番外編短編・クリスマスのスパイスケーキ
時間の流れが早い。あっとう間だと岡辺明日香は思う。
久しぶりに北欧カフェ・午後三時のフィーカに向かっていた。転職活動がうまくいかなく、ここでお世話になりながら、カウンセラーになる夢も見つけた。
今も時々、店を手伝ってはいたが、カウンセリングの学校に行ったり、動画を作ったりなどなど夢へ向けて忙しく、なかなか来れなかった。
「て、店長。お久しぶりです」
久々に会う店長にも緊張した。声もうわずってしまうが、店は白を基調とし、オーロラやサウナの絵も映えている。レジ横のガラスケースは売れ切れでほとんど空だったが、シナモンロールがひとつ残っていた。
「明日香ちゃん、お久しぶり」
一方、店長はいつも通りにこやか。
フィンランドと日本のハーフである店長、外見はちょっととっつきにくそうに見える。いわゆるイケメンだが、ここの北欧菓子はどれも素晴らしい。
今日はもう閉店間際だったので、他に客はいないが、二人でゆっくりとフィーカを楽しむ。フィーカは北欧のお茶時間の名前だ。
「ミャア!」
看板猫のムンキがゴロゴロいってる。よっぽど退屈しているのか、明日香にも絡んできたが、ちょうどその時、店長がケーキとコーヒーを持ってきた。
見た事もないケーキだった。見た目はチョコレートケーキで、生クリームもたっぷり。でも、匂いが普通のケーキと全然違う。オレンジやカルダモンやシナモンの匂いがし、日本のケーキ屋では嗅いだことのない匂い。
「店長、このケーキ、なんです?」
「これは北欧のクリスマスのスパイスケーキスパイスの配合は各家庭に伝わっていて、これはうちのおばあちゃんの特別のレシピで作ったケーキ」
「つまり?」
「ここでしか食べられない特別なケーキ!」
店長は子供みたいに目をキラキラとさせ、胸を張っている。明日香も思わず笑ってしまい、猫のムンキを膝の上に乗せると、ケーキを食べてみた。
想像以上にスパイスの濃厚な風味が広がる。それがチョコレートや生クリームの甘さと溶け合い、なんとも言えない。口の中が幸せ。うっかり明日香も笑ってしまう。
「他にもスパイスパウンドケーキやフルーツケーキも作ってる。こっちは日持ちするから、クリスマスまで待つ用に」
「もしかしてアドベント?」
「そう!」
店長はさらに無邪気に笑っていた。クリスマスまで待つためのケーキ、いっぱい作っているらしい。
フィンランドでもアドベントとし、こういったケーキは一般的だというが。
「たまには待つのもいいね?」
「そうですね……」
明日香は深く頷く。今はまだ夢を叶えている途中。まだまだ結果は出ていないが、焦らず、待ってみるのも悪くないかもしれない。
「ミャー!」
なぜか猫のムンキは機嫌がよく、今度は店長の膝の上に飛び乗った。
「この子、元気過ぎない?」
店長の呆れた声に、明日香は笑ってしまう。今日のフィーカの時間も、穏やかに過ぎていく。




