『火は、内側から漏れる』
朝。
高橋は、スマホを見て動きを止めた。
通知、三桁。
トレンド欄に、見慣れた言葉。
#税金の焚き火
#危険な町おこし
#誰のための祭り
切り取られた映像。
山本議員の「感情論だ」という場面だけが、何度も再生されている。
コメント。
「老人の自己満足」
「無責任」
「事故が起きたら逃げる気だろ」
高橋は、無人島で見た“夜の海”を思い出す。
どこまで行っても、足場がない。
「……来てますね」
石田が、青い顔で言う。
「県にも、抗議が入ってます」
その瞬間、
一本の匿名メール。
件名:内部資料について
添付:予算案(未公開版)
高橋の指が止まる。
「……誰かが、漏らした」
開いた瞬間、
最悪の数字が並ぶ。
安全対策費、削減案。
広報費、増額。
「これ……修正前のやつだ」
石田が言う。
「否決された案ですよ。
でも、外から見れば――」
「“安全を削って、目立とうとした町”だ」
高橋は、机に手をついた。
その頃、ネット記事。
「町おこしイベント、内部資料流出
安全対策費削減の可能性」
火は、もう焚き火じゃない。
山火事だ。
昼。
役場に、県から電話。
「説明を求めます」
「至急、会見を」
南川町からも、メッセージ。
「議会が紛糾している。
うちも巻き込まれる」
高橋は、深く息を吸う。
「……内部リークだ」
「誰が?」
石田の問いに、高橋は答えなかった。
答えは、ほぼ一つしかない。
山本議員。
だが、証拠はない。
夕方。
役場の廊下。
高橋は、山本とすれ違う。
「……大変ですな」
山本は、どこか満足そうだ。
「町民のためです」
「危険な企画は、止めねばならん」
高橋は、睨まなかった。
「そうですね」
その夜。
会見室。
フラッシュ。
マイク。
「安全対策費を削減するつもりだったのでは?」
「内部資料は本物ですか?」
「責任は誰に?」
高橋は、マイクを握る。
「資料は、本物です」
どよめき。
「しかし――
その案は、採用されていません」
「危険を承知で進めたのでは?」
「いいえ」
高橋は、正面を見る。
「危険を、議論したんです」
静まる。
「町おこしは、
安全か、危険かの二択じゃない」
「どこまでなら挑戦できるか。
どこからが無謀か」
「それを、町民と一緒に決める。
その過程ごと、公開しました」
一瞬、記者が黙る。
だが、SNSは止まらない。
「言い訳」
「後出し」
「どうせ隠してた」
会見後。
石田が呟く。
「……厳しいですね」
高橋は、夜の町を見る。
商店街の灯りが、少し少ない。
「無人島なら、
ここで誰かが倒れる」
高橋は言った。
「でも町は、
倒れる前に、割れる」
そのとき、
石田のスマホが鳴る。
「……え?」
顔色が変わる。
「どうした」
「リーク元、
山本議員じゃありません」
高橋が振り向く。
「……誰だ」
石田は、震える声で言った。
「役場内部です」
火は、
外からじゃなく、
内側から燃えていた。




