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『町VS町長』

 朝の役場。


 高橋は、机に山積みの書類を見て絶句した。


「えっと、これ全部、今日中に目を通せと……?」


 昨日までは「イベントの進行」が仕事だった。

 今は「町のルールを守らせる」仕事が加わった。


 しかも、そのルールを守らないのが町長だ。


 ……いや、正確には元町長だが、まだ権威を振りかざす。


 午前の会議。


 元町長は笑顔でやってきた。


「いやあ、高橋君、町が動いてるじゃないか」


 その笑顔の奥に、刃が光っている。


「……ありがとうございます」


 返事は精一杯の笑顔。

 噛み合わない。


 まず問題になったのは、町おこしイベントの予算だ。


「その予算、私の承認なしに使ったのかね?」


 元町長は、書類の山を叩く。


「えーと……代行ですから……」


 説明すると、会議室に緊張が走った。


「代行? 代行って何だ! 本当に権限あるのか!」


 無人島なら、この瞬間、参加者が叫んで「勝負だ!」となる。

 町では、机を叩きながら言い争うだけだ。


 そこに農協支部長の石田さんが割って入る。


「高橋代行の言う通りです。今回の活動で町は活性化しました」


「ふん、数字だけじゃ!」


 元町長の言葉に、石田さんが眉をひそめる。


 俺は、両方の顔を交互に見る。


「えっと……まあ、どちらも正しいです」


 正直すぎて、再び会議室がざわつく。


 午後、町内視察。


 俺は住民と一緒に空き家を回る。


「これは面白い試みだ」

「でも、私には合わない」


 正反対の意見が入り乱れる。


 無人島で言えば、これは“全員が敵か味方かわからない状況”だ。

 町では、敵も味方も笑いながら文句を言う。


 問題は小さなルール違反から始まる。


「放置自転車がミッションエリアに入ってます!」


 役場の職員が叫ぶ。


「え? これ、昨日までは“町の装飾品”扱いだったんじゃ……」


 住民も笑い出す。

 元町長は顔をしかめる。


 こういう細かいことが、政治バトルの始まりだった。


 夕方の会議で、俺は決断した。


「町おこしのルールは、柔軟にいきます」


 元町長は眉をひそめる。


「柔軟? 規則を無視するのかね?」


「いいえ。状況に合わせます」


 その言葉で、住民がざわめいた。


 無人島では、臨機応変が生き残るコツだ。

 町では、それが「新しい政治スタイル」になりうる。


 夜、役場を出ると、町の夜景が広がっていた。


 静かだ。

 でも、町には動きがある。


 反発もある。

 失敗もある。

 だが、笑いながら次を考える人たちがいる。


 高橋は思った。


「政治って、無人島よりずっと面白い……」


 そう、無人島では経験できなかった「人間同士の心理戦」と「笑いの連鎖」がここにある。


 町長代行、高橋。

 小規模政治バトルは、まだ序章にすぎない。

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