表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

『火のあと』

 春。

 町の桜は、今年も同じ場所で咲いた。


 役場の建物は変わらない。

 看板も、窓も、少し古くなっただけだ。


 だが――

 中にいる人間は、少しだけ変わった。


 高橋は、観光課の隅の机に座っている。

 肩書きはない。

 嘱託。週三日。


 誰も、彼を町長代行とは呼ばない。


 それでいい。


「高橋さん、これ見ました?」


 若い職員が、チラシを持ってくる。


「川辺の小さな市」


 派手なロゴも、煽り文句もない。

 主催は、商店街と有志。


「許可、通しておきました」

「規模、かなり小さいですけど」


 高橋は、笑った。


「十分だよ」


 外では、商店街のおばちゃんがテントを立てている。

 農家のおじいちゃんが、野菜を並べる。


 人は多くない。

 テレビも来ない。


 でも、

 笑い声はある。


 南川町の若い職員・佐々木も、来ていた。


 今は、異動でこの町にいる。


「……あの時は、すみませんでした」


 高橋は、首を振る。


「守ろうとしたんだろ」


 佐々木は、少し泣きそうに笑う。


「はい」


 川辺。

 子どもが石を投げ、

 水面に波紋が広がる。


 大きな火はない。

 でも、小さな火が、あちこちにある。


 高橋は、ベンチに腰を下ろす。


 無人島の夜を思い出す。

 あの火は、消えた。


 だが、

 町の火は、消えなかった。


 形を変え、

 目立たなくなり、

 それでも、残った。


 スマホが震える。


 知らない番号。


「もしもし」


「高橋さんですか」

「別の町で、

 少し相談したいことが」


 高橋は、空を見る。


「……話だけなら」


 電話の向こうで、

 安堵の息。


 通話を切り、

 川を見る。


 子どもが、転び、笑い、立ち上がる。


 町おこしは、成功でも失敗でもない。

 生き方の練習だ。


 高橋は、立ち上がる。


「よし」


 誰に言うでもなく。


 桜の花びらが、

 静かに、川に落ちた。


 火は、もう燃え上がらない。


 でも――

 消えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