科学者と騎士
変な夢だと思いたい。
けれど、どうもそうはいかないらしい。
フランシスの持ってきた食料は完全な保存食でまったく美味くはなかった。正直不味い。
けれど、確かに空腹を満たしてくれた。
飲み物は得体の知れない茶だったが、とにかく濃くて苦い。これは何かと訊ねれば「紅茶」だと答えられたが間違っても紅茶はこんな味はしない。
「ふふっ、ヒカル、僕のお茶飲んでくれた。親友だね」
「飲んでくれたって……そりゃあまぁ……」
ど不味かったが。とは言えない。
どうもこのフランシスは味覚がついていないらしい。
いや、機械だから当然か。
「ハリは僕のお茶をニガイって言うんだ。ニガイって何?」
「……毒みたいな味って事だよ」
確か生命的な危機を感じるんだっけ?
まぁいいや。とりあえず悪気はなさそうだしな。
「なぁ、エレッツリコって誰?」
「博士だよ」
「お前のとこの?」
「うん。博士は天才だよ。僕のこと大切にしてくれる」
「そのくせお前の腕は斧にしちまうんだな」
よく見りゃもう片方は注射器みたいだ。
注射器が指の形についていやがる。
「腕を作るのが間に合わなかったんだ。だけど、今作ってくれてるよ」
普通は起動前に作るだろ。
おかしな話だ。
「天才の考えることって凡人の俺には理解できねぇや」
「みんなそう言うよ。だから博士は天才なんだ」
フランシスは妄信的だ。
だけど、心から誇れるものを持っているということがひどく羨ましい。
「ここ、どこなんだ?」
「廃墟の迷宮の入り口だよ」
「入り口? いや、そうじゃなくてさ。この国とか世界とか地理の話」
「変なことを聞くね。ここは神に見捨てられた国、クレッシェンテ王国王都ムゲットだよ」
神に見捨てられた国?
本当にRPGかよ。
「異世界トリップはゲームとラノベで十分だって。んで? 勇者様はどいつだ?」
俺じゃなさそうだ。
「ユウシャ? なんだい? それは」
「じゃあ国王陛下か?」
「現王はデネブラ様だよ。女王陛下だ。治世は二百三十九年だったかな?」
「……なんだぁ? この国の連中は寿命が長いのか?」
いや、王族や貴族は年取らない設定なのかもしれない。
「フランシス、勝手に出歩くなと言っているだろう」
低い声が響く。
一瞬からだが跳ねた。
「博士。見て、これ僕の親友だよ」
フランシスは誇らしげに俺を男に紹介した。
男はこれでもかと言うほど原色の緑の頭に無精髭。フレームの歪んだめがねと白衣が専門馬鹿を思わせる風貌だった。
「親友? まぁ、興味無いな。それより、そいつ……異邦人だ。面白い。解剖するか」
いきなり!?
俺? 解剖される!?
「いやいや、その前にフランシスの腕完成させてくださいよ博士」
「ん? 私を知っているのか? いや、フランシスの腕はこれでなかなかイケているだろう」
「ま、まぁ、注射器の指はなかなかイカしてますが……両方武器じゃ握手も出来ない」
「それもそうか。ふむ。やはり状況に応じて変形させる必要があるようだな。ついでに圧縮粒子砲でも付けるか」
怖い。
こいつの思考が怖い。