第五話
「........貴様、何者なんだ!」
「普通の高校生.........だったはずなんだけど.......」
今の俺の格好は普通じゃなかった。
ナントカレンジャーとかに出てきそうな黒いスーツを着ている。
ピッチリと肌に触れているスーツには間接部分にプロテクターがついてあった。所々に金色のラインが入っているのが見える。
それが唯一の装飾だった。
目の前には説明や操作方法などが表示されている。
と、頭に無機質な声が響いてくる。
「......はじめまして、マスター。私はエクスといいます。好きな食べ物はコンセントから流れてくる、生の電気。特技は..........特にないです」
「..........」
「自己紹介はこれくらいにして.......システムの説明に入ります。このエクスシステムは対ヒーロー用に開発されたシステムです。くれぐれも、ヒーローと一緒に戦うなんてしないでくださいね。マスターの掲げる正義が共に戦うことならば......許してあげなくもないですが」
無性にエクスに腹がたってくる。
が、何も言うことができなかった。
なぜなら.......
「それから、私の正体は知っての通り、腕時計です。完全防水、対ヒーロー用なので丈夫には作られていますが、万が一傷ついた場合は、マスターといえど容赦はしませんから」
「.........あ、ああ」
「こんなところですかね。後、何か質問があれば気軽にしてもいいですよ」
「..........質問、いいか?」
「どうぞどうぞ」
「この状況で俺はどうしたらいい!」
なぜなら、響いてくるエクスの説明を聞きながら、シュナイガーA攻撃をかわしていたからだった。
「おわっと!」
「クッ!......なぜ、私の攻撃があたらん!」
スーツの性能のおかげだろう、シュナイガーAの攻撃は面白いほど当たらない。
が、俺の体力が持たなくなって殺されるのは時間の問題だ。
見ると、苛立ちを隠せていないシュナイガーAは目が血走っていた。
と、その時エクスの答えが返ってきた。
「.......この変態をケチョンケチョンにしてしまえば良いんですよ」
「..........つまり、倒せと?」
「.......私、そういうシステムですから」
「............なるほど」ヒーローを倒すしか選択肢がないなんて......
「......こうなったら必殺技で貴様を葬ってやる!」
「おい、ちょっと待てよ!」
一般人を普通に、当たり前のように殺すヒーローなんて........
「........おい、そこの変態」
頭の中で何かが切れる音がした。
「........人間殺して、何がプロのヒーローだ。てめぇはただの犯罪者だ」
「なんだと?」
今の俺は怒っているはずなのに酷く冷静だった。
「何か、武装はないのか?」
「.......まだ、登録されてません」
俺の問いにエクスの無機質な返答が返ってくる。
「.......仕方ない。あれを使うか」
正直、あまり使いたくないが.......この状況では使うしかないだろう。
俺は天に向けて腕を挙げる。
そして、あれを呼んだ。
「.......我が契約の元に今、現れれよ!聖剣エクスドラグーン!」
その時、教室天井に巨大な穴が空いていく。
「な、なんなんだ!」
シュナイガーAは驚いて固まっていた。
いつの間にか、俺の手には鞘に収まったままの剣が握られていた。
剣は刃とつかの間に宝石が埋まっている、かなりシンプルな物だ。
もし俺が、これが聖剣だと言われても全く信じられないだろう。
「......俺は、お前を殺さない。だが、お前の腐りきった正義はぶっ潰す」
聖剣を抜き、その刃をシュナイガーAに差し込む。
「ガハッ!」
シュナイガーAは白目を剥き、その場に倒れた。
血は出ていない。
精神体を斬ったからだ。
「.......お前の正義をもう一度、探しな」
「さすが、マスター。この調子でドンドン正義をぶっ潰していきましょう」
興奮気味のエクスの声が聞こえた。
「.........あれ?」
身体から力が抜けていき、意識もすぐに途絶えたのだった。
「.........次のニュースです。県内で起こっていた連続殺人事件の犯人が昨日、現行犯逮捕されました。昨日未明逮捕されたのは、県内に住んでいるプロヒーロー、シュナイガーAこと.......」
テレビのニュースを聞きながら、男は話し始めた。
「........皆さんも知っての通り、プロヒーローが逮捕されるという、前代未聞の事態が起こってしまった」
「.......会長、この事件にはDと呼ばれる新たなヒーローが関わっているとのことですが?」
集まっている、数人のうちの一人が男に尋ねる。
「くだらない。そんな新人に私が育てたシュナイガーが負けたというのか君は!」
また、別の男が声を荒げた。
そこに会長と呼ばれた男は言い放つ。
「まあまあ.......そのDが事件に関わっていようがいまいが関係ない。やつは今から、全ヒーローの敵になったのだよ諸君!さあ、悪は狩らなければな?」
男は楽しそうに、下衆な笑みを浮かべた。