず頬を伝って落ちていきました。

 マリアは起きて、目を丸くします。


「……ヘリワード……さん?」


 タイミング悪く起きたことに、深い溜め息を吐いて、唇が動きます。


「あー…………タンマ。ごめん、今、顔見せることができねぇんです」

「…………泣いてるの?」


 はっきりと言われ、言葉をつまらせました。泣き顔と言うのは、あまり見せたくないものです。


「…………そうはっきりと俺の現状を言わんでください。男心が傷付く……」

「え、あの……ごめんなさい」


 本気で謝られてしまい、ヘリワードは穏やかに微笑みます。


「……いいですよ。その代わり、今日はずっと、ここに居て」


 弱々しい声をマリアに向けました。甘えられるとは思わず驚きますが、すぐに頷いて手を両手で包んであげました。






 ――昼間には医者が来て、ヘリワードの容態を見ます。峠は越え、毒の方は大丈夫なのですが、しばらく体を休ませるように注意されました。医者の話によると、此処に来る前のヘリワードはかなり危険な状態だったようです。

 心配と迷惑をかけたことに反省し、医者にお金を払おうとしたところ、代金は要らないと言われました。宿屋のお金も払わなくていいと、マリアから聞かされます。


 マリアに世話をされながら、手配した人物がすぐに分かり、笑いました。


 ――その日の真夜中。ノックが聞こえ、ヘリワードは身を起こして、ドアに声をかけます。


「はいはい、開いてますよー」


 部屋に入ってくるのは、ブランでした。ヘリワードが無事であること、マリアがベッドの近くで寝ている姿に安心して笑いました。


「良かった」

「医者と部屋を用意したの。お前だろう?

