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第二十三章 尾行

特務機関課長は、机に肘をつき、指を組んだ。

「――ヤギ男が、

 異世界から戻ってきた英雄クラスと

 同等の戦力だと?」

姫は一瞬も迷わない。

「いえ。

 場合によっては、それ以上です」

室内の空気が、わずかに沈む。

「……そうか」

課長は低く唸り、続けた。

「この案件だ。

 ――やれるか?」

姫は返事をしない。

そのまま立ち上がり、応接間へ戻った。

それが答えだった。

「セント。今から迎えに行く」

通信越しに、軽い声。

「今日はどんな案件です?」

「写真を送るわ」

数秒。

「……狼の着ぐるみ?」

さらに数秒。

「違うな。

 本物の狼男か」

「ええ」

姫は歩きながら続ける。

「最初、課長は

 山羊が狼に勝てるはずがないって思ったらしくてね」

「だから、回ってこなかった?」

「ええ。

 でも――判断を誤った」

「……なるほど」

「もう着くわ」

エンビ服姿の山羊。

だが誰一人、振り返らない。

視線に引っかからない。

違和感すら残さない。

完全に、街の一部だった。

姫はふっと息を吐く。

「……不思議ね。

 見ていると、少し落ち着く」

「擬態の完成形です」

「それ、褒めてる?」

「最高の賛辞ですよ」

「では、行きましょう」

運転手が確認する。

「どちらへ?」

姫はセントを見る。

「コインは?」

「調べた限り、

 本物の狼男は一人だけだ」

「じゃあ、そこね」

セントはメモを書き、無言で渡す。

「狼 vs ヤギ」

「姫 vs 狼」

「赤ずきん衣装で――」

「やめなさい」

「どっちが勝ちます?」

「……どっちも私たちが負ける」

沈黙。

運転手が恐る恐る言う。

「……戻ります?」

「ふざけただけ! 行って!」

しばらく走ってから。

セントが呟く。

「……まさか

 あの格好のまま生活してるとは」

姫が即座に睨む。

「あなたが言う?」

「エンビ服の時は

 その顔にしなさいって言ったの、姫でしょう」

姫、被弾。

「……アウ」

「――着けられてたな」

コインの声。

二人同時にデザーガンを構える。

前方。

狼男は、すでに地面に伏せていた。

「……また特務機関の先輩」

コイン

「あれは普通の人間だ」

姫の視線が鋭くなる。

「……なのに、

 センパイ達、ずいぶん焦ってるわね」

その瞬間。

セントが、鼻歌を歌い始めた。

♪ セイレーンのささやき ♪

空気が歪む。

特務機関の男二人が、

言葉もなく崩れ落ちた。

眠り。

深く、完全な。

コインが低く言う。

「……普通の人間ってのは

 嘘だ」

姫の意識も引きずられる。

「……盗聴……」

そのまま落ちた。

運転手も、すでに眠っていた。

目を覚ます。

白い天井。

特務機関・聴取室。

……だが。

姫は、

ヤギ頭の男に膝枕されていた。

「……カワ――」

違う。

ガバッと跳ね起きる。

「狼男は!?」

「そこ」

セントが顎で示す。

聴取椅子。

鎖を何重にも巻かれ、

狼男はまだ意識を失っている。

姫は無言で歩み寄る。

蛇型のクナイを一本。

次。

また次。

逃げ場を潰すように、八方へ。

空気が張りつめる。

「――最後の一本」

サクッ。

音もなく。

狼男は、

存在ごと消えた。

姫は振り返る。

「……なぜ

 尾行に気づかなかったの」

コインは静かに答える。

「奴らはな」

「完全キャッシュレス決済に切り替えた」

姫の目が細くなる。

「……つまり?」

「――俺を排除するためだ」

沈黙。

見えない戦線が、

すでに次の局面へ移っていた。


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