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第二十章 ダンジョン化

あきの

「姫お姉ちゃん……ありがとう」

その声音は甘い。

だが底に沈む感情は、決して純粋ではない。

姫は微笑む――

姉としての顔で。

「……何のこと?」

あきの

「私のために、異世界帰還者のみんなを譲ってくれたんでしょ?」

「ええ。

 かわいい妹のための、特別扱いよ」

一瞬の沈黙。

あきのの瞳が、わずかに細まる。

そこには感謝でも敬愛でもない――

試す者の光があった。

「お姉ちゃんが失敗した、草密家の秘密部屋……

 私が“ダンジョン化”する前に、解決してあげる」

空気が変わる。

姫の笑みが、消えた。

「……いいわ」

声だけが、静かに冷たい。

「できるなら、やってみせなさい」

あきのは満面の笑みでガッツポーズを作り、

背を向ける。

その背中は――

勝者のそれだった。

特務機関課長

「草密家、完全ダンジョン化を確認。

 姫様、出動をお願いします」

姫は小さく呟く。

誰にも聞こえない声で。

「……異世界帰還者と“私”で無理だったのよ?

 それを――

 自分ならできると思ったの?」

スマホを取り出す。

「セント。

 迎えに行く準備、しておいて」

短い通話。

それだけで十分だった。

高級マンション前

車が静かに止まる。

「……本当にここ?」

見上げる先は、夜空を削る巨大な塔。

人の住処というより――

神殿に近い。

「“億ション”ってやつよね……」

運転手

「昨日もこちらで降ろしました」

「リビング二十畳……。

 どんな宗教的生活してるのよ」

セント

「宗教団体の人が、

 そのまま住んでいいって」

「……何かされてない?」

セント

「たまに人が来て、

 手を合わせて帰っていく」

沈黙。

姫はため息をつく。

「……その問題は後回し。

 ――仕事よ」

草密邸

空気が、腐っている。

壁が軋む。

床が脈打つ。

見えない何かが、家全体を呼吸させている。

「やめて! このポルターガイスト!」

「室内でファイヤーボール撃つなぁ!!」

混乱の中心から――

ケンタが二人を抱えて飛び出し、

ハルトはナギを背負って転がり出る。

ナギ

「だから嫌だって言ったのにぃ……!」

ヒマリ

「一回失敗したのに再挑戦!?

 嫌がらせ!?」

あきの

「私は失敗してないから」

ヒマリ

「私たちは“実物”がないと無理なの!!」

ケンタ

「まあまあ落ち着け。

 俺たちのこと、まだ知らないだけだろ」

――その言葉は、

未来の敗北フラグにも聞こえた。

全員をワゴンへ押し込み、

あきのは去る。

まるで――

舞台を譲るように。

静寂

「……今ね。

 一番、都合がいい時間なの」

セントを見つめる。

「やっちゃって」

セントの顔が――

牡羊へ変わる。

「……ほんと、かわいい」

その瞬間。

セントの影が裂け、

複数の死神が這い出す。

音もなく屋敷へ侵入。

やがて――

人影を引きずり出し、

闇へ溶け、

存在ごと消した。

セント

「……入りますか?」

四大元素の杖

姫は杖を掲げる。

エジプト十字。

左に火。

右に水。

下に土。

上に空。

「これは――

 見えないものを、見えるようにする杖」

コイン

「ただの飾りにしか見えない」

「地に触れ、

 水面を覗けば――」

水が震える。

映ったのは、

この世に存在しない“何か”。

コイン

「……これが、残骸か」

姫は微笑む。

「イエス。エクセレント。

 セント――

 まだ“核”が残ってる」

影が、再び伸びた。

背後の気配

あきの

「――お姉ちゃん。

 ご苦労様」

振り返る姫。

あきのは、

最初から全部見ていた顔で立っている。

「ここから先は――

 私のダンジョンだよ?」

姫は静かに答える。

「……まだ休んでていいのに」

その言葉の意味は、

労りか

宣戦布告か――

誰にも分からない。

ただ一つ確かなのは。

この瞬間。

姉妹戦争の火蓋が、静かに切られた。


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