……悪いな。しばらくの間、世話かける」


 ヘリワードは笑って感謝を言いました。


「別に構わないさ。これで私は君に対して、何かできるのだから」


 ブランは、昔、彼に出来なかったことを此処で返すつもりです。ヘリワードは息を吐き、問いかけます。


「……で、この事をあの王様に報告したのかい?」

「ああ、冬の女王マリア様のことも、すべての事情もね。この事を知られれば、流石の我が王も、あの国に対して戦う姿勢を見せるだろう」


 帰ってきた答えに考え、苦笑します。


「……今、疲弊してるから、戦争はできないだろう。まあ、結果は降伏だろうな」

「そして、平和条約を結ぶだろう」


 ブランの言葉に、ヘリワードは怪しそうに見てきました。


「できるのかよ」

「するんだよ。私達が」


 はっきり返ってきた答え。

 ブランはしっかりと目を見ていったのです。ヘリワードが捨てた輝きを、ブランは持っています。羨ましくもあり、からかいを込めて笑いました。


「……そうだったな。未来の騎士団長さん」


 ブランはため息を吐きます。


「まだ、決まったわけじゃない。……それに、君はどうするんだい。こんなことがあっても、まだ、義賊をし続けるつもりかい?」


「それ、聞くのかよ」


「聞くよ。それに、私の命令は君を国の騎士団に戻すこと。君は騎士団に戻るべきだ。私より、優れているものを持っているのだから」


 言われたことに呆れ、ヘリワードは断ります。


「言っただろう。そっちの騎士団には戻らない。……けど、義賊を続けるかどうかは、この件の結果を見てから考える」


 幼馴染みの言葉にブランは一瞬だけ、驚いて微笑みました。

 ヘリワードは、今まで迷っていたことに目を背けていたのです。

 自身が義賊として歩むのか、自身の理想の騎士として歩むのか。

 マリアと出会ったことで、その迷いと向かい合うことが出来そうです。


「……じゃあ、君はこの件の結果がよかったらどうするんだい?」


 少女を優しく一目見て、告げました。







 ――冬の女王が連れ去られたことは、国内に衝撃を受けました。その数日後に、隣国から宣戦布告がはいり、更に衝撃を受けます。

 流石の王様も話し合いを求めました。そして、平和条約を結び、王様は安心しますが、それもつかの間。


 全てが明るみに出ます。


 王様のしようとしたこと、とある貴族の悪巧み、そして、冬の女王が冬を長引かせた理由。

 その全ての事が号外として、国全体に発表されたのです。流石の国民もカンカンに怒り、王様は表に出られなくなりました。

 そして、冬の女王マリアは表に立って、全てを打ち明けて、全身全霊で謝りました。


「憎んでいるなら、石で私をぶつけ、剣で私を傷つけてください。全ての痛みを私は受け入れます」


 真摯の謝りに人々は心を打たれ、冬の女王を許したのです。

 ヘリワードの言われた通り、まだやり直せます。マリアの心は暖かな春の日差しが入るように希望が溢れ、少しずつやり直していこうとしました。



 ――これは全て、ヘリワードの体調が戻るまでに行われたこと。マリアは自身の後始末をしながら、ヘリワードのお見舞いを欠かせませんでした。






  ――雪が溶け少ししかなく、地面の緑が見えた頃、ヘリワードの体調は万全になりました。

 ヘリワードは医者に感謝を良い、ブランと共に宿屋を出ると、従者と共にマリアが綺麗なドレスを来て、待っていたのです。マリアの綺麗な姿にヘリワードは一目見て、感嘆しました。


「しっかりとした女王サマだったわけだ」

「……ひどいよ。ヘリワードさん」

「悪い悪い」


 笑顔を見せると、マリアは仕方がないと息を吐きます。そして、ドレスのスカートをもって頭を下げました。


「……我が王国を救ってくださり、そして、ご迷惑をかけたこと。感謝と謝罪を国の代表として言います」

「謝罪なんていりやせんし、感謝なんて、俺の性にあいません。それに、御触書にあるような褒美もいらない」


 ヘリワードなりの謙遜を言い、マリアを優しく見つめます。


「春の女王には、しっかりと会えたのか?」

「うん、しっかりと謝って、感謝もしたよ」


 友人である春の女王にも、迷惑をかけたことを謝ると、すぐに許しれくれました。逆に心配してくれていたようです。

 穏やかな表情をしているヘリワードを見て、マリアは自身の気持ちを言おうとしますが、堪えます。貴族と義賊という身分の違いや住む世界の違いもあり、別れの挨拶を言うだけに決めました。


「ヘリワードさん。本当に今まで」

「ヘリワードで良いですよ」


 呼び捨てで良いことに戸惑い、再び別れの挨拶を言おうとしました。

 ――その時、遠くから馬と見慣れぬ馬車が見えます。

 近くにやって来ると、馬から人が降りました。やって来たのは、マリアの国の役人と馬で持ち運び可能な檻の馬車です。役人は近くに来ると紙を広げ、ヘリワードに見せました。


「義賊『木菟』ヘリワード・ロクスレイ。書かれた罪状により、貴方を逮捕する」


 言い渡されたことに、マリアは目を見開いたまま、固まります。

 ヘリワードが捕まる異常事態に口を出すものはいません。本人は軽そうに笑っていました。


「わーってますよ。そら」


 両手を出しますと、役人は躊躇なく手錠をかけます。手錠をかけられることに、ヘリワードは抵抗を見せませんでした。マリアは我に返って、声を上げました。


「待って。彼が何をしたと言うのですか!?」

「マリア様……これは」


 困惑する役人に、マリアは勢いよく抗議をします。


「彼は悪いことをしてません!

彼は私とこの国を救ってくれたのです!」


 女王様の言葉に役人たちとブランは困っていると。


「俺を捕まえるように、俺自身が言ったんですよ。女王様」


 ヘリワードから伝えられた事実に、マリアは驚愕しました。ブランや役人の表情を見ると、真実のようです。


「ブランに頼んで、王様に手紙を送って俺を捕まえるように頼んだんです。義賊と言われても、してることは悪人と同じですからね」


 話すとマリアは目を潤んで、暗い表情になってました。


「……なん……で」


 ショックを受け、泣きそうです。本当のことを話さなそうと、ヘリワードは目の前に来て、本当のことを話しました。


「一緒にいたいと思ってしまったから」


 打ち明ける想い。口を押さえ、驚くマリア。苦笑しながら、抱いている想いを言うために、唇を動かします。


「最初はさ。興味とちょっとした正義感から、塔に忍び込んだんだよ。けどさ、気になり始めて会いに行ってるうちに、ずっと傍にいたくなった。けれど、あんたは貴族で俺は盗人。俺は何度も盗みをしていれば、人を手にかけた時もある。

