『疑似サバイバル週間、開幕』
疑似サバイバル週間は、月曜日の朝、役場の放送から始まった。
『本日より、全町参加型イベント「疑似サバイバル週間」を実施します』
俺の声が、町中に流れる。
自分の声をスピーカー越しに聞くのは、無人島の最終日以来だ。
『期間は一週間。参加は自由。脱落はありません』
この「脱落はありません」という一文を入れるかどうかで、
会議は三十分もめた。
無人島では、脱落は前提だ。
町では、前提にしてはいけない。
最初のミッションは「拠点づくり」だった。
と言っても、家を建てるわけじゃない。
空き家や空き店舗を、「人が集まれる場所」にする。
開幕一時間で、問題が起きた。
「鍵がない!」
当然だった。
無人島でも、最初に起きるのはだいたい同じだ。
役場の倉庫から鍵束が運ばれ、
誰も番号がわからない。
「この鍵じゃない」
「それも違う」
「……もう壊すか?」
それはやめてほしい。
商店街のおばちゃんチームは強かった。
「どうせ使ってないんだから!」
空き店舗を一瞬で掃除し、
気づけば「休憩所」ができている。
「ここ、物々交換所にしよう」
誰が言い出したのかはわからない。
だが、その日のうちに、
・野菜
・手作り漬物
・なぜか新品のタオル
が並んだ。
無人島なら、通貨は貝殻だ。
この町では、漬物が強い。
一方、農家のおじいちゃんチームは畑にいた。
「これをミッションにするのはズルい!」
と言いながら、顔は楽しそうだ。
若者たちが手伝いに来て、教え方が熱い。
「腰を入れろ!」
「それは草じゃない!」
畑が、一時的に観光地になった。
問題も当然起きる。
「ミッションの定義が曖昧だ!」
腕組み若者が文句を言ってきた。
「これはクリアなのか?」
無人島なら、俺が決める。
だが町では――
「みんなで決めよう」
その一言で、なぜか三十分の話し合いが始まった。
民主主義って、やっぱり雑だ。
二日目、観光客が来た。
「何やってるんですか?」
「サバイバルです」
「町で?」
「町で」
説明すると必ず笑われた。
だが、写真は撮られ、SNSに上がった。
ハッシュタグは
#町が生き延びてる
誰が付けたのかは知らない。
三日目、事件が起きた。
鹿が拠点に入ってきたのだ。
「サバイバル感あるな!」
「いや、リアルすぎる!」
無人島なら、これは“強制イベント”だ。
町では、役場が本気を出す。
結果、鹿は無事に追い払われ、
翌日から「鹿対策ミッション」が追加された。
誰が得したのかはわからない。
四日目、疲れが出始めた。
「もういいんじゃない?」
「普通の生活に戻りたい」
その声は、予想していた。
無人島でも、四日目はだいたいそうなる。
俺は、会議でこう言った。
「休んでいいです」
「でも、見てるだけでも参加です」
それで、少し空気が軽くなった。
五日目、予想外の光景を見た。
最初に怒っていたおじさんが、
子どもにミッションを説明している。
「ここを掃除したらクリアだ」
その背中を見て、
俺は少しだけ、報われた気がした。
最終日。
大きな成果はなかった。
劇的な成功もない。
だが、
・空き家に人が集まり
・町で知らない人同士が話し
・「またやろう」が生まれた
それだけで、十分だった。
夜、役場に戻ると、
職員がぽつりと言った。
「……本当に、生き延びましたね」
俺は笑った。
「無人島より、ずっと難しいです」
疑似サバイバル週間は終わった。
だが、町の中には、確かに何かが残っていた。
無人島で言えば――
火が消えなかった夜だ。




