宿と情報
フランシスの好意(と博士の好奇心)で研究所に泊めてもらえることになった。
ありがたい話だが、あの二人と同じ屋根の下で生活するのは恐ろしい。
しかし、あの激しい雨の中で野宿すればきっと野垂れ死ぬ。
「それで、ヒカルは異邦人なの?」
「多分」
フランシスは無知なのか、俺にも頻繁に質問する。
「フランシス、新しい腕の試作だ。取りかえるぞ。ヒカル、泊まるなら手伝いたまえ」
「腕の交換って、俺はそんな専門知識はありません」
「道具を取るくらいはできるだろう」
博士はそう言って俺を『実験室』なる部屋に引きずる。
まるでフランケンシュタイン博士の研究室だ。モンスタームービーの見過ぎだろ。
「これが腕だ」
博士が見せたのは指が三本しかない腕だ。
「もう少し人間っぽい奴の方がいいんじゃ……」
「別に三本あれば不自由しないだろう」
「見た目の問題もあります」
「ふむ、美術的価値とかそういったものか。私はどうも……そう言ったものには疎い」
博士は一瞬考えるしぐさをして、すぐにフランシスの新しい腕を手に取る。
「試作だ。動作を確認して改良しよう」
どうやら手術は強行らしい。
できれば、こんなことは二度と経験したくないと思う。
博士は美術的価値に関心がないだけじゃない。食事にかんしても同じことが言えた。
味覚がくるっているわけではないが、美食への関心が極端に薄い。
「……台所借りますね」
ほぼ炭みたいなものをよく食べられる。
たまにサプリメントみたいな食事だし。
不健康にも程があるだろう。
「料理ができるのか?」
「それなりには」
家庭科で習うだろうに。こっちではそんな習慣はないのだろうか。
「げっ、食糧全然ねぇ」
「ふむ、そう言えば最後に研究室を出たのはフランシスを捜しに出ただけだったな。フランシス。買い出しに行ってくれ。ヒカルお前もだ」
「……フランシスと一緒ですか?」
「金はフランシスに持たせている」
「せめて斧になってる腕を交換してやってください。子供が泣きますよ」
俺が泣きたい。こんな全身凶器改造人間と、頭のいかれた博士に囲まれて生活なんて。
そもそもの原因はなんだ?
俺が何をした?
いつ解剖されるかもわからない恐怖におびえながら生きている?
うんざりだ。
きっとあの女のせいだ。
「そういや、博士」
「ん?」
「女を知らないか? 15、6の黒髪でたれ目の女だ。時計の店の店主っぽい」
あの女に会えば帰れるかもしれないなんてかすかに期待している。
「知らんな。女には興味がない。全員同じ顔に見える」
「フランシスは?」
「黒い髪の女の子なら、ハリかな。ハリは23だって言ってたけど、よく子供と間違えられるって」
「今度そいつ紹介してくれるか?」
もしかするとそいつかもしれない。
別に、もどっても何かあるわけじゃない。
ただ、ここに居たくない。それだけだ。