『町おこし会議、開幕』
町おこし会議と聞いて、俺が想像していたのは、せいぜい十人くらいの集まりだった。
現実は違った。
会場の集会所には、三十人以上が詰め込まれていた。
椅子が足りず、後ろでは立ち見が発生している。
「多くないですか?」
小声で役場職員に聞く。
「“町長代行が何かやるらしい”って噂が回りまして」
田舎の情報網は、SNSより速い。
俺は前に立った。
視線が集まる。
昨日まで「よくわからない若者」だった俺に、今日は「町長代行」というラベルが貼られている。
「えー……本日は、町おこし会議ということで」
言いながら、胃がきゅっと縮む。
無人島なら、ここで誰かが勝手に焚き火を始めてくれる。
だが今日は、誰も火を起こさない。
「まず、意見を聞きたいです」
そう言った瞬間、待ってましたとばかりに手が上がった。
最初に立ち上がったのは、農家のおじいちゃんだった。
「若いもんが来ない!」
即答だった。
「来ても続かん! 三日で帰る!」
「三日はもった方ですか?」
「もった方だ!」
会場が笑った。
次に、商店街のおばちゃん。
「店が潰れた!」
「潰れた理由は客が来ないから!」
「客が来ない理由は町が元気じゃないから!」
循環論法が完成している。
その後も止まらない。
「道が暗い!」
「バスが少ない!」
「Wi-Fiが遅い!」
「そもそも町おこしって何だ!」
俺は、ホワイトボードにひたすら書いた。
無人島で言えば、これは“不満の吐き出しフェーズ”だ。
ここを乗り切らないと、誰も本気で動かない。
「はいはい、若い人の意見も聞こう」
そう言ったのは、常に腕を組んでいる若者だった。
二十代後半。町を出たことがあるが、戻ってきたタイプ。
「俺は、別に町を変えたいわけじゃないです」
会場が静まる。
「でも、何も起きないのは嫌です」
いいことを言う。
無人島なら、このタイプはだいたい中盤でリーダーになる。
俺は、意を決して言った。
「じゃあ、町をフィールドにしましょう」
全員が首をかしげた。
「この町を、一つのゲーム会場だと思ってください」
「町で遊ぶんですか?」
「真面目にやれ!」
怒号と笑いが混ざる。
「ルールを決めます」
「ミッションを作ります」
「達成したら、ちょっといいことがある」
「いいことって何だ?」
「……考えます」
正直だった。
農家のおじいちゃんが言った。
「畑手伝わせるのはミッションか?」
「立派なミッションです」
商店街のおばちゃん。
「店番させるのは?」
「高難度です」
会場がざわつく。
人は、自分の得意分野が“価値になる”とわかった瞬間、顔つきが変わる。
ここで、さっき怒っていたおじさんが立ち上がった。
「それで、誰が責任取るんだ」
静かだが、重い声。
俺は、逃げなかった。
「俺です」
即答した。
無人島では、主催者は全部の責任を取る。
それだけは、揺るがない。
沈黙。
そして、誰かが笑った。
「若いのに覚悟あるな」
拍手が起きた。
なぜか、拍手だった。
田舎の合意形成は、理屈より空気だ。
最後に、俺は言った。
「とりあえず、一週間やりましょう」
「短いな!」
「長いです」
「失敗したら?」
「無人島では、だいたい失敗します」
笑いが起きた。
「でも、生き残ってます」
その一言で、会議は終わった。
会議後、誰かが言った。
「なんだか、楽しそうだな」
それで十分だった。
町おこしは、計画書から始まらない。
人が「ちょっとやってみるか」と思った瞬間から始まる。
町長代行、高橋。
次のフェーズに突入である。
無人島で言うところの――
初日の夜だ。




