第二章「神という者」
セルーセは治癒室で包帯を巻いてもらい、外へ出た。肩部分の純白の羽が血で赤く染っていて、とても痛々しい。
たくさんの花が咲きほこる緑が豊かな中庭に着くと、彼女は噴水の淵に座り、透き通った水をそっと手ですくった。
そのままそれを肩に掛け一瞬顔を歪めるが、傷口は少しだけ治り始めていた。
遠くを走り回っていた子供達は、セルーセの姿を見つけると嬉しそうに駆け寄って来た。
癖っ毛の男の子と、三つ編みの女の子の髪は、彼女と全く同じ輝く金色をしていた。
「あれ……?」
男の子が目を丸くする。
「セルーセさま、ケガしてるの?」
「大丈夫?セルーセさま」
女の子はそう言うと、手で彼女の肩にそっと触れた。二人はしゃがみ込んで、心配そうに青い目をセルーセに向ける。
「大丈夫よ。これくらいの事でヘコ垂れてたらお城が守れないでしょう?」
二人を安心させる為に、セルーセはにこやかに微笑んでみせた。そして、胸に光る銀の十字架を握り締めた。
「それに、神はいつも私を見守って下さっているから」
「神様って本当にいるのかなあ?」
男の子も、セルーセと同じ胸の十字架と睨めっこしている。
「ええ、きっといるはずよ」
「リュート!ノア!」
中年だが、どこか気品のある女性が二人の子供を見るなり一目散に駆けてきた。
「姫様、またうちの子が何かやらかしたんでしょうか?」
「いえ、とんでもない」
セルーセはいつもの彼女の気迫に圧倒され、目を丸くしたまま首を振った。
「それならいいんですけど……。 さあ、姫様はお忙しいのだから二人共こちらへ来なさい」
「はぁい……」
「またね、セルーセ様」
子供達はは名残惜しそうに振り返りながら手を振り、セルーセもそれに応えた。
彼女は二人を見送ると、城内へと歩を進めた。