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『町長になったのは無人島のせい』

 高橋です。三十歳。職業は――と聞かれると、毎回少し困る。

 名刺には「無人島対抗戦 主催者」と書いてある。


 何を言っているかわからないと思うが、安心してほしい。俺も最初はわからなかった。


 無人島対抗戦というのは、文字通り無人島を舞台に、参加者たちがチームに分かれて生き残りを競うイベントだ。火起こし、拠点づくり、食料調達、交渉、裏切り、同盟、泣き落とし。だいたい人間の良いところと悪いところが、満遍なく詰まっている。

 俺はそれを企画し、スポンサーを探し、参加者を集め、島を借り、保険に入り、最終的に「今回は死人が出なくてよかった」と胸をなで下ろす係である。


 そんな俺が、なぜ田舎町の町長になっているのか。


 結論から言うと、完全な手違いだ。


 その町は、山と川に挟まれた、人口三千人に満たない田舎町だった。

 駅は無人、コンビニは車で二十分。夕方になると、鹿が人間より堂々と道路を歩いている。

 名前は伏せるが、伏せなくても誰も知らないと思う。


 俺がその町を訪れたのは、無人島対抗戦の新企画で「過疎地×サバイバル」をやろうと考えたからだ。町の空き家を使って拠点構築、山での食料調達、住民との交渉ミッション――我ながら、企画書は光っていた。少なくとも、都会の会議室では。


 町役場に挨拶へ行くと、町長が出てきた。

 白髪で、背が低く、笑顔がやたらと優しい。人の話を聞く前から、もう肯定している顔だった。


「おお、若い人が来てくれた。立候補の話かね?」


「いえ、無人島対抗戦の――」


「そうかそうか。無所属か。最近は無所属が強いからな」


 会話が噛み合っていない気はしたが、田舎の役場ではよくあることだ。たぶん。

 その日はお茶と漬物を出され、「期待してるよ」と肩を叩かれて帰った。


 数週間後、俺のもとに一通の封筒が届いた。


 『当選証書』


 意味がわからず、三分ほど固まった。現実感が追いつくまで、さらに二分かかった。


 どうやらこういうことらしい。

 町長選挙の立候補者が、現職と、名前が似ている別人と、そして「高橋(無所属)」だった。


 俺は立候補していない。

 だが、町役場で書かされた「企画概要書」と「連絡先」が、なぜか立候補届として処理されていた。


 しかも、票が割れた結果、なぜか俺が勝った。


「若いし、なんか面白いことやりそうだから」


 それが住民の主な投票理由だったらしい。民主主義って、意外と雑だ。


「いや無理ですって!」


 俺は即座に辞退を申し出た。笑い話で済ませるつもりだった。

 だが、町長はもう引退旅行の計画を立てており、役場の職員は全員「まあ、なんとかなりますよ」と笑っていた。


「無人島で人まとめてたんでしょう? 町も似たようなもんですよ」


 似てねえよ。


 だが、辞退手続きには時間がかかるらしく、その間「町長代行」をやることになった。

 そのとき、ほんの一瞬だけ思った。

 ――これ、冗談で済まなかったらどうしよう。


 それが、地獄の始まりだった。

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