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今更に。  作者: 高里奏
3/9

雨と赤

 冷たい。

 酷く寒い。


 意識がまだ、朦朧とする中、雨の音がした。

 きっと俺は雨に撃たれている。それも長い間。


 足音がする。

 あまり大きな音ではない。どちらかと言うと普段はまったく音を立てずに過ごすような人種なのだろう。

 あまりにも静かで、気配さえ朧だ。


 声がする。

 女の声だ。

 ただ、女の口からこぼれたのは言葉ではなく歌だった。

 暢気な奴だ。

 人が雨に撃たれて倒れているところを見ても、暢気に歌なんか歌ってやがる。

 音域はソプラノだろうか。

 年若い女だ。いや、少女と言うほうが良いかもしれない。俺より少し下にも見える。


「なんだよ」


 少女は俺の顔を不思議そうに覗き込んでいた。

 また、歌が聞こえる。

「暢気に歌ってんじゃねぇ」

 歌詞は外国語のようで意味が分からない。

 何の冗談だ。どう見たって日本人だろうに。

 けれど、少女の口からは歌しか流れない。

 そして、少女は首を傾げた。そして、大きな声で歌う。普通なら叫ぶような感覚。なのに、それは確かに歌だ。

 確か外人が歌う時はベルカントとか言う歌い方だっけ? なんて大分前に音楽で聞いたことを思い出す。

 多分少女はそのベルカントとか言う声の出し方なのだろう。

 少女が大声で歌ってから少しも経たない内に、栗色の髪の女が現れた。

 女もまた、歌う。少女と歌で会話しているようだ。

 なんだかオペラでも見せられているようなそんな気分だ。

 女は不意に敵意を顕にした。

 武器、それも棒のようなものを構えた。

 避けないと殺される。

 本能がそう告げた。

 俺は残った力の全てを使って女の棒を避け、その場から走った。

 女が追ってくる気配は無い。

 その事実に少しだけ安心した。

 しばらく、二つのソプラノが響いている。

 だけど、もう、足音はしない。

 息が落ち着くのを待って、あたりを見回してみた。


「どこだよここ……」 


 旅行番組なんかが好みそうなふるいヨーロッパの街並みにも似た風景。だけど、どこかが違う。

 普通はアルファベットが並ぶであろう看板類は全て楽譜が描かれている。

 嫌な予感がする。

 これはもしかしなくともラノベやゲームでよくある異世界に飛ばされちゃった。とか言う非現実であるからこそ楽しめるとんでもない設定をまさに体験させられているのではないか。

 まさか。

 そういいたいが、心当たりも無くない。

 あの女だ。

 あの妙に年若く見えるアンティークショップの店主。あの女が何かをやらかしたに違いない。。

 まったくの知らない世界。

 そう考えればさっきの二人の歌も納得できる。


 この国では歌が言葉なんだ。


 いきなりの難題だ。

 言葉が理解できなくては生きていけなかろう。

 口の利けない不利をしてやり過ごすか。

 いや、相手の言葉がまったく分からないんだ。それも無理だろう。

 筆談だけでも出来れば良いのだが、音楽の知識は皆無な上に、英語は大の苦手だ。


「やべ……俺死んだわ……」

 ごめん、かーちゃん。俺、客死して帰れねぇわ。


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