今回は冬の女王の誘拐。これはかなりの重罪だ」


「で、でも……貴方は悪人じゃあ……!」


「悪人ですよ」


 はっきりと、切なげに。


「俺は悪人。義賊と言われていても、法的、騎士道的には悪人だ。これは俺の憧れた騎士道って言うのは、こういうもんじゃない。これは、俺が進めた正義ってやつだ」


 断言しますが可笑しいと思い、首を横に降ります。この現状を拒否する少女にヘリワードは手錠をつけながら、頬を撫でました。


「だから、俺はあんたと居るために罪を償い、罪を背負って生きるために、自身の後始末をつける」


 言われた事に顔をあげ、ヘリワードは歯を見せて笑ってました。


「好きですよ。あんたのことが。出会って、ほっとけないくらいに」


 突然の告白。

 自分と抱く想いが同じであることに、塞き止めていた雫が溢れます。

 ヘリワードは、この時に自身の思いを告げるつもりでした。別れは悲しくても、明日に光が指すような期待と希望があった方がいいのですから。

 マリアは両手を包みました。


「ずるい……ずるいよ……ヘリワード」


「俺はこういう男だって、女王様は知ってるはずですよ」


「そうだけど…………」


 少女の唇を人差し指で閉じて、言葉を言わせません。そして、愛情を宿した瞳で冬の女王を見つめました。


「あんたを苦しめるものは俺が退治したんですから、笑ってください。たくさん、心の底で笑って」

「……もう、本当に」


 マリアは呆れますが、大好きな人に告白されては言わないといけません。口元をゆっくりとあげ、春の始まりのような優しくて暖かな笑顔を見せました。


「私も大好きです」


 ヘリワードはマリアの額に口付けをし、お互い微笑みます。


「良い女になったら迎えに行く。それまで、男なんて作らねぇでくださいよ」


「作らないよ」


「約束ですよ?」


「うん、約束」


 別れる前にヘリワードは身を屈み、冬の女王様に顔を近づけました。十秒が立つと、顔が離れました。何をされたか、理解できないマリア。ヘリワードはいたずらっ子のように、笑って檻の馬車へと乗りました。






  ――二人は檻の馬車を見送り続けます。ブランは隣に来て、教えました。


「大丈夫ですよ。マリア様。あいつは約束を守る方です。特に大切な人に向ける約束は律儀に守りますからね」


 幼馴染みから見て、マリアを大切にしているようです。言われたことに照れますが、嬉しそうに笑いました。

 果たされるのか、果たされないのかわからない口約束。ですが、その束は固く結ばれて破れないものでしょう。




  ――鉄格子から、マリアを一目見てヘリワードの肩の力が抜けます。今までしてきた義賊活動が無駄になりますが、構いませんでした。

 本当に自身のしたいことを、できるのですから。清々しい微笑みで目をつぶります。

 一からやり直して、大切な人の傍にいるために。


「俺は――――」





       ※     ※     ※





  ――四季の国にそれぞれの季節が戻り、国の人々の笑顔が戻りました。これまで通りの四季が廻り廻っていきます。冬の女王マリアも自身の責務をしっかりと全うしました。

 そして、捕まったヘリワードも自身の罪を償いながら季節を感じています。特に冬の季節を感じ、愛でて。

 二人は、いつか、約束を果たすその日まで、互いのなすべきことをしていました……。




       ※     ※     ※







 ――春夏秋冬とすべての四季が八つ廻る頃、雪のような少女は、冬の女王とも言える美しい女性になっておりました。

 女性になるまでの間、男性や王からの求婚をことごとくはねのけて、かつての義賊の約束を守っています。



 そんな、ある日のことです。冬の女王としての役目が終わり、春に入りそうな時期には、自身の屋敷に戻ってました。


 部屋に座っていると、ドアからノックが聞こえます。入るように言うと年老いた執事が手紙を持っていました。


「マリア様。お手紙が届いてますよ」


 年老いた執事から、二つの手紙をもらい、お茶を飲みながら、手紙を読んでいます。

 一つは、一番目の兄からの手紙でした。

 長兄は数年前に家を出ており、とある国の村で学校の先生をしております。次兄はこの家を継いでおり、仕事でこの屋敷にはいません。

 長兄からの手紙は、子供が生まれたと言うおめでたい連絡でした。マリアより先に親が手紙を読み、兄が居る国に向かっています。


 ここにいるのは、マリアと使用人達だけ。


 兄とその奥さんの幸せそうな写真を見て、笑いました。


 そして、兄からの手紙を読み終え、もう一つの手紙を確認しますが、差出人が書かれておりません。

 不思議に思い、開けて中身を見ると、口を押さえました。立ち上がって、駆け足で部屋を出ます。床に手紙を落としたのを気にしてはいられませんでした。

 簡潔にこう書かれておりました。


『冬の女王様へ


庭で待っております。


かつての義賊より』




 息切れをしながら、庭につくと一人の男性が背を向けて立っています。

 髪は長くなったのでしょう。後ろに束ねられ、緑色のマントをつけておりました。腕には折り畳み式の弓が、腰には剣を。装飾を施された雪のように白い騎士服。その人物にしか、似合わない格好です。

