神の御言葉(緊張)
「……ペリクレス。ノービス様は今、この神殿へと来訪されています」
リリアのその一言で、神殿内の空気は一気に凍りついたような緊張感に包まれた。
「な、なんと……主神自らが、この場所に!?」
「ノービス様はあなたとの対話を求めています。心の準備をなさい」
「は、はい……あぁ、なんという光栄……っ!」
ガチガチに震えだしたペリクレスを横目に、白鳥がスッと俺の方を見た。
『ではノービス様。お願いしますね』
「ちょっとリリア、急に振るなよ! 俺にも心の準備ってやつを——」
「ふふっ、そんなにヒソヒソ喋らなくても、私の声以外は誰にも聞こえてませんよ♪」
「……そーなの!? なーんだ。……ははっ、焦って損した♪」
「ふふっ♪」
「…………って、笑ってる場合じゃないだろ!」
俺の動揺をよそに、リリアは羽を整えながらクスクスと笑っている。
「神様らしくお願いしますね。後世に『愚鈍な神ノービス』なんて伝わらないように」
「はぁ、はぁ……緊張してきた……。すー、はー……よしっ!」
「……彼に、意識を集中させるんですよ」
俺は覚悟を決め、無理やり威厳を振り絞った。地鳴りのような響きを意識し、あえて大げさな口調で語りかける。
『……ペリクレスよ。この神殿の、あまりに素晴らしい造形に、私は深く感銘を受けたぞ』
緊張のせいか、どこかぎこちない喋り方になってしまった。
俺の背後では、白鳥がくるりと後ろを向き、翼で必死に口元を押さえている。たぶん、真顔で虚空に語りかけている「白い牛」のシュールな姿を想像して笑いを堪えているんだろう。
「おぉ……! この私が、直接神の御声を拝聴できるとは! 神殿もお気に召されたようで、このペリクレス、安堵の極みにございます!」
ペリクレスは感極まった様子で床に額をこすりつけた。
『うむ。神殿に加え……そなたの、その長きにわたる献身的な布教活動。実に頼もしいものであった』
「ありがたき御言葉! しかし、すべては神の御力があってこそ。この私が都市の指導者となれたのも、あなたが世界を浄化し、我らに希望を授けてくださった証に他なりません。ここに集う信徒たちの心も、すべてはノービス様の御力に引き寄せられたものなのです!」
(うわ……すごい饒舌だ。めちゃくちゃ立ててくるな……)
立て板に水のようなペリクレスの完璧な返答に、俺は牛の姿のまま、冷や汗が止まらなくなっていた。




