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6話 姫様、スローライフへの道筋が見えました

「釣り針に餌がわりとして毒キノコを仕掛けたのじゃが、ポセイドンが食いついてしまってのう。マジギレしとる」


リィナは状況説明をすると、


「そもそもなんで、あの湖に海王がいるのよ?」


「海王たちを束ねる水神龍の逆鱗に触れて左遷されたのかもしれんのう。」


「海王って支店長扱いなのね」


私はなんとなく納得すると、オカリナがメロンを食べながら、


「女神よ。奴は仮にも海王。状態異常への耐性はなかったのか?」


「ガバガバなんじゃろうな。で、奴は目眩や吐き気に苦しみながらも、お前じゃ話にならん。上の奴を呼んでこいと怒っておる。しかし、妾は慈愛の女神。上の者なんかおらんと困ったのじゃが、そういえばミナエがおったわ。と呼びにきたのじゃ」


「……なんで私が、女神の不祥事の後始末をしなきゃいけないのよ」


「そこをなんとか!」


リィナが頼んできたので、


「仕方ないわね。お詫びの品を持って湖に行くわよ」


私は重い腰を上げたのであった。




昨日リィナがぶん投げられた湖。


そこまで広くないのだが水深はあるのだろう。


「明日で良かったら畑からなんか取れたんだろうけど」


千尋が申し訳なさそうに言ってきたが、


「私の人生経験上、気持ちよ、気持ち」


と、微笑んだ。


「……で、その『気持ち』がこれなの?」


千尋が、私の手元にあるものを指差して呆れたように言った。


私が持ってきたのは、さっきオカリナが「ここは食べられるところですか?」と聞いてきたメロンの皮と、その辺で摘んだそれっぽい雑草を束ねたもの。あと、水。


「いいのよ。海王ってことは海の幸には詳しいだろうけど、陸のメロンの皮の裏の甘いところなんて食べたことないはずだし。あとこの草は……なんか効能がありそうじゃない?」


「それ、ただのぺんぺん草の親戚よ」

  

千尋が冷静にツッコミを入れる中、私たちは湖のほとりに到着した。


すると、湖面がボコボコと泡立ち、中から巨大な三叉の矛を持った、禍々しいオーラを放つオッサン――ポセイドンが姿を現した。


「……来たか……腐れ女神の……上司め……。覚悟は……できて……おる……な……ッ!」


ポセイドンは凄まじい威圧感を放っているが、顔色は土気色で、三叉の矛を杖代わりにしないと立っていられないほど足元がフラフラだ。


毒キノコのダメージは想像以上に深いらしい。


「あの、ポセイドンさん。うちの女神が大変失礼なことを……。これ、お詫びの品です」


私が「気持ち」を差し出すと、ポセイドンは血走った目でそれを見つめた。


「……なんだ……これは。貴様、海王である私を……この……食べ残しの皮と……道端の草で……バカにしているのか……?」


「いえ、これは陸の秘宝『メロン』の希少部位です。あと、こっちは……胃薬代わりの雑草です」


私がドヤ顔で言い切ると、リィナが私の後ろからひょっこり顔を出した。


「あと、妾の詫びとして毒キノコの詰め合わせも持ってきたのじゃ」


「貴様ら......ふざけるのも大概にしろ!」


その直後、ポセイドンは口を押さえてその場に膝をついた。


「うっ……やはり……毒が……」


「キレる前に倒れるな!!」




「......ここは?」


ポセイドンが目を覚ました。


「森の外にある街の病院みたいなところよ」


「そうか。貴様が私を救ったのだな」


「皆で運んだだけよ。気がついたなら帰るわ。家も完成したみたいだし」


「待て。貴様はあの毒キノコを食べさせた女神の上司ではないのか?」


「上司になった覚えはないけど。一応仲間であることは確かかもね」


「まあ良い。命を助けられたことに感謝する」


「安静にして寝てることね。なんか100個くらい後遺症残るらしいから」


「そんなに!?」


「最終的にはペペロン語が話せなくなるって医師が言っていたわ」


「どこの言葉!?」


「あと、これ」


私は一枚の紙を手渡した。


「治療費金貨一万枚だと!?」


「社会保険に加入してないからよ」


「なんだそれは!」


まあそんな医療制度、この世界にあるとは思えなかったが発狂するポセイドンをよそに病室を出た。


「姫様。お待ちしておりました」


外でオカリナが片膝をついて待っていた。


「恥ずかしいからやめてほしい」


「では両膝で」


「そういう問題じゃない!!」


私は叫んだのだが、


「......姫様」


「うん。わかってる」


真剣なオカリナの表情に応える私。


「お帰りですか?」


いつの間にかいて、そして笑顔で話しかけてくる医者。


「海王ポセイドンとわかって、あの法外な請求書を書いたわね」


「僕は金なんて興味はないのですが助手がね。取れるところからは取れってうるさいもんでして」


「あなた、神のくせにそれはひどいんじゃない?」


ふっかけてみた。


なんとなくだがこれまで見てきた人間とは違う感じがしたからだ。どちらかと言うとリィナに近い雰囲気が彼にはあった。


「さすが古の悪魔姫(デビルプリンセス)。そう、僕は神族のユリエルと申します。病気や怪我の際は僕が見てあげますよって、あなた様は病気や怪我にはなりませんか」

 

「ぼったくり被害にあわなくて、今だけこの身体に感謝しているわ。で、本題に入ってくれないかしら? 自宅が完成したらしいから早く見たいのよ」


「実はお願いがありまして、海王ポセイドンが握りしめていた草ですが、あなたが摘んだものですか?」


「そうよ? 適当に生えていた雑草だけど」


「雑草なんてとんでもない! エリクサーです」


「聞いたことあるネーミングね。全回復とかするんだっけ?」


「そうです。どんな怪我も治します。まあ、もちろんそのままでは使えませんがね。で、お願いとは、そのエリクサーを僕にも分けて欲しいんです。あれは世界に数本しか存在しないはずなのに。できれば森に生えている他の草を調べたい。もしかしたら未知なる草が生えているかもしれません」


それほど有名な草だとは思わなかった。


どうしたもんかと悩んでいるとオカリナがユリエルという神族に言った。


「姫様はあの森を拠点に世界征服を目指しておられる。しもべになり、森を拠点とするなら許してやろう」


「そんな簡単なことでいいんですか! 明日にでも移住します!」


いや待て。簡単じゃないぞ? 


住む場所がまずないぞ?


てか、オカリナ。あなた魔族よね?


神族は敵じゃないの?


私は不安な視線をオカリナに送ると、


「姫様ご安心下さい。こやつらは法外な金を罪もなき海王に請求する、神族とは思えないくらい搾取構造を理解している優秀な個体です」


「いや、遠回しに神族の風上にも置けないクズって言ってるだけじゃない。それに住居すらないのに来られても困るって言いたいのよ。あと、医療は確かに素晴らしいけど......」


そこまで言って止まった。


「今来ている大工さんたち、腕が良かったら皆の家や施設の建築をお願いしようか」


森に小さな村をつくり、快適な暮らしをする。


もしかしたら、それがスローライフにつながるのではと胸が昂るのであった。


ただし、今は我が家と水と家庭菜園しかまだないのだが。

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