神様の威光
「……で、リリア? 具体的にどうすればいいんだ?」
「基本的には、この『神様向け・かんたん手引き書』に従うのが通例ですね」
どこからか取り出された薄っぺらな冊子を、俺はパラパラとめくってみる。意外とアナログなんだな……。
「えーと、まずは人々から信仰を得るための『生名』を決める? ……これ、名前のことか?」
「ご明察です。神としての真名ですね」
「うーん、名前か。……あ、これ。決めた名前を『祖霊樹』に刻むって書いてあるけど、どうやるんだ?」
「あなたが強く念じて、そのエネルギーを解き放つんです。そうすれば、この領域の中心にある樹木に名前が刻まれます。あ、中心と言っても世界地図の真ん中ではなく、概念的な球体の中心のことですけど」
「……最後のはよく分からんが、とにかく気合だな! よし、いくぞ!」
「あら、もう決まったんですか?」
リリアの制止も聞かず、俺はぐっと足を踏ん張った。喉の奥に力を込め、頭の中に決めた名前を思い浮かべる。
「いくぞ……んんっ…………ぬぅうっ! ………………あれ? ……んんんーっ! ……ふんぬッ!!」
「…………」
沈黙。リリアの冷ややかな視線が突き刺さる。
「……あの、何も起きないんだけど。やり方間違って——ぬおわっ!?」
その瞬間、視界が真っ白に染まった。
天界から降り注いだ圧倒的なまでの神々しい光が、領域のすべてを飲み込んでいく。
ドロドロだった黒い空が、吸い込まれるような青空へ。
ヘドロのようだった川が、水晶のように透き通った水へと一瞬で塗り替えられていく。
「おおお……! すげぇ、なんて力だ……!」
「……へぇ。やっぱり神様——いえ、『ノービス』様の力は伊達じゃありませんね。ところで、その『生名』にはどんな深い意味が込められているんですか?」
「いやあ、そんな大層な意味はないよ。今の俺には、これが一番しっくりくるかなって思っただけさ」
「……よく分かりませんが、深くは追求しないでおきます。それより下を見てください、ノービス様。人々があなたの奇跡に狂喜乱舞していますよ」
眼下では、絶望に沈んでいた人々が立ち上がり、空を仰いで涙を流していた。
「んっ、んんっ! いやぁ……いいもんだな、こういうのは。神様冥利に尽きるよ!」




