架空職業・監視屋ときお『Hello, dictator!』
超巨大国際都市、東京。通称帝都。
ここには『仕事屋』と呼ばれる者たちが人知れず潜んでいる。
『監視屋』『護り屋』『奪い屋』『運び屋』『修復屋』…。
あるものは異能で、
あるものは知恵で、
あるものは技術を使い、
彼らは帝都に蔓延る悪意と戦う。
渦巻く光と闇の中、『仕事屋』は確かに存在している───。
診断メーカー『仕事屋さんになったー』から触発され、Twitter上で投下したストーリーを、編集、加筆したのものです。
Twitter上では『#架空職業』のタグ付きで投下しています。
【診断結果】
TOKYOは監視屋です。性別は男、桃色の髪で、変態的な性格です。武器は不明。よく一緒に仕事をしているのは掃除屋で、仲が悪いのは奪い屋です。
http://t.co/T57mAsrH
監視屋ときお
張り付いたような笑顔が特徴的な、長身の監視屋。髪はピンク。謎が多く、不気味な噂が絶えない。そら豆に手足と一つ目がついたような不思議な生物『メマメ』を使役する。壊れた玩具のような、ほのかな狂気を身にまとっている。
D.C(エージェント時は戸塚清重)
御上直属のエージェントの中でも、最高幹部クラスに属する紫髪の男。普段は敬語の物静かな切れ者だが、本性は少年性愛者でサディスト。昔、暗黒街で犯罪集団のリーダーをしており、暴力による恐怖でメンバーを支配した。その頃少年だったときおを拾って面倒を見ている。
「…ヒヒッ」
いつものように、雑居ビルの上。
何をするでもなく、ときおは柵に寄りかかり景色を眺めていた。
息をするように、あるいはそれよりももっと自然な行為として、ときおはこれを日課にしていた。
目に映る景色は、いつも嫌味なほど美しい。
秋晴れ、空が遠い。
泣くのがおおよそ不似合いなほど、あの日も晴れていた。
「…ネー、エージェントってそンなに暇ナの?」
くるん、と身を翻し、ときおは向き直る。
呼びかけた人物は微動だにせず、こちらを見つめていた。
「機密事項だ」
屋上入口近くにいつの間にか立っていた紫髪のスーツの男は、素っ気なく答えた。
「ソレ、便利なコトバだネぇ」
ケラケラとときおは肩を揺らす。
それに構わず、彼はときおへと近づいた。
カツカツ、高級そうな靴音が響く。
2m。ときおが首をゆらりと傾ける。
1m。ときおはまだ逃げない。
50cm。捕捉距離。
カシャン、と音がして、とうとうときおは捕まった。
彼が伸ばした手はときおを囲うように柵を掴んでいる。
「なンのつモり?D.C」
「わかっているだろう?」
すぐ傍にあるサングラスの奥で、彼の濁った水色の瞳が、ほんのり光った気がした。
昔見上げたその顔は、今では少し低い位置にある。
「俺はお前が欲しい」
そっと、頬に手が触れる。
日に透けた桃色の髪が、さらりと揺れる。
「俺と一緒に来い、トウキョウ。お前が必要だ」
しばし視線が絡み合う。が、ときおは突然けたたましく笑い始めた。
弾かれたような笑い声に、D.Cが一瞬たじろぐ。
「何がおかしい」
「ヒャっ…はは…アンタは…全然変わッてないンだナぁ!」
「!」
ぐ、と腕を引かれ、彼は逆にときおに抱きしめられる形になった。
耳元でときおが囁く。
「アンタが欲しイのはオレじゃナいでシょ…?」
うっとりと、優しい声色で。
諭すような、柔らかさで。
「アンタが欲しイのは、力。オレの、チカラ。…昔ッカらナぁ!!」
「!!」
ガッ!!
「…っく、」
至近距離からの蹴り。
咄嗟に後ろに飛んで威力を削いだものの、ダメージはまぬがれない。
「ひゅう♪サっスが♪」
「貴様…!」
「ブレイク!」
鞭を取り出そうとしたものの、先手を打たれた。
煙幕に襲われる寸前聞いたのは、ときおのアははハは、という笑い声だった。
「…チッ」
ゆっくりと消えていく煙幕の中心で、D.Cは1人舌打ちをした。
思った以上にときおは『玩具』になっていない。
あれほどの長い年月、一番近くで『教育』をした筈なのに、彼は今でも思い通りにならない。
それどころか、色々と厄介な成長を遂げている。
離れていたこの10年ほどの間に、何があったのか。
何が彼を、変えたのか。
別人とも思えるほど今のときおは変貌している。
「…資料を漁るか」
たった一つ、該当する事柄を思い出し、男はビルを後にした。