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第二十四章 ヤギの顔で癒やされたい

課長は、机越しに深く息を吐いた。

そして――珍しく、素直に頭を下げる。

「……すまない」 「君に任せて、もしケガでもさせたら取り返しがつかない」

姫は一瞬だけ目を丸くし、すぐにいつもの表情へ戻る。

「だから何です?」 「今日から運転手はいりません」

即答だった。

課長の眉がぴくりと動く。

「……ミニクーパーを用意する」

「盗聴器つきのですか?」

「違う!……いや、違わないが!」

思わず頭をかきむしる。

「あのヤギ男が君を襲ったらどうするんだよ!」

姫は、一切迷わず言った。

「――私が襲いたいです」

沈黙。

課長は天井を見上げた。

(もうダメだこの子)

「……盗聴はやめる」 「だがスマホの電源は切るな。緊急時に助けに行けない」

背後から、鋭い視線。

特務機関の先輩たちだった。

「オレたちと勝負してみろ」 「修練所で待ってる」

――全格闘術を修めた、実戦特化の精鋭。

空気が、凍る。

コインが低くつぶやく。

「……姫が危険だ」

セントは、沈黙したまま歩き出した。

その瞳だけが、わずかに冷えていた。

「……修練所って、ここでいいんですか?」

無機質なトレーニングルーム。

そこに美月が立っていた。

「どうしたの、こんな所に」

「姫が、決闘を申し込まれたそうで」

その瞬間――

200kgのベンチプレスを持ち上げる男が笑った。

「オレだ」

セントは無言で近づく。

そして――

片手でバーベルを持ち上げた。

静かに床へ戻す。

「……じゃ、始めましょうか」

男の頬が引きつる。

「オイオイ……200kgだぞ」 「……化物め」

銃を抜く。

「センパイ、それは――」 美月が止める。

「ゴム弾だ。死にはしない」

六発発射。

セントの声は、あまりにも静かだった。

「――収納」

弾丸が、消えた。

「……は?」

男の思考が止まる。

次の瞬間、ショットガンを乱射。

――発砲音。

――静寂。

気づけば男は、床に押さえつけられていた。

「アイツは化物だ!!」 「鎮圧対象だ!!国を滅ぼす!!」

絶叫。

そこへ姫が駆け込む。

「セント!? 大丈夫!?」

「センパイが撃って……」 美月が震える声で説明する。

SPが周囲を見る。

「弾丸は?」

男が叫ぶ。

「ないだろ!!無実だ!!」

姫は、ただ一言。

「セント。出して」

――バラバラバラ。

床に転がる弾丸の山。

完全な証拠。

SPが冷静に告げる。

「線条痕、確認できます」

男は崩れ落ちた。

「……化物を討伐するのが……オレの仕事だ……」

「それは裁判でどうぞ」

連行。

静寂。

セントは小さく息を吐く。

「……姫に」 「こんな危険な連中を近づけさせない」

その声は静かで――

だが決意だけが重かった。

別の男が前へ出る。

「次はオレ――」

ぷす。

尻に刺さるデザーガン。

姫が無表情でボタンを見せる。

「押されたい?」

「い、いや……」

全力で退散。

その後。

姫は課長室で雷を落とされていた。

「事情は分かる!!」 「だが特務課員にデザーガンはやり過ぎだ!!」

長い説教。

だが姫の意識は別の所にあった。

(……ストレスたまった)

(帰ったら――)

思い浮かぶのは。

あの、無表情で少し困ったヤギの顔。

胸が、きゅっと締まる。

(……癒やされたい)

小さく息を吐く。

誰にも聞こえない声で、つぶやいた。

「……セント」

――ヤギの顔で、癒やされたい。

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