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喫茶店とは、人生の縮図である

作者: malaysia403
掲載日:2026/02/14

喫茶店とは、人生の縮図である。


耳を澄ませれば、あちらこちらから人生が飛び込んでくる。



今、カチャリと珈琲の入ったカップを鳴らした男性は、さしずめ待ち人ありと言ったところか。

先ほどから右手に付けた時計をチラチラと見ては、店の入り口の方を見ている。

間違いないところであろう。



カラン、と戸の鈍い鐘が鳴り女性が入ってきた。

彼女は店員の誘導も無しに店の奥へと入ってゆく。


この女性だ。

きっと、大事な話をしに来たに違いない。

表情を鑑みるに、別れ話……


いや、離婚だ。


私がそう確信した時、男性が動いた。

ガタン、と少し乱暴に椅子を鳴らして立ち上がった。


そのまま女性の方に近付き---そのまま通り過ぎた。


…はて?


男性はそのまま店の入り口に向かい、


その横にある、『御手洗』と書いてあるプレートの下の扉に消えていった。


店に入って来た女性は、そのまま何事もなく店の奥の席に座る。


御手洗からは女性が出てきた。

入り口脇あたりで何やらスマホを取り出して操作を始める。



…いや、失敬。

愚考でありました。

人の不幸を邪推してみるものではありません。


とは、いえですが…

今度は流石に間違いない。



今、奥に座った女性。

入ってくるなり少し怒ったように奥に座る様子。

店員が注文を聞くも、

「ホットコーヒー」

とだけ返すその憮然とした態度。


今度こそ、これは別れ話の類で間違いない。

奥まった席に座ったのも、人に話を聞かれたくないからだろう。


推理は完璧だ。

さあ、私にあなたの人生の『答え合わせ』を見せてください---



「ユキちゃん!ごーめん!

トイレ入ってて気付かなかった!」



「ううん!こっちこそ遅れてごめんねしーちゃん」



「また旦那?」


「そう!ホントにアイツ愚図だからイライラしちゃって…」



…良かった。

うん、良かったのです。


この店に不幸な人は一人もいなかったのでしょう。

大変、喜ばしい事です。



私が愚行を重ねている間に御手洗から出た男性は、携帯片手に何やら話しながら外へ出ていった。

よく見ればスーツ風な姿であったし、仕事の合間だったのでしょう。


そうなれば、今日のこの店の中の人生は『幸福の縮図』で間違いないだろう。


元気に仕事に勤しむサラリーマン


旦那の悪口を言い合う主婦たち


バイトの面接をしている二人組


長年の常連客の老夫婦


実に、幸せと希望に満ちている空間ではないか。


答え合わせも済んだところで、そろそろ私はおいとまを---


「カニ、採りてぇだろ?今の時代、マグロは流行らんもんなあ」


「いや、それは流石に…」


ダン!と机から音が鳴った。

他の客からは足をぶつけた程度にしか感じないが、確かに向かいの男には強烈な威圧を与えていた。


「じゃあ、いくら返せんの?」


「いや、まあ、それは…イテテ」

男性が痛がるが、特に何をしている様子もない。

ということは、下か。



借金を返せないが、強制的な手段も嫌がる男性。

文字通り『足踏み』状態と言うべきか…。


私はふと思いついた考えに思わず笑いそうになったが、彼らの手前絶対に顔には出さない。


同時に、確信した。

真に、喫茶店とは人生の縮図である、と。




---




「な〜んて、思ってんでしょう、ねぇ?マスター」

先ほど帰ったスーツの男性の、少し飲み残した珈琲を捨てながら店員は呟いた。


カップを軽くすすぎ洗浄機の下に並べる。


「キョロキョロしたりニヤニヤしたり、常連さんとはいえちょっと気持ち悪くないっすか?」


「…まあ、今のところクレームも来てないから、ねえ」


そう言いつつも、さっき一通り見終わりに立ちあがろうとした時は「帰ってくれ…」と願っていたのは間違いない。


…さて、どうしたものか…


「とりあえず、あの人に珈琲おかわり聞いてきて。あと、『ベーリング海』さんは遠回しにお帰りいただいて」


「…うす」


喫茶店は、人生の縮図である。


もしそうならば、私の縮図は日々平和な混沌で足湯でもしているのだろう。

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