間章 宮廷騎士
「異界から異物が入りおったわ」
突然陛下がそう呟かれた。
「異物、とは?」
「異邦者だ。つまみ出せ」
「陛下のお言葉のままに」
そうは言ったが、それが一体どのようなものか、どこまでつまみ出せばよいのか分からない。
ネクタイが苦しい。
緩めようとした時、陛下のお小さい手がそれを阻止した。
「ラファエラ、似合っているのに勿体無い」
「申し訳ございません」
「ユリウスはどこだ?」
「鍛錬の最中です」
「ミカエラは?」
「カァーネは本日は門前警備にございます」
「呼んで来い」
「え?」
「我は退屈だ。ミカエラとラファエラで遊ぶことにする」
陛下は気まぐれでいらっしゃるから、きっとミカエラが来たころには飽きられて、ほかの事をしたいとおっしゃるのだろうけれど、我々には何も言えない。
我々は、陛下の駒だ。
宮廷騎士団と言うのは、陛下の玩具箱でしかない。
この、宮廷騎士たちは、兵士であり、使用人であり、そして、陛下の人形である。
陛下は時折着せ替えをお楽しみになり、兵士同士を戦わせてお楽しみになる。
我々の日常はただ、その繰り返しでしかない。
陛下のお気に召さないものは全て排除し、陛下のお気に入りを集め、管理する。
陛下は王宮と言う豪奢な籠の中で、心地よい悪夢に浸っていてくれさえくだされば、我々には何の不満もない。
陛下と言う存在こそが、我々の存在意義なのだ。
「陛下」
「ユリウスか……異界から異邦者が紛れ込んだ」
「それは……」
ユリウスが大きく目を見開いた。
「捕らえろ。殺しても構わぬ。この国から消せ」
無邪気な子供のような笑みは消え、ただ、冷酷な王の顔。
我らが陛下、デネブラ様は、それはもう、氷の微笑を浮かべられた。
「陛下のお望みのままに」
「いい子だね。ジル。ラファエラ、我は甘いものを所望する」
「ただいま」
本当に気まぐれでいらっしゃる。
我らが宮廷騎士団長、ユリウスの顔を見れば多少は気を良くなさって、そうして、おやつの時間になる。
いつも変わらない。
いつまでも。
きっと十年後も、百年後もこれは変わらないのだろう。
使用人を捕まえて、陛下のおやつを用意させる。
廊下に派手な音が響いた。きっとポーチェが派手に転んだのだろう。
まだ、昼だというのに薄暗い廊下。
外を見れば、空に翳りがある。
雨でも降るのだろうか。
ただ、異界から来た異物が隠れるには丁度良い天候であるように思えた。