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『崩れる前の音』

 深夜二時。

 高橋のスマホが、机の上で震え続けていた。


 通知。通知。通知。


 画面いっぱいに流れる文字。


【続報】町おこし事業、裏で業者癒着か

 内部関係者「出来レースだった」

 新たな音声データ流出


 高橋は、ゆっくり再生を押す。


 ――「まあ、最初から決まってたようなもんだろ」

 ――「形だけ公募して、実際は……」


 雑音混じりの音声。

 だが、声は知っている。


 石田だ。


 高橋は、何も言えなかった。


 石田が、青ざめて立っている。


「……違います」

「切り取られてます」


「わかってる」


 だが、世間はわからない。


 SNSは、完全に燃えていた。


「やっぱり癒着」

「税金泥棒」

「全員グル」


 町議会、緊急招集。


 議場は、怒号で満ちていた。


「町長代行の監督責任だ!」

「説明責任を果たせ!」

「即刻、事業停止を!」


 南川町から、撤退の連絡。


「これ以上、関われない」


 県からも、通達。


「事業、当面凍結」


 高橋は、椅子に深く座った。


 火は、酸素を得すぎた。


 外では、役場前に人だかり。

 報道陣。

 プラカード。


「説明しろ!」

「嘘つき!」


 商店街のおばちゃんが、遠くで立っている。

 声をかけられない。


 夜。

 高橋は、一人、会議室に残る。


 無人島の最後の夜。

 火が消えかけ、

 誰も喋らなかった時間。


「……同じだな」


 そこへ、石田が入ってくる。


「辞表、書きました」


 高橋は、顔を上げない。


「俺が辞めれば、

 火は消える」


 石田の声は、震えている。


「町は助かる」


 高橋は、ようやく彼を見る。


「違う」


「え?」


「火は、

 誰か一人が消えても、止まらない」


 沈黙。


 そのとき、

 机の上のスマホが光る。


 一本のDM。


「全部、知ってます」

「本当のリーク元も」

「明日の朝、記事が出ます」


 高橋は、天井を見る。


「……完全に来たな」


 窓の外。

 町の灯りが、また一つ消えた。


 崩壊は、音を立てずに進む。

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