 振り替えて顔を見せると、前より凛々しく格好よくなっておりました。マリアを見て一瞬だけ、目を見開いて照れくさそうに微笑みました。


「ったく、本当に良い女になったもんですねぇ」


 マリアの目の前に来て、跪き剣を掲げます。


「汝、マリア・スノーブライドに我が身を、我が弓と剣を一生捧げる。汝に前に現れし、悪を弓と剣にて射抜き、裂き、障害を退けん。

誓おう、我が弓と剣は汝の力。

誓おう、我が身は汝の盾。

その全てをもって、弓騎士ヘリワード・ロクスレイ。騎士の誓いのもと、汝を守護せん」


 剣にて、誓いを述べるヘリワードの姿は騎士そのもの。そして、顔をあげ、剣を腰に戻します。


「とまあ、こうして騎士に復職したんですけど、どうですかね?」


 微笑みを浮かべながら、立ち上がりました。


「……私の目が悪くなったのかな?」

「おい、待て」


 流石に突っ込みます。それよりも、マリアは気になることはたくさんありました。聞こうとすることを、先にヘリワードが答えてしまいます。


「約束を果たしに来たんだよ。

ちゃんと後始末をして、ここの王国の騎士として、正規に働くことになったんだ。騎士として奉公して、それなりの地位についた」


 貴族であるマリアと居るために、ヘリワードは騎士に戻ったのです。時間はかかりましたが、しっかりと自分のことにケジメをつけに来たのです。

 

「それに、王からも冬の女王を守るために、新しく作られた騎士の称号『晩翠』の名が与えられてね」


 晩翠。冬の時期に枯れるはずの緑の色が残っていること。『冬を耐え抜く緑の木々のようであれ』という意味がこもっているのでしょう。ヘリワードらしい騎士の称号です。

 マリアに真っ直ぐと顔を向けて――


「――やっと、あんたの傍にいられる」


 全てから解放された喜びの笑顔を浮かべました。


「たくさん善行を重ねて、騎士になれば周りから文句は、誰も言われない。それに――どわっ!?」


 話の途中、勢いよく飛び掛かってきて、ヘリワードは押し倒されました。受け身と取って、顔をあげます。いきなり、飛び掛かってきたことに、ヘリワードは驚きました。


「っ……痛いって! なんだ。いきなりっ……!?」


 力強く抱き締め、マリアは放しません。そして。



「私をもらってください…………!」



 全身全霊、マリアからのプロポーズ。

 ヘリワードの開いた口が塞がりませんでした。今まで約束を守るために長い時間待って来たのですから、抱いていた思いを全力でぶつけて何が悪いのです。

 勢いのある告白をされて、暫し呆然すると吹き出して、ヘリワードは吹き出しました。


「はははっ……! 俺からするつもりだったのに、先を越されたなぁ」


 背中に手を回し、抱き締めて耳元で告げます。


「騎士ヘリワード・ロクスレイ。汝に永遠の愛を捧げることを誓う。

……なーんて、ね。長く待たせたんですから、責任はとります。だから、この誓いを破らせること、させないでくださいよ。未来の奥さん」


 ヘリワードのプロポーズの返事に、マリアはクスクスと笑いました。


「ふふっ、ヘリワード。耳が赤いよ」

「告白と違って、こういうのは照れくせぇんですよ!」


 顔を隠すように、力強く抱き締めると、受け入れてくれました。マリアの笑い声が聞こえると、ヘリワードは頬を赤くしながら、優しく笑いました。








 ――とある国には、冬の女王様を守る一人の騎士がいます。その騎士は弓と剣を巧みに使い、愛しの女王様を守っておりました。そして、女王様もその騎士を伴侶として愛しております。

 長い年月がたつと、やがて、騎士は国になくてはならない存在になりました。

 その国に名を馳せた騎士の名はヘリワード・ロクスレイ。冬の女王マリアの夫であり、またの名を――――





 ここまで、お読みいただきありがとうございます。主人公はイギリスに伝わるロビンフッドのイメージです。ちなみに、幼馴染みのブランもロビンフッドのイメージです。

 一応、シーズン・シリーズの続編ですが、話の感じが違うと思います。少し大人向け(なのかな? そもそも童話?)だと思います。他の物を読まなくてもわかるような話になっていると思います。

 冬童話の作品はこれだけになりますが、お楽しみください。

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