進路と希望
ずっと伝えたいことがあったはずなのに、それが思い出せない。
日常でよくあることだ。
だが、万が一それが非日常だった場合、取り返しの付かない事態になる可能性が高い。
もっとも日常の中でそのような非日常に出会うことはまず無いだろう。
そう考えてしまうほど、俺、笹倉光は平凡すぎる日常を送っていた。
正直、ただ退屈な高校生活に飽き飽きしている。
成績は中の上、かといって努力したことも無い。
学校から帰ればゲームしてラノベ読んで、特に趣味とか特技とかいったものも持たない俺は平凡すぎる日々が退屈で仕方なかった。
「佐々木、帰りにマック行こうぜ」
「パース、金ねぇよ」
バイトもしてねぇ月五千円の小遣いで毎日マックなんか行ってたら破産だろ。
「ちぇっ、今月特に新作ねーからいーじゃんよー」
「バーカ、ここぞって新作が出た時に買うために貯めてんだろ?」
趣味ゲームとかカッコ悪すぎ。
教室の窓から外を見れば野球部がなにやら賑やかだ。
そういや隣の家の武は野球一筋で既に七年か? なんて考えていると加藤に小突かれる。
「お前、スポーツって面じゃねーだろ」
「まーな。なんか武思い出してさ」
「あー、お前んちの隣のやたら愛想良い中学生な。野球やってるんだっけ?」
「そー、やたらうめーんだよ。全国行くとか言ってたぜ」
まぁ、俺には関係の無い話。
「武は武、俺は俺」
「まーな。で? これからどうする?」
「帰ってゲーム」
「ちげーよ。進路の話」
「進路?」
「ほら、そろそろ決めとけって島村うるせーし」
そういえば最近禿げ初めて来た担任は進路のことでうるさい。
「んなのてきとーに進学しまーすでいくね?」
「おいおい、そんなんでその先どーすんだよ」
「しらねー」
今そんなこと考えるとかありえねー。
なんて、毎日同じこと思うんだけどさ。
「んじゃ、俺まだこの前のRPGクリアしてねーから帰るわ」
「クリアしてねーって、当たり前だろ。あれは一週間やそこらじゃクリアできねーよ」
「三週間以内にクリアしてー」
まぁストーリーが単調で飽きてきたところだけどさ。
大きく欠伸して教室を出る。
いつもと何も変わらない。
俺が何をしても、何もしなくても明日も何も変わらない。
ただ、退屈なだけで、存在意義さえ感じられない。
「古文とか歴史が何の役に立つんだか」
化学はまだ納得いくけど古文、あれは無い。あんなの勉強する暇あったら英語のほかにもう一ヶ国語入れたほうが効果的だろ。なんて柄でもないことを考えたりしたって退屈だ。
足が重い。
人間には二種類あるんだ。
未来に希望を持ってる奴と希望なんか持てない奴。
そう、俺は未来に何の希望を持たない種類の人間だ。